第六章:ゴーレムの廃鉱でモップ乱舞!
ダンジョン深部。
冷気と鉄のにおいが立ち込める広大な鉱道の前に、ひとりの男が立っていた。
「うーわ、今回もいい感じに汚ぇなぁ……」
そう、彼こそがこの世界で“最も地味で、最も必要とされていない”職業――**ダンジョン清掃員(ランクF)**である山田純一であった。
聖銀製の魔導モップ《クラリネットX》を肩に担ぎながら、山田はため息をつく。
「鉱山ダンジョンって、こう……もっと鉱石とか宝箱とかワクワク要素があると思ったのに、これ、完全に“使い捨てられた感”じゃん……」
背後の岩壁には、「ツメ折れる」「通るな死ぬぞ」といった謎のチョーク書きが連続しており、視界の先には――崩れたレール、錆びたトロッコ、そしてそこかしこに転がるゴーレムの残骸。
そのとき、背後の通信石がピコンと鳴った。
「……ん?またアイツか」
声の主は、山田の“清掃対象”を設計している男――国家認定ダンジョン設計士ランクA、アーク・トレイスだった。
《アーク・トレイスだ。今回の廃鉱ダンジョン、かつて精霊鉱石を採掘していたが、ゴーレムの暴走により放棄された。》
「うん、それが現場で伝わってくるぐらいボロボロですよ?」
《だが、私は敢えて修復を拒んだ。“廃墟は語る”。崩れた鉄路、煤けた石壁、積層する油汚れ。それらが失われた時間を語るのだ。》
「いやいや、語るっていうか、汚すぎてゴブリンも住んでないよ!?さっきカビたネズミが俺にピースして去ってったよ!?」
《ちなみに、ゴーレムの潤滑油が自然発酵して幻覚成分を放っている。掃除の際は深呼吸しないように。》
「それ、先に言え!!ていうか掃除させるなよ!?」
■汚染レベルSS:鉱道の三大汚れ
・油まみれのゴーレム残骸
→ 転倒するとほぼ確実に油まみれ。1体につきバケツ2杯の洗浄液消費。
・腐食性粉塵(たぶん金属由来)
→ 吸うと喉がガラガラ、顔が粉まみれで“パウダーおじさん”状態に。
・謎の黒苔(発光する)
→ モップで触れると「もぉおぉぉぉ……」と呻く。誰かの念か?
「っつーか、このレベル、清掃員Fランクの仕事じゃないからな!?普通に勇者案件だろ!」
そう叫びつつも、山田は覚悟を決めた。
「よし、いくぞ……クラリネットX、発動!」
《スキル:モップ術・初級》
──クラリネットXがしゅぱぱぱ!と回転し、聖銀の波が油汚れを切り裂いていく。
「これぞモップ道!地味だけど……美しいッ!!」
《スキル:掃除する者に祝福あれ》
煌めく浄化フィールドが広がり、床がピカピカに。汚れと共に悪臭も消える。
《スキル:不思議な残業魂》
「はぁっ……体力切れてきた……でも、10分は延長できるッ……ッ!」
山田は己の限界と戦いながら、ゴーレムの油をひとつずつ拭き取り、粉塵を沈め、黒苔をそっと撫でるように除去した。
「モップ一本で、誰よりも世界をピカピカにしてやるッ!」
■終末、廃鉱の光
清掃完了の鈴が鳴る頃――鉱山奥の岩が音を立てて動いた。
そこには美しく整った金属通路が現れ、新たな階層へと続いていた。
通信石がまた鳴る。
《素晴らしい。廃墟に宿る“物語”を損なわずに清掃した。……君のセンス、予想以上だ。》
「いや、損なうも何も、全部拭き取ってるからな!設計者のクセが強すぎんのよ!」