20.X-Day
婚姻の儀に際しては、国中に号外が配られたらしい。姿絵付きで。
配付後に、トマさんから見せられて絶句した。
『救国の乙女を虜にした美貌の男性、ティム・フォスター』とか書かれていて、死ねると思った。
「ふぇ〜〜!? 何コレぇ……」
熱く火照る頬を両手で抑えてしゃがみこむと、
「ホントだ、サラ様の言うとおり。お前カワイイわ」
と、指を差して揶揄われた。
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宣誓式、パレード、お披露目パーティの準備が急ピッチで行われていく。
てんこ盛りに用意された“据え膳”にげんなりしながら、私は仕度に明け暮れた。
サラが『X-Day』と呼んだその日は、図らずもニオの誕生日当日だった。
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「わッッ‼ 久々に視界の暴力来た‼」
『X-Day』が来て、私たちは教会の控室で顔を合わせた。
会って早々目を覆うサラに、なんだか懐かしさを憶える。
軽く肌を整えるメイクを施され、前髪は後ろに撫で付けて、白いタキシードに袖を通した私は、静かにサラのもとへ歩み寄った。
髪には生花を飾り、パールやビーズの刺繍があしらわれた純白のドレスを纏ったサラの姿は、まるで祝祭の光をそのまま形にしたようで、その美しさに思わず目を奪われた。
「可愛いオレの花嫁さん。今日はよろしくね」
私はサラの正面から、サラが目を覆っていた手をそっと引き剥し、跪いてその手の甲に恭しく口付けると、
「まるでホスト!! ティムがMAXチャラい! 解釈違い〜〜‼」
とサラは顔を赤くして怒るフリをした。
本日、私の側仕えの役割を担っているニオは、ただひたすら苦笑いをしていた。
花は咲いたので良しとする。
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いよいよ宣誓式の刻。
この宣誓式は、サラのイメージと、シーグル検索結果を合わせた、チキューの主立った宗派で行われている方式を取り入れていた。
教会に、上流階級の方々が参列者として着席する。
祭壇の奥に司式者となる神官様が立ち、司式を担当する旨と開式を告げると、彼の言葉に従い、列席者が拍手で迎える中、まずは私がひとりで入場した。
神官様の前で止まり、扉の方を向く。
その時、何人かの参列者の女性が倒れ、救護班に付き添われて退出したのが視界の隅に映った。
一時それで騒然としたが、神官様により仕切り直されると、この国の象徴である王様が、ヴェールを纏ったサラを連れ添い、バージンロードを進んでくる。
王様と向かい合い、私は一礼してサラを引き取った。一時とはいえ、王様のお目にかかることになるとは思ってもみなかった私は、この時が一番緊張したと思う。
賛美歌というものは無いのでかわりに国歌斉唱。
神官様の祈祷、そして誓いの言葉と式は進む。
一生を共にする約束は、真似事とはいえお互いに気が引けたので、少し文言を変えてもらった。
「新郎、ティム・フォスター。
貴方はサラ・オトメギを、悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も、共に支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
「新婦、サラ・オトメギ。
貴方はティム・フォスターを、悲しみ深い時も 喜びに充ちた時も、共に支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
それから指輪の交換の代わりに、相手のためにオーダーした耳飾りを贈り合った。
サラが私に選んでくれたのは、シックなブラックダイヤモンドとゴールドのイヤーカフ。
私がサラに選んだのは、彼女の部屋の色彩を参考にした、パライバトルマリンとダイヤモンドをメインにあしらった、ゴールドのイヤリングだ。
選ぶにあたっては、この国の最高位の方に贈るものだから予算は気にしなくてもいいと告げられ、色彩や好みだけで見繕った。金額は見てもいないし知りたくもない。
サラのヴェールを持ち上げてから、互いに付け合って、向かい合う。
「誓いのキスを」
私はゆっくりと顔をサラに近づけると微笑んだ。
『至近距離で微笑まれれば絶対に花が咲く』と、事前にサラが言ったから。
額を合わせて、ただ見つめ合っているフリをしながら小声で告げる。
「オレ、サラに隠し事してる。ごめん。でも心から貴女が大好きだよ。ニオもオレも、ずっと傍にいるからね」
そうして私はサラの頬にくちづけた。
頬へのキスは『親愛』『感謝』の証だ。
花は枝の8割ほどを埋めて咲き、列席者の大喝采が教会の外まで響き渡った。
皆に祝福されながら、教会を出る。
パレードのための馬車にサラが乗り、私も続いて乗り込もうとしたとき、
ダンッッ
大きな銃声が響く。
胸の下辺りがジン、と痺れる感覚に困惑した。
「救国の乙女を欺く造反者め! 女のくせに!」
そう叫ぶ男の声の意味を理解する前に、私は意識を手放した。




