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[続] 狼舞




______ジョニー・ウォーカーの船





その日、結局有栖川のナンパは中止になった。


その代わり女サムライというレア物が船に転がり込んできて、今リビングのソファーで寝ている。


なんで寝てるかって言えば、"どうやら酔いつぶれてしまった"と有栖川は語る。


道理で酒臭いわけだ。






ビーッ





「どう、何か分かった?」




有栖川が自動開閉式ドアから私の部屋に入ってくる。


両手には料理の盛られた皿がある。





「いいや、全然」


「いくら賞金首のサイト見てもこの女は見当たらない...ぅんんっ」




コトっ




「お、今日は豆とパンとスープかぁ!」




「前回の賞金の分だ。味わって食べるんだな」




「なんだよ、おかわりは無しか」




「あるわけないだろ。あの女に追加で食料をやったんだから」




「はぁ...ったく...だから船に女は入れたくないんだってのに」





「前から思ってたけど僕らも女だろ...」





「細かいことはいいんだよ。テレビつけてくれ」





「はいはい」





ピッ





「どーも」






チャラランッ





[続いて木星の開拓事業について。地表3分の1はフロンティアが進みましたが、未だ水の供給が19世紀程の水準であると___________]





「...太陽系開拓時代ってか」





「それでも100年でここまで作り上げたんだ。賞賛されるべきフロンティア精神さ」





「先住民もいないしな」





「...悪い冗談はよせ」






カツ カツ カツ カツッ





「じゃ、あの狼ちゃんに飯でもあげてくるかな」





ビーッ






「...」


「ちょっとしょっぱいな...」





____▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅____




_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _





ジャラっ




「...なんだ、これは」





「それは手錠っていうんだよお嬢さん」





「ふざけるなその呼び名はやめろ...!」


「うっ...」





「二日酔いで頭が痛そうだ。ほら、水だ」





「くっ...いらん!」





バシッ





「...!」





バチンっ





「...」


「これは私と有栖川が以前の仕事で手に入れた金で買った水だ。今は20Lしかない」


「大事に飲め。ほら」





「...」





黒スーツの女は黙って水を受け取りそれをゆっくりとそのピンクの唇に当てる。




「...」


「まどろっこしいのは無しだ。君の名前を聞こう」


「いつまでもお嬢さんは嫌なんだろ」






「...」


羽咲香澄(はねさきかすみ)





「...っ」





「どうした、ウォーカー」





「...」


「手錠を外そう」




「は...?」




「こいつは賞金首じゃない。手錠の鍵をくれ」




「外すったって...一体どういう風の吹き回しなんだ?」




「この子は友人の子だ...早く鍵をくれ」




「なんだって...?」




カチャカチャ




カチッ




「...10年も前の話だ。地球でこの子の父親に世話になった」


「じゃあ聞かせてくれるか。君がなぜここに居るのかを」





「...」






「...悪い、有栖川。2人だけにしてくれ」





「...わかったよ」






ビーッ



ガチャッ






「...有栖川は出ていった。さあ話してもらおうか」


「君がなぜここにいるのか。そして、なぜ追われているのかを」





「...」


「3年前、父が殺された」






「...」






「殺ったのは江原(えはら)會の連中。私が17歳の頃だった」


長岐(ながき)組の幹部だった父は荒れ果てた故郷に秩序を戻そうとしてた人間だ。その代わり、犯罪まがいのこともしてたがな」





「...知ってるさ」





「そんな父が殺されてから、江原と長岐の抗争が勃発。3日間に及ぶ戦いだった」


「父から剣術を教わってた私はその抗争に参加した。17のガキだったが、何人も殺した」




「君は構成員だったのか?」




「...いや、違う」




「親の仇か」


「当ててやろうか。それで結局長岐組は負けて壊滅。抗争で恨みを買った君は江原會から追われこの星まで逃げてきた。そんな所だろう」





「...ッ!」




ガッ




「バカにするな...ッ!」




パシっ




「バカはお前だ。人を殺さなければ堅気のままでいられたものを」


「もう一度言う、"お前はバカだ"」




「なぜ侮辱するんだ...!親の仇を取って何が悪い!」




「________羽咲のおっさんがそれを望んでなかったからだよッ________」




バギッ




「ぐがっ...!」





「羽咲のおっさんが君に教えていたのは剣術じゃない。剣道だ」


「それも護身用のな」





カチョッ



ジィ...





「ふぅ...」


「しばらくはここに置いといてやる。だが事が治まり次第___________」


「________さっさと出ていけクソガキ」





_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _





ビーッ





コツ コツ コツ コツ





「それで、あのお嬢さんはどうするんだ」


「はい追加の麻婆豆腐」





コトっ





「お、きたきた...!」





カチッ



ジィ...





