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僕の人生にはすべて「5」がつきまとう

作者: たこす

 僕の今までの人生において「5」という数字は常についてまわった。


 生まれたのが平成5年5月5日5時55分。

 体重が3555g。

 生まれた場所が市内の5丁目55番地にある五味ごみ産婦人科。

 さらには担当した医師が医院長の五味医師で、助産師さんも五十嵐いがらしさんという女性の方だったらしい。


 ここまで偶然が重なるとさすがの両親も「5」にまつわる名前が欲しいということで、僕を「五郎」と命名した。


 五木曽ごきそ五郎ごろう


 それが僕の名前だ。

 苗字にまで「5」が絡んでいるのだから恐ろしい。



 そんな僕は、ことあるごとに「5」という数字に深い関係を持たされた。


 小学校の頃、交通事故にあったのが5年生の時。

 午後5時55分、母親の車に乗っていたところ、5台の車が絡み合う玉突き事故に巻き込まれた。

 その事故では奇跡的に亡くなった人はいなかったものの、僕は全身を強打して5か所の骨折をした。


 かつぎこまれた病院で治療を受け、入院を余儀なくされたものの、病室は5号室。


 さすがにその時は「病室を変えて欲しい」と泣きながらに訴えたが、却下された。

 でもその病室で5人の患者さんと仲良くなり、結果的には5号室でよかったと思う。



 その頃から、僕は医者になりたいと思うようになった。

 自分を救ってくれた医者に憧れたのと同時に、自分も誰かを助けたいという想いが芽生えたからだ。

 それに、この数奇な運命を医学的に解明できるのではないかとも思えた。



 僕は必死で勉強した。

 父におねだりして高い医学書を買ってもらい、猛勉強した。

 おかげで中学・高校とそれなりにいい成績をキープしていた。


 すなわち学年5位。

 4位でも6位でもなく、5位。


 幸か不幸かこの時でも「5」という数字はついてまわった。

 ひたすら勉強しても4位にはなれず、多少試験でミスをしても6位には落ちなかった。

 ただ、勉強をしなければ55位まで落ちる可能性はあったため、4位以上にはなれなくとも勉強だけは必死にやった。




 その結果、僕は医学部に合格し、医者の道を本格的に歩み始めた。


 その頃から、仲のいい女の子が一人いた。

 名前は五条ごじょうかえで

 裕福な家庭の子らしいが、よくはわからない。

 とにかくよく笑う子で、僕の境遇を面白がって聞いていた。


 彼女もまた、僕と似た人生を歩んでいたという。

 平成5年5月5日午後5時55分生まれ。

 僕のちょうど12時間後に生まれたのが彼女だ。


 生まれた場所や時間は違うものの、僕は何か運命的なものを感じていた。

 きっと彼女もそうだったのだろう、よくちょっかいを出してきた。


「五木曽くんって見た目も数字の5っぽいよね」


 数字の5の見た目ってどんなだよ、と思い僕も負けじと言い返した。


「五条さんも数字の5みたいなファッションしてるよね」

「お、わかる? そうなの、今最先端の五条ファッションなの」


 どうやら彼女のほうが一枚上手うわてだったらしい。

 僕の冗談も軽く受け流していた。



 そんな彼女と付き合いだしたのは、平成25年の5月5日だった。

 奇しくも同じ誕生日の日だ。


「付き合ってください!」という僕に、彼女も「付き合ってください!」と同時に言ったのが始まり。


 まさか彼女も僕の事が好きだったとは思わなくて、互いに同時に「お願いします」と言って笑い合った。


 同じ年の同じ日に生まれた僕たちが偶然出会い、恋人になる。

 なんだか運命めいたものを感じた。



 僕らの交際は順調だった。

 大学でもプライベートでも、愛を育んだ。


 面白いことに、五条さんと一緒に行動していると「5」に関わる出来事がさらに増えていった。


 たまたま遊びに行った動物園では「開業50周年記念」という催し物をやっていたり、たまたま入ったレストランでは「祝! 本日のお客様500名様め!」と盛大にお祝いされたり、たまたま立ち寄ったケーキ屋さんでは「本日の限定スペシャルケーキ残り5個」となっていたり。


