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第5話「はじめてのギルド登録 ―受付嬢アリシアの微笑み―」


やっぱり、毎日は稼げない。


昨日はたまたま、字が書ける“写本士”だったからこそ人の役に立てた。それだけの話だ。


今日はもう、「代筆仕事」はなかった。あの看板の宿屋だって、張り替えなんて週に一度あるかどうかだろう。


「ギルドか……行くしかないよな」


朝の街を歩きながら、銀貨1枚を入れたポーチをギュッと握る。


宿代とパン代を除けば、手元にあるのはそれきり。生活するための土台が、まだ何もない。


***


「ギルド会館」――かつてゲーム内で何度も訪れた建物。


でも、今は違う。現実に、その重厚な扉の前に立っている。


(リアルだと……やっぱ緊張するな)


中に入ると、石造りの内壁と整然と並んだ受付。奥には討伐依頼や配達、商業記録の補助など、様々な任務が掲示されている。


その中央に、黒髪を後ろでまとめた端整な女性がいた。


「……ようこそ、冒険者ギルド《アルデン支部》へ。ご用件は?」


声をかけてくれたその人が、受付嬢・アリシアだった。


「あの……登録を、お願いします」


「かしこまりました。初登録ですね。ギルドでは冒険者や技能者の職能を公式に認定し、報酬付きの依頼を斡旋しております」


そう言って、彼女は木製の登録用紙を差し出してきた。


「冒険者には、FからSまでの等級があります。まずはF級からの開始となり、昇格には一定の実績とギルドからの推薦が必要です」


「……なるほど。分かりました」


「お名前をどうぞ。ギルド内で使用する通称で構いません」


(ゲーム内では……ずっと“ユウ”だったよな)


「……ユウで、お願いします」


「承知しました。職業は《写本士スクライバー》ですね?」


「はい、一応」


「登録料として、銀貨1枚をお支払いいただきます」


ためらいながら、ポーチから銀貨を取り出して差し出す。


【UIログ:ギルド登録料支払 -銀貨1枚】


【称号獲得:《新米冒険者》】


【登録完了:職業《写本士》/ランク:F】


アリシアは軽くうなずいて、手際よく登録処理を終えると、


革製の簡易ギルドカードを差し出してくれた。


「これがあなたの証明書です。依頼を受ける際は必ず提示してください。失くした場合、再発行には銀貨3枚かかりますのでご注意を」


「……た、高っ」


「よく言われます。ですが、身分証を持たない方にとっては、これが唯一の“公的信用”となります。お守りだと思ってください」


(……なるほど。ゲームじゃ軽かったけど、ここでは違うんだ)


***


「ちなみにですが……“写本士”は珍しい職業ですね。記録・代筆・魔術式の写しなど、手作業系の依頼が中心となります」


「戦えない職ですけど……何か役に立てればと」


「ええ、そういう方こそ、長く生き残ると私は思っています。器用で誠実な技能職は、いつの時代も重宝されますよ」


彼女の口調には、揶揄や侮蔑は一切なかった。むしろ――優しさがあった。


【UIポップ:アリシアとの好感度+1】


思わず、少しだけ表情がほころぶ。


***


ギルド会館を出ると、夕陽が街をオレンジ色に染めていた。


手元にはもう銀貨はない。


でも、昨日の看板修復でもらった「銅貨5枚」と、焼きたてパンが1つ。


(わずかだけど……生きていく手がかりが、ここにある)


明日は、初めての依頼に挑戦してみよう。


――異世界生活、本格始動。

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