[続] 駅馬車
「...っ」
ガタッ...ガタッ...
「...」
「目を覚ましたか」
「...俺は、どうなった」
「急に発作を起こし気を失った」
「発熱もしてたぞ」
「...」
「有栖川は...」
「疲れて寝てる。あんたを介抱してたんだ」
「...」
「それで、これは...?」
「私の膝枕だ」
「...」
真っ赤な夕日が私を照らす。
西部劇ならエンドロールが流れてもいいぐらいだった。
「...駅馬車は嫌いだ」
「...」
「なぜ嫌いなんだ?」
「...暗くて、狭くて...そして______」
「_______暑い_______」
「暑いから裸の方が楽だと思ってもダメだ。硬い木が揺れる馬車の中で肉にくい込み苦痛が続く」
「私にとって駅馬車は______悪夢だ」
「...」
「でも、それはきっと夢だろう」
そういうと、香澄は私の頭を撫でる。
確かにそれは私の苦痛を拭っていった。
ガシッ
「...」
ぐぐ...
「...」
「______抱きたいなら、そう言えばいい」
ブチンッ
本能と理性が繋がれた糸が切れる音。
本能のままに香澄の口元に吸い寄せられた。
「「...っ」」
「...ふっ...唇が震えてるぞ」
「"処女のお嬢様"」
「...ッ!!」
バチンッ
ドサッ
「黙ってれば抱かせてやったものを...!お前のその態度が気に食わんっ!」
「勝手に怖がって駅馬車で死ね...っ!」
ガチャッ
バタンッ
「...」
「...おえ」
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▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅
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「お客さん、次が終着点ですよ」
「...」
「なぁ、有栖川」
「出ていった女を呼び戻す方法を知ってるか?」
「...」
「そんなものはない」
「...」
「ぶふっ...最低だ、お前は」
「くっ...かかっ...」
「さっさと燃料買いに行くぞ」
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時刻は夜。
天井のランプを頼りに暗黒の荒野を突き進む。
進んでいくにつれてやがて草木は短くなっていき、路面の砂利も固く大きくなってゆく。
そんな中、ぽつんと小さな灯りのついた小屋のようなものに近づいてきた。
「あれか?」
「あぁ、あれだ」
「行くぞ」
「おい、止めてくれ」
ギギィッ
ガチャッ
「何ドルある」
「全財産かきあつめて300ドルだ。果たして最高級のガソリンは何ドルかな」
「はぁ...行こう」
...
....コンコンコンッ
「...」
___________カチリッ
「________ッッ!」
「離れろッ!」
ババババババババババババッ________
「ぐぬぁ...っ!」
「...有栖川!」
ずる ずるっ
「...ぐぼ...あばらが...っ」
「クソ...!何が起こってる...!」
「ガトリングだ...音で...わかる...」
ガシッ
「____しかも____軍支給品だ___ッ」
「...ッ!」
「にげろ...これじゃ、僕らは....」
「________不利すぎる______」
「...」
「...死ぬなよ」
タッタッタッタッ...
「...ふふ...死ぬかよ...っ」
______________________
ペチペチッ
「おい、まだ死んでねぇよな。こいつ」
「水ぶっかけろ」
バッシャアッ
「...」
「ぶげ、ごぇっほえほ...っ!」
「ふん...あのガトリングを受けてまだ生きてるとは...お前ゴキブリかなにかか?」
「...ふぅ...ぶ...っ」
「見たところ...ただのゴロツキじゃなさそうだ...」
「その服...保安官だろ...」
「______特に、そこのお前」
「______そうだが______」
「...ふっ...火星ってのは治安最悪だな...」
「マカロニ・ウェスタンでは保安官は法の番人だが」
「その影にはそうでない者もいた。それが俺だ」
「ただの汚職警官だと思ったが...予想より酷いな」
「お前がどう思おうが勝手だが、これからの運命がどう仕組まれているのか分かっているのか?」
「ここから東の奴隷市場で売りさばかれるんだぞ」
「...だと思ったよ」
「もちろんお前の相方もだ。ちなみに公にしても意味は無い」
「なんでだよ...ここの警察組織は頭から足まで腐ってるってか?」
「ふざけた星だな、この木星ってとこは...げぉっ」
「保安官さんよ、もういいだろ。俺はこの子の味見がしてぇんだよぉ!」
「ふん...お前たちとは"そういう契約"だからな」
「殺すなよ」
「殺す...?これは傷の手当よぉ!この子の傷を俺が舐めて治してやるんだよぉ!」
「くく...かきゃきゃきゃっ!」
_________キィ カチャッ
_________バギョンッ
「______きゃ...」
「...ぬぇ...?」
小屋に鳴り響く場違いな轟音。
私は袖の中に仕込んでいたppkをスライドさせ近づいてきた男の額をぶち抜いた。
バギョンッ バギョンッ
「ぐぇいッ!」
バガンッ ギョンッ
次いで腰に手を伸ばした奴らに狙いを定め風穴を開けるが_______
バシンっ
保安官に腕を蹴られ_________
ボギィッ!
_______そして、床に叩きつけられる。
「ぐぉお...ッ!」
「...そこまでだ」
「スリーブガンか。手負いの猫にしてはよくやった方だ」
「野郎...!よくも俺のダチを...ッ!」
「ぶっ殺す_______!」
バガギョンっ_________
「...」
「自業自得だ。お前らにはこいつの覚悟が分からないのか?」
「"私に手出したらぶち殺す"って覚悟だよ、これは」
「お前ら全員部屋から出てけ。目障りだ」
「「...」」
ガチャッ
コツッ コツッ コツッ...
「...」
「不思議だ」
「...ぶぅ...ふ...ッ!」
「久しぶりに良いことをした気がする」
「お前の覚悟が俺をそう駆り立てたのか。これは一体どういうことなんだ?」
「ぐ...ん...っ」
「...根っからの悪人は...良いことなんかしねぇよ...」
「ふざけんな。悪人でも良いことはする」
カチョッ
じぃ...
「ふぅ...1対9ってとこだ。善行1、悪行9」
「自分の子供におもちゃ買ってあげたり、友人が鼻をかむティッシュを忘れた時は貸してもやる」
「だが結局、自分のやってる悪行が大きすぎてその小さな善行が霞んで見える」
「だからそれをひっくるめて"悪人"なんだ」
「...だがその善行も...全部自分のためだ...」
「...それは善行とは...言えない」
「...」
「そうかもな」