 とにかく、ありとあらゆる出来事が「5」にまつわるものだった。

 もちろん悪いこともあり、例えば赤信号で引っかかると後は5回連続で赤信号にひっかかったりもした。



 そんな感じで、僕らの生活には常に「5」という数字がついて回ったものの、悪い事ばかりではなかったので不自由はなかった。


 そんなある日、五条さんが言った。


「それにしてもなんで私たちって5がいつもついてまわるんだろうね」


 彼女の言葉に僕も「なんでだろうね」と頷く。

 ここまで5という数字がつきまとうのには何か理由があるのだろうか。


「試しにさ、5がつかない日に何か記念になることやってみる?」

「5がつかない日に記念になること?」

「そ。二人で大々的に何かをするとか」


 そんな五条さんの提案に、僕は消極的だった。

 今まで「5」にまつわる出来事は数えきれないほど経験したけれど、あえて関係ない数字に挑戦してみるのは、ちょっと怖い気がした。


「うーん、どうだろ。なにか変なこと起きないかな?」

「試すだけよ。何もなければそれでいいし、何かあったら5のつく日にやり直せばいいだけだし」


 サバサバしてて怖い物知らずなのが彼女の良いところでもあり、悪いところでもある。

 これでとんでもないことが起きたらどうするんだろう。


 でも彼女は譲らなかった。

 一度決めたらテコでも動かない、それが五条さんだ。


 僕は渋々承諾した。

 とりあえずやってみるだけやってみることにした。

 それで何かあったら、彼女の言う通り5のつく日にやり直せばいいんだし。


「でも、記念になることってどんなことするの?」

「そうねえ。例えばプリクラで記念写真を撮るとか!」

「プ、プリクラ……」


 これ、絶対プリクラ撮りたいだけだなと思った。


 五条さんは昔からプリクラにすごく憧れてたらしい。

 友達がプリクラでわいわい楽しんでるのを、横目で羨ましそうに眺めてたんだそうだ。

 でも家族はもとより一緒に撮る友達もおらず、一度も撮ったことがないと言っていた。


 僕も付き合ってから何度か誘われたけど、恥ずかしくて一枚も撮ったことがない。


「五木曽くんとプリクラなんて、ものすごく記念になると思うんだけど」


 プリクラなんて記念としてはちょっと弱い気もするけど(失礼)、でも逆にそれくらいがちょうどいいのかもしれない。

 あまり重めの記念日を作っても、やり直しが必要だったら困るし。

 僕はこくんと頷いた。


「いいよ、やろう」

「ほんと!? やったー!」


 両手をあげて喜ぶ彼女を見て、プリクラを拒否ってた頃の自分を殴りたくなった。

 そんなに喜ぶんなら、もっと前からやってあげればよかった。



 そんなこんなで、僕らは「5」にまったく関係のない11月11日にプリクラを撮る約束をしたのだった。



     ※



 そして迎えた11月11日。

 待ち合わせ場所に来た五条さんを見て、腰を抜かしそうになった。


 なんと、彼女はプリクラのために晴れ着を着てきたのだ。

 首回りがモコモコして温かそうなやつだ。


「ご、五条さん?」

「五木曽くん、おまたせ」

「その格好……」

「うふふ、似合う? 今日の記念に着てきたの」


 初プリクラ記念に晴れ着……。

 やっぱり五条さんの思考は僕には計り知れない。


「五木曽くんは紋付き袴じゃないの?」

「いやいやいや! そんなの着ないよ!」

「だって、記念日だよ? 気合い入れてかないと」


 五条さんは気合いが入りすぎてるんだよ。

 なんて言えるわけもなく。

 でもそんな彼女の晴れ着姿がめちゃくちゃ綺麗だったので良しとした。


「それで、どこのプリクラにする?」

「駅ビルの中にゲームセンターあるじゃない? そこにあったはず。行こ」


 さすがは五条さん。

 すでにリサーチ済みのようで、僕の腕を引っ張って駅ビルの中へと入っていった。



 ゲームセンターにつくと、たくさんのプリクラ機が並んでいた。

 一昔前の顔だけを写す小さなものとは違って、今は全身を写せるらしい。


「これ! これやってみたい!」


 そう言って五条さんが指したのは、美白編集もできるやつだった。

 正直、ちょっと恥ずかしかったけど、ここまで来たら五条さんのやりたいものをやろう。


 プリクラ機に入ってお金を入れ、操作を始める。

