13.友達になろう
「用事が早く終わったから、迎えに来たの。ティム、ニオ」
「わざわざありがとうございます、サラ様」
私が深々とお辞儀して、サラ様に笑いかけると、
「はうぁ……ッ、破壊力!」
と彼女は目を掌で覆った。
「久々に近くで見たけど相変わらず凄まじいね。美人は三日で飽きるって言うけど、飽きるどころか、全然慣れる気がしないよ。潤いすぎて、思わず花咲いちゃったじゃん……」
そうぼやいたサラ様は、私たちをテラスの席に案内し、形式的な挨拶を簡単に済ませると、親しげにニオに話しかけた。
「ニオ、サイモンから許可出たでしょ? 今日から『タメ口』でお願いしたいんだ。様も取って、呼び捨てにしてほしい」
私は少しモヤッとしてしまった。
けれど、ニオが殆ど表情を動かさず「善処します」と答えたから不思議に思う。
好き、な訳ではないのだろうか。
それとも緊張しているのだろうか。
「ホント、お堅いねぇ」
ふふ、とサラ様が笑う。
「是非ティムも敬語なしの呼び捨てで……あっ、でも急にだと天に召されるかもしれないから、徐々にでお願いします!」
勢いよく頭を下げられ、こちらがアワアワとたじろいでしまった。
「そんな! 私ごときが呼び捨てなど、畏れ多いことでございます!!」
慌てて頭を下げ返すと、サラ様は憂鬱そうに微笑んだ。
「初対面のときも『私などのために』とか言ってたよね。畏れ多いなんてそんな大層な存在じゃないのに……。たまたま選ばれちゃっただけの一般人だよ。創世神のクソみたいな理由で。
こっちに知り合いいないし、友達作ろうにもこうやって崇められるし。
ふたりは幼馴染なんだよね? 心を許し合ってるのがちょっと接しただけでもわかるよ。
それがすごく羨ましいから、ふたりと仲良くなれたら楽しいだろうなって思ったんだよ」
本音だ、と直感でわかった。
急に現れた救国の乙女。
私にとっては神のような存在であると同時に、ニオを奪っていくかもしれない脅威でもあった。
けれど彼女はただ、心を許せる存在がほしいだけなんだ。
思い至ったとき、私がそうなろうと素直に思った。ニオをとられたくないのなら、私が親友になれば良い。
私は改めて“サラ”を見た。
理知的で寂しがりな、知らない土地で必死になって生きている普通の女の子だった。
「サラ、オレと友達になろう」
自然に沸き上がった親愛の情を込めて微笑めば、サラはボッと頬を染め、挿し木には5輪の花が咲いた。