第三章:清掃員 vs ダンジョン設計士!設計された汚れをぶっ壊せ!
ダンジョン第七層・南東区画。
かつて古代魔導文明の実験場として使われた遺跡――だが今、その空間はひとつの戦場となっていた。
ギギギ……バシュッ!
「うわっ! またトラップ発動かよ!? この床、清掃員殺しすぎるだろ!!」
俺、山田純一。異世界転生してダンジョン清掃員になった男。
今日の現場は、普段の数倍キツい。というのも、この区域、あいつの設計した新型ダンジョンだからだ。
「なるほど。君はまだ生きていたか。汚れを消す者よ」
黒い長衣に身を包み、設計図が巻かれた筒を背負った男が、天井の梁の上から声をかけてきた。
アーク・トレイス。ダンジョン設計士(国家認定ランクA)。
やたらイケメンで、頭が良くて、しかも性格は超悪い。
「このエリアはな、私が“君のような愚かな清掃員”を想定して設計した清掃阻止区域だ。罠も毒も腐敗も、すべてが計算済み。どうするつもりかな?」
床一面にびっしり広がる腐敗菌。
壁面からは時間差で飛び出す毒針トラップ。
さらに頭上からは――
ドロオオ……
黒い粘液が滴り落ちてきた。
「なっ……《自己再生型スライム生成ギミック》だと!?」
汚れをいくら取り除いても、再生成される粘液と腐敗物。つまり“掃除の意味がない”という設計になっているのだ。
「どうだね? 絶望したか? キミのモップごときで、私の設計に抗えるわけがない」
上から見下ろしながら冷笑を浮かべるアーク。
だが、俺はモップを両手で握り直し、ぬぐった顔に、笑みを浮かべた。
「……ふっ。甘いな、設計士さんよ」
「ほう?」
「このダンジョン、確かにお前が組んだ“完璧な構造”だろう。汚れも、罠も、再生成も……全部、設計された通りに動いてる。だがな……」
俺は、モップの柄を軽く回し、クラリネットXを床に突き立てた。
「その完璧な設計が、“掃除される”ことを前提にしていないなら――」
ゴゴゴゴゴゴッ……!!
――そこに、俺のスキルが発動する。
《スキル発動:掃除する者に祝福あれ・応用型》
→ ダンジョン構造の“汚染領域”を対象とし、モップに触れた部分の再生機構を中和します。
「その再生スライム、もう“二度と”汚れねぇよ」
スライムの体が光り、バチンと音を立てて蒸発した。
腐敗層が徐々に消え、床石の模様が露わになる。かつて魔導文明が描いた浄化術式だ。きっと、誰かが**元の設計に込めた“清き理想”**が、今、表に出てきてるんだ。
「この場所はな、元は実験場なんかじゃない。浄化の祈りが刻まれた“聖域”だったんだよ!」
アークの顔が、初めて歪んだ。
「馬鹿な…君ごときの者が、私の設計を!」
「俺はただの汚れを消す者じゃねえ」
俺は静かに、床をモップで磨いた。
白光が走る。トラップが止まり、スライムの生成機構が破壊され、ダンジョンに風が通った。
「俺は“ダンジョン掃除員”だ。世界のゴミごと磨き直してやるよ。お前の芸術もな!」
アークは黙って去った。
だが、その瞳に一瞬、誤算とは違う感情が揺らいでいた。
…それが、ライバル関係の始まりだった。