第八十章︰ルシファーの無料宿泊所ダンジョン!〜見せてやるよ!異世界の福祉ってやつを!!〜
「……なんで俺、ゴミの山の上に寝てんだろうな……」
山田純一は目をこすりながら、あまりにも現実離れした光景を見つめていた。
目の前に広がっていたのは、
――壁がダンボール。天井はビニールシート。床は新聞紙で断熱。
なのにしっかりと魔力結界が張られ、ちゃんとモンスター侵入不可という不思議空間。
看板にはこう書かれていた。
《ルシファー直営:無料宿泊所ダンジョン/要・生活困窮証明》
山田:「異世界の福祉ってこういうことなのか……?」
すると、奥のゴミソファに、ボサボサの髪と薄汚れた魔王級オーラを放つ男が寝そべっていた。
???:「……よう、兄ちゃん……初見か……?」
山田:「え、誰!? ていうか、臭っ!? 強烈に獣と発酵臭がミックスしてる!」
???:「名乗るほどでもねぇが……まあ、名乗るか……。俺はベルゼブブ。“元”魔王、今はこの宿のレジェンド住人ってとこよ」
山田:「レジェンド!? 元・魔王!? てか寝袋じゃなくてゴミ袋で寝てるし!?」
ベルゼブブ:「バカにすんなよ……これ、なかなかあったかいんだぜ……冬場は“発熱型腐敗スライム”仕込んでんだからな……」
山田:「いやそれは衛生的にアウトだろ……!」
その時、空間の上部に魔導アナウンスが響く。
《本日のおにぎり支給は先着五名まで!ルシファー様による炊き出しがございます!》
ベルゼブブ:「あっちょっと俺、並んでくるわ。ツナマヨ……頼むぜ……」
山田:「……元・魔王が無料炊き出しにガチで並んでるんだけど……」
と、そこに現れたのは、妙に高貴な雰囲気を纏った青年――黒翼を折りたたみ、純白のスーツを着こなす、銀髪のイケメンだった。
???:「やぁ、宿泊者の皆さま。今宵も《清貧と誇りの宿》にようこそ。私は管理者、ルシファーです」
山田:「えええええええ!? 管理者ってルシファー様!? って、悪魔界の伝説級じゃなかったっけ!?」
ルシファー:「いやぁ、堕天してからは行政に拾われてね。今は《社会回帰支援ダンジョンプランナー》という国家職でね」
山田:「いや、なんでそんな再就職してるんですか!?」
ルシファー:「予算と戦ってるのだよ。宿泊者の衛生状態には心を砕いていてね……山田くん、実は君にお願いがある」
山田:「……まさか」
ルシファー:「この宿、清掃が追いついていないのだ。ぜひ、君の《掃除する者に祝福あれ》で、この場所を――」
山田:「あああ、やっぱり掃除かあああぁぁぁ!!」
そのとき、壁をどんどんと叩く音。
ベルゼブブ:「山田〜!ツナマヨ取れたけど手が滑って床に落ちた〜!三秒ルールでいけるかな!? あと床ベトベトだからなんとかして〜!」
山田:「それ三秒ルールじゃ済まないやつううう!!」
ルシファー:「ふふ……この場所にも、君の“モップの光”が必要なのだよ……では、清掃範囲、全域でよろしく頼む」
山田:「俺、勇者じゃなくてモップ持ちなんですけどおおおぉぉおぉ!!!」
こうして――異世界における“最も汚れた聖域”、無料宿泊所ダンジョンの清掃が、静かに始まったのであった。
山田:「……もう、やるしかないよな」
呆れを通り越し、山田純一は静かに立ち上がった。
モップ――いや、“聖銀製クラリネットX”を手に取り、ぼろぼろの宿泊所の中央に立つ。
山田:「これが俺の戦場だ……!」
ルシファー:「ふふ、良い目をしている。まるで堕天前の頃の私のようだ」
山田:「褒めてんのかそれ……!?」
ルシファー:「まずは食事スペースの消毒からだ。昨日、ベルゼブブが“生で食えるカビパン”と間違えて靴を焼いて食ったせいで、異臭が地獄級なんだ」
山田:「靴を食った!?」
ベルゼブブ(遠くから):「うるせぇ! あの靴、ゴムのくせにうん●の香りしたんだよ!!」
山田:「異世界怖すぎるわ!!」
《モップ術・中級》
《掃除する者に祝福あれ》
山田:「はぁあああッッ!! “スウィーピング・オーバークレンジングモード”!!」
ブオォォォォオオッッ!!!
クラリネットXの先端が輝き、魔力モップが火花を散らすように広がる!
ビニールシート天井にこびりついたスス、
新聞紙床に染みこんだ謎の液体、
空気中を漂う負のオーラ――
すべてが聖なる力で洗い流されていく……!
ベルゼブブ:「うお……空気が……うめぇ……鼻の奥の異臭細胞が泣いてる……」
ルシファー:「まるで……天界の香りだ……久しぶりに思い出したよ、羽根に風が通る感触……」
その頃、宿泊所の他の住人たちも、様子を見に集まってきていた。
・カラスの羽根を持つ“新聞紙パンク詩人”
・段ボールと共に生きる“寝袋吟遊詩人”
・スライム風呂を愛する“全裸長老”などなど……癖のある住人たちがざわつく。
詩人A:「なんだこの光……? まさか……我らの汚泥に差す朝日……!?」
詩人B:「まさかあの青年、モップを通じて世界を救わんとしておる……!?」
ルシファー:「違う、あれは“掃除”だ」
ベルゼブブ:「あいつの掃除、マジで人類浄化してるからな…」
一通りの清掃が終わる頃、宿泊所の様相は大きく変わっていた。
ビニールシートは魔力加工されて水滴を弾き、新聞床には《滑り止め処理済》のステッカーが輝き、ダンボール壁には謎の“脱臭結界”が施されていた。
ベルゼブブ:「山田、てめぇ…マジで聖人だな! この腐れた宿泊所が、今、めちゃくちゃ住める!!」
ルシファー:「ありがとう、山田くん。君の掃除は、単なる作業ではない。“生きる場所”を守るための――祈りだ」
山田:「そ、そんな大げさな……! 俺はただ…掃除してただけですから…!」
その夜。
ベルゼブブ:「おい山田、ツナマヨおにぎり、お前にやるよ」
山田:「え? ベルゼブブさん、昨日5人と殴り合ってでも取ってたじゃないですか!」
ベルゼブブ:「あぁ……今日はな、“心が満腹”なんだよ……」
山田:「くっさ!! くさいけど……泣けるわぁ……!!」
こうして――
最もボロいが、最も温かな異世界ダンジョン《無料宿泊所ダンジョン》は、
一人のモップ持ち転生者によって、生まれ変わったのだった。




