第二章:ダンジョントラップ大掃除!毒と涙と錆びた心
「ここが今日の現場《第七層・西腐の回廊》じゃ」
ナナ婆の案内でやってきたのは、前よりもさらに空気が淀んだダンジョンの奥地だった。
天井から垂れる錆びた鎖、床のあちこちには毒針の残骸、壁面のスリットからは乾いた血がこびりついている。
……うん、死臭と毒と錆のミックスサウナって感じだ。
「ここは昔、冒険者ギルドの試験ダンジョンとして使われておってな。今はもう使われんが、トラップだけは生きとる」
「……マジかよ。つまり、俺は罠だらけの死地を、モップ片手に雑巾がけするのか……」
ナナ婆がニッコリ笑って言った。
「その通りじゃよ! では健闘を祈る」
そうして、俺は罠の巣窟に一人置き去りにされた。
■ そして地獄の始まり
床石の目地にこびりついた毒。
罠から飛び出すサビ付きの矢。
床の端が不自然に浮いてる場所は……落とし穴だな。
「この世界、職業選択の自由ってねぇのか……?」
だが、俺は知っている。
一歩一歩、確実に磨いていけば、道は開ける。そう、前回の掃除で得たこのモップ術・中級が――
キィィン!
発動するスキル《汚物反射》で、罠に触れる瞬間に汚れを反射!
ガチャン!
パシュン!
毒矢が飛び出すスリットに、モップを叩き込む!
「へっ、罠が発動する前に、綺麗にしちまえばいいんだよ!」
そして、床の罠の中に埋まっていた“冒険者の亡骸”――骨と剣と、ひび割れた銀の盾を見つけた。
俺は思わず立ち止まり、しゃがみこむ。
「……すまねぇな。誰もお前を片づけに来なかったんだな」
――黙って、丁寧に骨を並べ直し、隣に置かれていた名札を拾い上げた。
《ギルド冒険者・ソリュート》
死因:毒矢トラップ。清掃不可区域にて放置。
「放置、か……。いや、そうじゃない。お前は、ここで誰かの道を作ったんだ。」
そう言って俺は、骨を抱えて外に出る。
亡骸を引き取り、入り口の石の祠に埋葬し、しばらく目を閉じた。
その時――
【スキル進化!】
《掃除する者に祝福あれ》が進化しました!
→ 《慰霊掃除術》を獲得!
▶ 死者の魂が残る場所を清掃すると、魂を慰める加護が発動する。
▶ 清掃領域が光に包まれ、トラップの“悪意の設定”が無効化される!
「……お前の命、ちゃんと届いてるぞ」
俺はそう言って再びダンジョンに戻り、トラップエリアを一掃した。
サビは落ち、毒は消え、落とし穴は封鎖。道は清められ、光が差し込むようになった。
そこに――
パチ……パチ……パチ……
どこかから拍手の音が聞こえた。
「なるほど。これが、君の“掃除術”か……おもしろい」
その声を最後に残し、何者かの気配が闇に消えた。
その男の名を、俺はまだ知らない――
だが、それが後にライバルとなるアーク・トレイスだったのだ。
次回:第三章へ続く
《第三章:清掃員 vs ダンジョン設計士!設計された汚れをぶっ壊せ!》