表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/37

第9話「薬草の気配と観察眼の真価」


「……自然発生の依頼で、何とか食いつないでるけど」


スミレ荘の薄暗い部屋で、俺は一人ぼやいた。


(このクエスト発生システム……あまりにも自然すぎて、リアルとゲームの境界が曖昧になるんだよな)


実際のところ、これが“現実”だとようやく理解してきたのに――NPCの自然な動きや、発生するイベントが、あまりにも「よくできすぎていて」困惑する。


そんなことを考えながら、朝のUIを起動すると――


【クエスト:薬草の採集依頼《初級》】

【受注者:セリア】

【目的地:王都郊外・魔素の残る低木地】

【内容:初級薬草〈スレン草〉〈ミリルの葉〉の採集補助】


「……セリアさん、依頼を受けてたんだ」


あの、ギルドで何度か会った、笑顔が印象的な女性。昨日ちょっとした仕事を手伝ったばかりの俺に……?


* * *


「……おはよう、セリアさん。昨日はありがとうございました」


声をかけると、セリアはぱっと顔を上げ、にこっと笑う。


「ユウ君! うん、よかったら一緒にどうかなって。薬草の探索依頼があってね。町はずれの、魔素の残る低木地なんだけど……」


「それって、危険は?」


「ううん、大丈夫。初級向けの雑魚魔物が時々出るくらい。ただ、観察眼のある人がいた方が助かるなって」


「観察眼……?」


なぜ知っているんだ、と訝しむ間もなく、セリアは軽くウィンクする。


「ギルドで依頼を共有したら、スキル情報の一部が相手にも見えるんだよ」


(うわ、そういう仕様か……)


俺はため息をつきつつも、ギルドの支援系依頼に付き添うという選択肢に、内心少しほっとしていた。


* * *


郊外の魔素地帯は、静かな森のような場所だった。草木の香りが濃く、足元にはちらほらと見慣れない葉が揺れている。


セリアが腰を屈めると、手早くひと株の草を摘みながら解説してくれた。


「これが〈スレン草〉。解熱作用があるの。傷薬に混ぜると効果があるんだよ」


UIには薬草のミニ情報がポップアップする。どこまでもゲームっぽいのに、空気は本物だ。


「……なるほど。でも、俺の観察眼って、何ができるんだろう」


そうつぶやいた瞬間――


【スキル発動:〈観察眼Lv1〉】

【対象:ミリルの葉(未採取)】

【結果:葉の揺れが不自然/微振動検知/毒化の兆候あり】


(なっ……!?)


目の前の草が、わずかに振動している……というより、風が止んでいるのにだけ“動きが残っている”。


「セリアさん、これ、触らないで。毒化してる」


「えっ、本当!? ……すごい、ユウ君。完全に外見は正常だったのに」


セリアは驚きと尊敬が混じった眼差しで俺を見る。


俺自身、驚いていた。


(ゲームの頃は、こんなスキル、使ったことなかったのに……)


* * *


森の奥で、小さな魔物の気配を感じた。


(……あれは、確かデータで見た初級モンスター、“ジャイアントアント”(大型蟻型))


「気づかれたかも。……戦える?」


セリアは頷き、杖を構える。


「〈朱炎よ、灯せ――焔球えんきゅう〉!」


放たれた火球が、軌道を描いて魔物を直撃する。


【スキル使用:ファイアボール】

【効果:小範囲炎属性ダメージ】


炎が炸裂し、魔物が転がった。


(……すげえ……これが、ゲームじゃなくて本物の魔法か)


内心ひやひやだった。


(ゲームでは、動きを読んでモーションを予測して……でも、こっちは……生身で、命がかかってる)


セリアは、笑った。


「ありがとう、ユウ君の注意がなかったら、毒草を摘んでたし、あの魔物にも気づかなかったかも」


「……俺、何もしてないような」


「ううん。でも、それで“人を助けた”んだよ?」


(……聞かれてた? って、もしかして今のもログに……いや、ちがう、現実だ)


* * *


依頼から戻ったあと、俺のUIに小さな通知が出ていた。


【関係値:セリア+1(累計+3)】


(……また少し、距離が縮まった気がする)


その下に、もうひとつの通知が表示されていた。


【新スキルの獲得候補:〈構文解析〉――発動条件に達しつつあります】


(……構文解析? なんだそれ、写本士スキルなのか……?)


目立たないUIの隅に、小さく書かれていた。


【特性補足:目立たない/地味属性判定+10】


「なんなんだよ、この+10……何の役に立つんだよ……」


俺は空に向かって、思わずツッコんでいた。


――でも、ちょっとだけ、自分の“この職”を誇らしく思えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