16.違う、そうじゃない
「ニオ待って!」
「ティム」
早足のニオに追いつくために走った私は、ニオの袖を掴みながら少し息を整えた。
「ごめん!」
「何が?」
「かわいいとか言われて。男らしくしなきゃなのにさ、心配してくれてるから怒ってんじゃないの?」
「別に大丈夫じゃないかな。サラ様の琴線に触れただけで、男としての範疇は超えてないと思うけど」
「え?」
「え?」
では、何故不機嫌なのだろうか。
ニオが私を邪魔に思っている説は、私がお茶会に参加するようになって以降の、ニオからサラへの態度を見ていても違う気がした。
「トマさんと何喋ってたの? あの時」
斜め上からの質問に、私は肩透かしをくらった気分でニオを見る。
「え、またトマさん?」
「まるで初恋におちた少女、みたいな顔してた」
ジロッと睨んでくるニオの言葉に、私は慌てた。
「え、嘘! そんな顔してたの!? そんなんじゃないのに。ちょっと可愛いなって思っただけなのに!!」
ニオの不機嫌さが増す。
『少女』感が出てたから心配をかけたのだと、そう理解した私は謝った。
「ごめん。気をつける」
「謝られても困るよ。じゃ、仕事しに行くから」
ニオからこんなに冷たい態度を取られたのは初めてで、寂寥感に涙が出そうになった。
ひとりでこの気持ちを消化するのが難しかった私は、サラのところへ重い足取りで引き返した。
「どうしたの!?」
暫しテラス席で寛いでいたらしいサラが、慌てて駆け寄ってくる。
「酷い顔だよ?……いや酷いって言っても美しいけど……影があるイケメンも最高だけど……あっ、そうじゃなくて、えっと!」
心配してフォローして、墓穴をほってまたフォローして、を慌てながら繰り返すサラに、
「ニオとケンカした」
とだけ話すと、それ以上は何も聞かずに、頭を撫でてくれた。
「ティムの髪の毛はサラサラで気持ちいいねー」
そう優しく触れられるのに甘えて、この日は夕食時間まで、机に突っ伏したまま、ずっと撫でてもらっていた。
花はまた、一輪咲いた。