38.謎の女性
〜ニオ・クレマー〜
僕が家のドアをノックすると、待ち構えていたかのように両親とジョーイが飛び出してきて、見事なまでに3人そろって地面に平伏した。
「「「サラ様、ようこそお越し下さいました!」」」
その勢いに、サラが思わず息を呑むのが分かった。
けれど、サラはすぐに笑みを浮かべ、柔らかい声で答える。
「あ、ニオのお父さんとお母さん。と、え〜〜〜っと、……お友達の方。どうぞ顔を上げてください。私は今日、ニオとティナの友人としてお伺いしましたので、気楽に接していただけると嬉しいです」
その言葉に、両親は恐る恐る顔を上げたものの、まだどこかぎこちない。けれども父は誠実に頭を下げながら口を開いた。
「この間は、うちの愚息と娘が本当に……本当にご迷惑をおかけしました。サラ様のご配慮には、家内ともども感謝しきりでございます」
母もすぐに続いた。
「このような粗末な家で、ろくなおもてなしもできませんが……どうぞ、よろしければお入りください。
ニオ、久しぶりね。あら、ずいぶん垢抜けて……! とりあえず、皆さんをご案内してちょうだい」
そう言って家に入ろうとした僕の両親に向かって、ティナが叫んだ。
「急に出て行って勝手して、迷惑も心配もかけて、本当にごめんなさい!!」
「……?」
きょとんとした顔で父が立ち止まった。
「……? えっと、ニオ?」
母は僕を手招きし、そっと耳打ちをしてきた。
「あのお嬢様も、うちのお客様? 今、あの方はどなたに謝っておられたのかしら?」
「……!、ハハッ」
僕は面白くなって、堪えきれず吹き出してしまった。
「ティナだよ」
「あらそう、ティナに話し掛けたの? そういえば、ティナはどこ?」
「だから、あの子」
「あの子?」
「あの子がティナなんだって」
「えっ!!!!!???」
母がまじまじとティナを見つめた。まるで、初めて見る有名な方でも見ているかのように、目を丸くして。
その視線に気づいた父が、気まずそうに咳払いをしながらやってきた。
「おいおい、他所様のお嬢さんをそんなにジロジロ見るもんじゃない。失礼になるだろう」
そのままティナに視線を移し、父は僕に不思議そうに尋ねた。
「ところであの方はどなただ? トマ様の奥方とか?」
父の言葉に、僕は思わず語気を荒げた。
「だからティナだってば、あの子が!!」
「へっ……!!!!????」
ふたり同時に口を開けて絶句する両親。静まり返る玄関先に、やけに場違いなほどに楽しそうな足音が近づいてきた。
ジョーイだった。
「ニオ、久しぶりだな! ところでどうしたんだよ、おじさんとおばさん。あの綺麗な方に見惚れてるのか? でも、まぁ分かるよ。すっげぇ美人だもんな~。サラ様は可愛いし。
……美しいお方と、可愛いお方……どっちもタイプだ……たまんねえ!
これは最高に迷う選択肢だな!」
ジョーイに至っては殴り飛ばした。
「イテッ、何すんだよ!?」
怒るジョーイの元に、ティナが駆け寄ってきた。
「あ、ジョーイ! ジョーイも心配かけてごめんなさい!」
「え、なんで俺の名前……」
一気に顔を赤らめ、モジモジと視線を泳がせて話せなくなったジョーイを、僕はもう一発殴っておいた。




