第七章:ガーゴイルの墓場と動く石像の大掃除!
「――このダンジョン、マジで墓場の冷たさってやつを物理で感じるな……」
聖銀製の清掃モップ《クラリネットX》を肩に担ぎながら、山田純一は寒気に身をすくめた。
目の前には、幾百の石像がずらりと並ぶ長大な通路。
首のもげたもの、腕を失ったもの、座ったまま永眠しているかのような巨大ガーゴイル像たちが無言の重圧を放っていた。
「見た目が不穏すぎるんよ……あと、何この石粉……全部ガーゴイルのフケってこと?」
石像の足元には灰色の粉塵が層を成しており、時折カサカサと小虫が走る音が響いた。
その瞬間――耳元の通信石が震えた。
《山田君、到着したようだね。そこは私の誇る“永遠の視線回廊”。テーマは“時間に蝕まれる静寂”だ》
「お前のテーマ、毎回物騒なんだよな……ていうかフケの量で蝕まれてるぞ」
《あれは“堆積美”だ。ガーゴイルの静寂が千年の時間を物語る。そこに清掃員が介入することは、まるで絵画の修復のように――》
「いや、それただの粉塵アレルギー爆弾ですから!」
■汚染ポイント:石の静寂とカビの主張
・粉塵レベル:高
→ ガーゴイルの表皮が経年劣化し、床一面に細かい破片と“謎の黒カビ”を形成。滑りやすく、視界不良。
・結露カビ
→ 石像の目からツララ状にぶら下がる謎の液体。調査報告書には「泣いてるのかも」と書かれていた。
・落書き
→ 過去の冒険者が残した「石像のケツからは火が出る」との記述。実際、スイッチ式で出た。
■モップ術、再び炸裂!
山田は黙ってクラリネットXを構えた。
「やるしかねぇ……ダンジョン清掃員の誇りってやつを見せてやるよ」
《スキル:モップ術・初級》
回転する聖銀のモップが、石粉を一掃。細かい粉塵の舞う空間に、浄化の風が吹いた。
《スキル:掃除する者に祝福あれ》
カビが溶けるように消え、目の奥で赤く光っていたガーゴイルの“未起動型”も沈黙を取り戻す。
「よし……あとは問題の“火が出るケツ”だが……」
ポチ。
ボウッ!!
「うおおおおおおおお!?ほんとに出たああああああああ!!」
背後の壁に直撃した火柱により、煤とススが再発生。
「……これは……掃除しがい、ありすぎィ……」
通信石が再び鳴る。
《見事な清掃だった。だが、石像たちの“哀しみ”を取り除きすぎではないか?》
「お前、ガーゴイルに感情乗せすぎな。俺は清掃員なんだよ、魂まで磨けって言われたらこっちが擦り減るっつーの」
《なるほど。次の層は“感情の噴出口”だ。君のモップでどこまで拭えるか、楽しみにしている》
「もう楽しむのやめろよ!マジで!!」
清掃エリアに光が走り、通路奥の封印が解除される。
そこに現れたのは――ツヤツヤに磨かれた黒曜石の階段と、ほのかに香る石鹸の香り。
「なんだこの“きれい系ダンジョン”みたいな匂い……逆に怖いな……」
だが、彼は行く。モップを片手に。
この世界で最も勇者っぽくない、しかし最もダンジョンに必要とされる者として――