 いろんなモードがあり、さらに細かい設定があり、よくわからないので全部彼女のしたいようにさせた。


「ほら、撮るよ!」


 3、2、1の合図とともに撮影される。

 そうして写し出されたのは、明るく笑う五条さんとカチカチに固まった僕の姿だった。


 それを見て五条さんが「プーッ!」と笑う。


「あははは! 五木曽くんの顔! 数字の5みたいな顔!」


 また言われた。

 数字の5みたいな顔ってどんなだよ。


「五条さんだって数字の5みたいな顔してるよ」


 負けじと言い返すと五条さんから「だってそういう顔で撮ったんだもん」とうまい返しをされてしまった。

 やっぱり彼女の方が上手うわてだ。


 それから何回かプリクラを撮って、ゲームセンターをあとにした。

 五条さんは僕と撮ったプリクラを本当に嬉しそうに眺め、メモ帳に大事に挟んでいった。



     ※



 不思議なことに、その日以降、5という数字が僕らの前から離れていった。


 大学の試験で常に55位をキープしていた僕は、なんと40位に順位が上がったのだ。

 五条さんも常に5位だったのが、今回の試験で3位という好成績をおさめていた。


 デートにおいても「5」に関することは一切起きず、逆に「10周年イベント」や「先着20名様」といった催し物ばかりが目に飛び込んできた。


 今まで常について回っていた「5」という数字から解放された。

 それはそれで純粋に嬉しかったが、ちょっと寂しい気もした。

 これからは「6」にも「7」にも「8」にもなり得るということだ。


「これって、あのプリクラの影響かな?」


 デート中、「300名様に豪華景品が当たる!」という看板を横目に見ながら僕は五条さんに言った。


「どうだろ。でも考えられるとしたら、それだよね」


 五条さんは五条さんで「会員20万名様突破キャンペーン開催中!」の立て札を見ながら答えた。


 心なしか緊張しているようにも見えた。


 それはそうだ。

 今まで大きなイベントは「5」が絡んでいたけど、今は関係ない。

 いつ何が起きるかわからないのだ。


 いいことも、悪いことも。



 今更ながら、僕らは「5」という数字に全幅の信頼を寄せていたのだなと思い知らされた。



 そしてその頃から僕らの関係はギクシャクし始めた。

 お互い緊張しながら出会い、口数も少なくなった。

 今までは話題に事欠かなかったのに、今では「5」という数字を避けるような会話しかできなくなった。


 さすがにこのままではまずいと思った僕は、五条さんに提案してみた。


「ねえ、五条さん」

「なに?」

「……もう一度、プリクラ撮ってみない?」

「プリクラ?」

「うん、今度は5のつく日に」

「……そうね、うん、そうしよ」


 五条さんも思うところがあったのだろう。

 僕の提案に素直に頷いた。


「じゃあ、今度は五木曽くんが紋付き袴で来てね」

「うん、わかった」

「え? ほんとにいいの?」

「だって記念日にしなきゃだもん。紋付き袴でのプリクラ記念」

「くすくすくす」


 僕の紋付き袴姿を想像したのか、五条さんは口をおさえて笑い出した。


「え? なんで笑うの?」

「だって、きっと七五三みたいな格好だと思うとおかしくて……」

「失礼な」


 憤慨しながらも、彼女の緊張感が和らいだのを見て少し安心した。

 きっと今よりも笑われるだろうけど、紋付き袴で来よう。


 そう誓った。




 けれども、その約束は果たせなかった。

 デートの帰り道、彼女が事故にあったのだ。

 僕と別れて一人で帰ってる途中で、居眠り運転をしていたトラックに轢かれたらしい。


 それを知らされたのは翌日、僕が大学に行ってからだった。

 五条さんと仲の良い友人が教えてくれた。


「五木曽くん、知ってる? 五条さんが事故にあったらしいよ」

「え!? 事故に!?」

「うん。幸い命に別状はなかったみたいだけど、今も意識がないんだって。この大学病院に入院してるよ」


 その言葉に、僕は慌てて病室に向かった。

 そこで見た彼女の姿に僕は愕然とした。

 五条さんはベッドの上で全身包帯に巻かれながら人工呼吸器をつけていた。


 あざだらけの顔には、自信満々で勝ち気に満ちあふれていた彼女の面影はない。


 なんてことだ。

 まさか五条さんが事故にあうなんて。


 僕は壁にかかっていたカレンダーに目を向けた。


