[続続] 駅馬車
ザッ ザッ ザッ ザッ...
暗闇の荒野を進む。
たったひとつの灯火を目指して。
「_______おい」
カシャッ
私の声に反応し、香澄は刀を抜きそれを私に向けた。
「...なんだ、誰かと思えばふざけた賞金稼ぎか」
そういうと香澄は刀物を鞘に収め、再び焚き火に向き合い、座った。
「そのボロコートはなんだ。あんたの相方もどこいった__________」
ガシッ
ずちぅッ________ッ!
「む_______!」
「...んっ...はぁ...」
「これが欲しかったんだろ。くれてやる」
「俺と共に来い」
「ちっ...!都合のいい時だけ私を当てにするな!」
「________お前の力が必要なんだッ!」
「...!」
「...有栖川が攫われた...相手は軍隊に通じている誰かで、ガトリングガンで手も足も出ない状況だった...」
「頼む...俺に力を貸してくれ...もう誰も...」
「________仲間を失いたくはない...ッ!」
「...」
「その仲間とやらに、私は含まれているのか?」
「当たり前だッッ!」
「...っ」
「これまで酷い態度をとって悪かった...白状するよ、この薄汚れた世界に入ってきたお前に八つ当たりをしていたんだ...」
「だってお前は、俺の中ではまだあの小さくていたいけな少女のままだったから...それが俺のせいで汚されたと思ってどうしようもなく当たっていたんだ...!」
「...」
「でもな...本当はな...」
「あの時日本で...小さなお前と出会ったその時から...!」
「この白百合のような女の子を、命を賭けても守ろうって...そう決めてたんだッッ!!」
「...」
「はぁ...!...は...っ!」
「...」
「_____やっと、顔を見て話してくれた」
「...っ」
「いいでしょう。ならば、あなたの指示に従うまでです」
「________この命、貴女に捧げます」
私の瞳に映るその赤い炎に反射する彼女の顔は、10年前と変わらないあどけない少女の笑顔と再び重なった。
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▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅
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_______決闘には2種類ある。
ひとつは一体一で紳士的に戦うか。
もうひとつは_____________
___________徹底的に潰し合うか。
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ザッ ザッ ザッ ザッ...
「香澄、お前を汚さずに私の仕事を手伝う方法が分かった」
「なんです...?」
「________感謝して相手の命を頂戴しろ」
「...?」
「大昔、その刀を使っていた武士は武士道というものを心得ていた」
「"正面から狡猾ではない手法で戦い、かつ勇敢に散っていった命に敬意を示す"。これが何千年も生き続けてきた武士道の心得だ」
「これは殺し合いが当たり前の今の時代、お前に必要な心構えだ」
「...」
「殺しを正当化するものなんかじゃない。敵にあっぱれと言いながら命を頂戴するんだ」
「...」
「...そんなに私が心配ですか?」
「あぁ...さっきも言ったろ、お前が大事だと」
「...人は成長します。無論、私もです」
「______ですが人は、穢れを知らないまま死ぬことはできるでしょうか」
「...」
「そうなって欲しくないから、武士道を覚えろと言うんだ」
「それがお前を守る...私の苦肉の策ってやつだ」
「...全くしょうがない人です。よほど自分のお人形さんになって欲しいようですね」
「分かりました。心得ましょう、武士道を」
「...よし、それでいい」
「世間話はここまでだ。あれが有栖川を攫ったやつのアジトだ」
「先ずは私がガトリングを潰す。そうしたら、有栖川を連れて医者まで走ってくれ」
「私は殺しは無しですか?」
「あぁ...必要だったらで構わない」
「殺すことより、今は有栖川を助け出すのが先決だ」
「...重症の有栖川を人質にされたら...私は生きていけない」
「...」
「分かりました。ですが、くれぐれも無茶はしないでください」
「あなたは私にとっても...大事な人なのですから」
「...」
暗黒の荒野からひとつの豆電球が着いた小屋と対峙する。
乾いた風は口笛を吹きながら未だ私の頬を荒く撫で続ける。
枯れきった雑草はダンブルウィードとなり固まって、決戦の舞台を今か今かと待ち望んでいる。
________舞台は整った。この西部劇は、必ずハッピーエンドで_____________
▅▅▅▅終わらせる▅▅▅▅
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▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅
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