第6話「朝の鐘と、町の生活リズム」
【UIログ:時間 06:00 朝の鐘が鳴りました】
町に、静かに鐘の音が響く。
(……もう朝か)
重いまぶたをこじ開けると、スミレ荘の小窓から朝の光が差し込んでいた。
昨日の疲れがまだ体に残っているけど、どこか心地いい――そんな目覚めだった。
(ここが、現実の“ゲーム世界”だっていう実感……日を追うごとに強くなってる)
布団を片づけ、階下に降りると、もう住人たちは動き始めていた。
台所では湯が沸かされ、パンのいい匂いが漂っている。
「おはよう、若いの。今日も働くのかい?」
声をかけてきたのは、スミレ荘の一室に住む老婆・カナさん。
俺は笑って、ペコリと頭を下げた。
「ええ、今日は……ギルドに行こうと思ってます」
「それならその前に、ちょっと付き合ってくれないかい? 今日は町の掃除当番なんだよ」
「……え?」
***
中央通りに出てみると、もう何人もの町人たちがほうきや桶を手に動き出していた。
「お、見ねぇ顔だな。新人か?」
ずんぐりとした体格のおじさんが声をかけてくる。
灰色の作業服に、汚れた手袋。スミレ荘の周辺を仕切っている町内役員――ロイさんだ。
「ユウです。昨日、ギルドに登録したばかりで……」
「おお、写本士か! 昨日もうちの仲間が『久々にまともな筆文字見た』って騒いでたよ。……あんたか?」
「たぶん、そうです」
「ああ、やっぱりな。最近は魔道印刷ばっかでさ。字が読めりゃ誰でも扱えるから、写本士なんて減る一方だ。
若いのはみんな“印刷術”に流れちまう。こういう札の修復、もう頼める奴がほとんどいないんだよ。
……あんたみたいな職人肌は、久々に見たよ。――この札も、お願いできるか?」
【UIログ:ミニミッション《町の掃除と整備》発生】
【選択:引き受ける/断る】
(断る理由もないし、何より……少しでも恩を売っておいたほうがいい)
「……分かりました。やってみます」
***
古い掲示札を受け取り、宿の入口に腰を下ろして筆を走らせる。
木札の文字は風雨で削れ、ほとんど読めない状態だったけど、昨日の看板修復で感覚は掴めていた。
【スキル反応:筆技《修正》+0.3%】
【インベントリ更新:古布きれ ×1】
「おお……見事なもんだ。最近こんな丁寧な字、見なくなったよ」
ロイさんが目を細めて言う。
「これでまたしばらく掲げられるな。銅貨2枚だけど、受け取ってくれ」
【報酬:銅貨+2】
【所持金:銅貨5 → 銅貨7】
「ありがとうございます」
***
「お兄ちゃん、昨日も書いてた人だよね?」
振り返ると、昨日パンをくれた子どもが手を振っていた。
「ねぇ、この字ってどうやって書くの? うちの猫の名前も書ける?」
「えっと……“モカ”だっけ?」
「うん!」
俺は笑って、小さな木の板に猫の名前を丁寧に書いて渡してやった。
(……そうか。便利な技術が進めば、“手で書く”ってだけで価値がなくなるのか。
でもそれでも、まだ求めてくれる人がいるなら――俺にできることは、ある)
【システムログ:現在、登録写本士 約0.2%】
【職業レア度:非戦闘・技能系/一般認知:低】
でも同時に、胸の奥に小さな焦りもある。
(やっぱり、金がない。今はまだ、たった銅貨7枚。
写本士って職も、そうそう依頼があるわけじゃない)
「……ギルドに行こう。今度は、本格的な“仕事”を受けるために」
空を見上げると、朝日がゆっくりと町を照らしていた。
異世界生活は、今日も静かに、確実に進んでいく。
1日2回更新でいきたい!です。ストーリーのテンポはゆったりと