 今日の日付は12月13日。

 事故に遭った日を逆算しても「5」という数字には絡んでいない。

 つまり、彼女は「5」という数字に関係なく事故にあったということになる。


 その事実にゾッとした。


 多くの人々は数字に関係なく生きている。

 でも僕らは「5」にまつわる数字で生きてきた。

 数字を意識せず生きるだけで、こんなにも毎日が怖くなるなんて思いもよらなかった。


 もしかしたら僕らは「5」という数字に縛られていたのではなく、守られていたのかも知れない。

 だとしたら僕のとる手段はひとつだ。


 2日後の15日、僕は紋付き袴を着て彼女と撮ったプリクラ機の前にいた。


 以前、「5」と関係ない日に記念プリクラを撮ったら「5」という数字が離れていった。

 ならば「5」にちなんだ日に記念プリクラを撮って「5」を引き戻そうじゃないか。



 一人で撮る記念プリクラは少し気恥ずかしかったが、こうでもしなければ僕の気がおさまらなかった。


「五条さん、待ってて。きっと良くなるから」


 コインを入れて一人でプリクラを撮る。

「七五三みたい」と言われた僕の姿は、モニターに映し出されるとなるほど、確かに七五三のようだった。

 硬い表情をした僕の姿に、なんだか涙がこみ上げてきた。

 僕はタッチペンで『祝! ひとりプリクラ記念日 12月15日』と文字を入れ、印刷した。


 これで「5」という数字が戻ってくるかはわからない。

 でも僕にはこれくらいしかできなかった。

 あとは願うのみだ。





 やがて。


 僕の携帯に一本の電話がかかってきた。

 五条さんの事故を教えてくれた友人からだった。

 なんと、五条さんが目を覚ましたというのだ。


 まさかこんなに早く効果が現れるとは。

 僕は電話を切ると慌てて病院に駆けつけた。



 病室には見知らぬ男の人と女の人がいた。おそらく五条さんの両親だろう。

 そしてベッドの上で横になってる五条さんの目はパッチリと開いてて、病室に駆け込んだ僕を見つめていた。


「五条さん!」


 声をかけると、彼女はニコッと笑った。


「五木曽くん……。やっぱり七五三みたいだね……」


 五条さんの言葉に、僕は紋付き袴のままだったことに初めて気づいたのだった。



     ※



 それからというもの、僕らのもとに「5」という数字が戻ってきた。

 どこへ行くにも、何をするにも必ず「5」という数字が関わってきた。


 でもそれでよかった。


 僕らは「5」に翻弄されてるわけじゃないのだから。

 むしろありがたいとさえ思えた。


「やっぱり今までのほうがずっといいね」

「うん、そうだね」


 これはもう運命なのだろう。

 なぜ僕らの人生において「5」が絡んでくるのかわからなかったが、もしかしたら神様のくれたプレゼントなのかもしれない。

 そう思うようになった。



 そして。



「五条さん、結婚してください!」

「五木曽くん、結婚してください!」



 令和5年の5月5日。

 見晴らしの良い公園でプロポーズをしたら、五条さんからもプロポーズされた。

 まさかのタイミングでお互いに笑ってしまった。

 確か告白の時も同時だった気がする。



「こちらこそ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」



 僕らは頭を下げて、笑い合った。


「やっぱり考えてることは一緒だったね」

「そうね」


 これから先もずっと僕らは「5」という数字に関わり合いながら生きていくのだろう。

 でも彼女となら素晴らしい未来が待ってると確信している。

 これほど運命めいた出会いはないのだから。


「ねえ、見て」


 五条さんが指さした先には時計があった。

 その時刻は、ちょうど午後5時55分を指していた。




おしまい


お読みいただきありがとうございました。


こちらは、数年前のラジオ大賞で「5」をキーワードとした短編を募集していた際に書いたお話でした。


そのための「5」なので数字に関しては特に深い意味はありませんが、

皆様にとっても馴染みのある数字、縁起の良い数字というものがあると思います。


二人はそれが特に顕著に表れた例だと思っていただければ幸いです。

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