第2話 闇
僕は必死に走った。もう現実から逃げたかった。感情をどう・だれにぶつけていいのか分からなかった。
走り切って疲れてしまった。
周りに誰もいない。森のなかで僕は大声で泣いた。まだ日が高い位置にある。とにかく泣いた。
ずっと泣いていると不思議なもので、落ち着いてきた。
「とりあえず、帰ろう。」
僕は帰ってみることにした。
家の前まで着いたが、ドアのまえで固まってしまう。怖い。怖いのだ。
この世界では教会で見た父親の態度が普通。きっとあの子はもう捨て子として森の中で生活するしかなくなる。そうなればもう待っているのは死だけだ。
僕は何度もドアノブをつかんでは離しを繰り返す。
さっきまでは夕日が沈みかけていたのに、今では既に日は沈んでいる。
僕が何度も繰り返しているうちに、ドアが開いた。
「あっ……。」
「エル……帰ってこないから心配したぞ!」
「エル……よかった、無事で。リエラちゃんからどこかに行ったって聞いて心配だったのよ……。」
僕はお父さんとお母さんに抱きしめられた。本当に優しい人たちだ。でも言わなきゃ……今日の事を。僕が価値のない人間だってことを。
「あの……あ、あの、て、適正……。」
ダメだ。怖くて言えない……。
体が震えて、目に涙が浮かぶ。親から、一番大切で身近な人から切り離される現実を見たくない……怖い。
「エル……大丈夫だ。お父さんもお母さんも知っている。無理して言わなくていい。」
「えっ……?」
僕の頭は混乱した。
「え……知ってるってなんで……。」
「リエラちゃんが教えてくれたのよ。あの子伝えに来た時に、あなたのことすごく心配してたわ。私がエルの分まで頑張りますから、どうか見放さないでくださいって、頭下げに来たのよ。」
「リエラ……。」
「まっ…お前に適正があろうがなかろうが関係ない。お前は俺の息子で、大切な家族だからな!」
「お父さん……痛いよ……。」
お父さんがお母さんと僕を強い力で抱きしめてくる。痛いけど、とっても嬉しい。
「よしっ、今日はもう寝よう!遅くなっちゃったしな!」
「うんっ……!」
家族みんなで布団に入り寝る。いつもの事なのに僕はすごく幸せ者だったのだと実感したのだった。
朝が来る。
僕はいつものように村の子供たちと遊びに出かける。
「行ってきます!」
「気を付けるのよ~!」
お母さんから見送ってもらった。
「エルっ!気を付けるんだぞ~!!」
「うんっ!」
畑からお父さんの声が聞こえた。
いつもの平原で集合する。
「エルっ……!!」
リエラからいきなり抱き着かれた。
「リエラ?」
「良かった……心配したんだから!」
「ごめんね、ちょっといろいろと考えちゃって。」
「おっ……お荷物君じゃん~!」
「リエラの寄生虫だ~」
周囲から嘲る声が聞こえる。
僕は言い返す言葉が無かった。だってそれは僕自身が一番思っていることだったから。
「ちょっと!みんななんで!昨日までみんな仲良く遊んでたじゃない!」
リエラが返してくれる。
「だったそいつは魔法適性無しなんだぜ?ゴミじゃねえか!?」
「そうだ!そうだ!リエラもそんな奴じゃなく、俺らと遊ぼうぜ?」
「ご、ごめんね。僕、邪魔しちゃったよね……。帰るね……!!」
必死に泣かないように我慢して逃げる。
「あっ……エルっ!!」
リエラが追いかけてくる。
「なん~だ、あいつら。リエラもよくわかんねえの。」
「ま、いいじゃん。遊ぼうぜ!」
「「「賛成~!」」」
「ん?あれってなんだ?なんか来てないか?」
僕は必死に逃げる。もう消えたかった。家に帰ったらみんなからはぶられたことがばれてしまう。僕はまた森へと逃げ帰った。
「はあ……はあ……はあ……。」
遅れて同じ吐息が聞こえてくる。
「はあ……はあ……はあ……。エル……。」
「リエラ……僕についてきたらみんなからはぶられちゃうよ……?」
「いいの、私はエルの方が大切だから。」
「リエラはなんでそんなに僕に優しくしてくれるの?」
「エルは覚えてるか分からないけど、4歳のころに私が病気で顔ができものだらけになったじゃない?その時にエルは私と普段通りに接してくれた。私を気持ち悪いって言う人から守ってくれた。石を投げられたときに自分が当たって私に当たらないようにしてくれた……。私は、その時からエルの事を……す、」
ドオオオオオオオオンン!!!!!!!
耳が壊れるかのような衝撃音と共に立っていられないほど地面が揺れる。
「な、なんだ?」
「えっ……エル……あっちって村の方じゃない?煙が上がってる……。」
「行かなくちゃ……!!」
リエラが行こうとするのを必死に止める。
「無理だよ、リエラ!とりあえず、隠れていよう!ものすごく強いモンスターかもしれない!いくらリエラが強い魔法適性を持ってたって、まだ使えないでしょ!」
「でも、でも、お父さんとお母さんが……。」
「それは僕だって同じだよ!でもお父さんとお母さんが言ってたんだ。村に何かあったら躊躇なく森に逃げて、隠れろって。」
リエラは僕の意見を受け入れてくれた。
僕とリエラは樹の幹の中の空洞に隠れる。
徐々に揺れが強くなり、こっちに向かってきている。
僕とリエラはとにかく声を出さないように口を押えながら、息をひそめる。
ドオオオオオンン!!!!!
ドオオオオオオオンン!!!!!!
ドオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!
もう何かがまじかに迫っていた。
心臓の音がうるさい。恐怖で壊れそうになりながら、リエラの手を握る。
隙間から見えたそれは、体長10mはある巨大なモンスターであり、龍のような見た目をしていた。
ドオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!
ドオオオオオオオンン!!!!!!
ドオオオオオンン!!!!!
少しずつ足音が遠くなっていく。徐々に足音が消えていった。
僕とリエラは急いで村へと走った。
必死になり走った。
僕らが着いた時には既に村は燃えて、人の声は一切消えていた。