「食べる前にタバコに火つけてんの頭おかしすぎだろ...」





「麻婆豆腐のピリスパイスに、熟成された無添加バージニア葉の主流煙がたまらん。うんたまらん」


「米も最高。うん最高」





「全く夜食作ってやるのが馬鹿らしくなってきたな...」





「やっぱあいつは賞金首じゃない。しばらくこの船に置いておく」





「恩人のお嬢さんだからか?」





「...保護してやるんだよ、ガキだから」





「素性がしれないなぁ」


「ていうか、そもそもその恩人ってなんなのか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」





「...ん、あぁ」


「10年前、お前と出会うもっと前の話さ」


「そう...昔の話さ__________」




____________________




私はあの日、地球にいた。


そう確か、東経35度に位置する地域。日本と呼ばれていた所か。


そこにいる賞金首を片っ端から殺して船にぎゅうぎゅうに詰め込んだんだ。


賞金首ってのは死体でも金になるからな。


だがあの日...大粒の雨が廃墟に降り乱れるあの日。


私は本命の賞金首の罠にハマり、文字通り死にかけた。


右肺と肩に風穴を開けられ、追ってを丁度振り切ったその時。視界が真っ白になって、全身の力が抜けてぶっ倒れてしまった。




そのまま視界が眩む中、ゆっくりと霧の中から黒い何かが私を見つめていた。





「...っ」


「誰...だ」




「...香澄、この方に傘をやりなさい」





「はい、おじいちゃん」





「(違う...こいつらは賞金首じゃない)」


「(だれ...な...ん...だ_______)」





...ドサッ




____________


_________


_____





「ふぅッ_________!」





ガバッ





「...起きたか、若いの」


「まぁ、茶でも飲みなさい」





コトっ





ひのき、畳の独特な匂い。


私が目を覚ましたのは、薄暗い和室だった。


肩と胸がジリジリと痛むので、少し撫でて触れてみる。


包帯だ。





「(肩と胸の傷口が包帯で止血されてる...上手い)」


「これは...あんたが...?」





「孫の香澄だ。包帯の上手さは、嬶譲りだな」





襖の隙間からちらちらと視線を感じる。


小学生ぐらいの子だろうか。黒髪で、茶色のチェックのワンピースを着ている。





「香澄も、こっちに来なさい」





「ぁ...」




隠れてしまった。





「ふっ...久しぶりの客人で照れとるな」


「まぁいい、しばらくすれば来るさ」





「なぜ俺を助けた」


「あんたも狙われるぞ」





「奴らは入ってはこれんさ」


「特にこの長岐の領域にはな」





「...ヤクザか」


「俺はヤクザは嫌いだ。いつかあんたもぶっ殺してやる」





「...その殺意の籠った目。まるで狼のようだな」


「聞け、若いの。今の世じゃ暴力で渡り歩くのは強力だ。だが_________」


「_____その荒んだ世では、平穏の方がはるかに強力だぞ________」






「...なにを抜かすかと思えば、ヤクザとやらが平穏を語りやがる」


「お前ら賞金首のせいで、どれだけの平穏が乱されているのか理解してるのか?」






「ぶつくさ言うな。どうせ私らは"似たもの同士"だ」






「...なんだと」






「お前は賞金首を殺して平穏を求める。しかし私もこの日ノ本を統一して平穏を求める」


「それのどこに違いがあるというんだね?」






「...俺をヤクザと混同したな」


「いい度胸だ。3つ数えないうちにお天道様に念仏唱えろ。ぶっ殺してやる」





カチョッ






「_______やめて!」






ガッ






「_____このガキ_____!」


「離れろ!お前までぶっぱなすぞ!」






「やだ!だっておじいちゃん悪い人なんかじゃないもん!」


「この前だって...近所のおばあちゃんから、悪い奴らからこの土地を守ってくれてありがとうって...!」






「...ッ!」






「そんなのでおじいちゃん撃たないで!」


「撃ったら一生、恨むからッ!」






「...なっ...」







「香澄!ええ加減にせんか!」


「その人から離れんさいッ!」






「あ、ぅ...」





そんな怒号が飛ぶと、香澄という少女はトボトボと私から離れていった。


今の激で私の背筋も真っ直ぐに伸びたのを感じた。






「どうかね、ここは一つ手を組まんか」





「手を組むだと...?」





「あんたはここの賞金首を狩りにきた。その連中は私らも迷惑している連中さ。即刻排除したい思いだ」


「だからその賞金首を協力して排除せんか。賞金はあんたの総取りでいい」






「...」


「俺を利用してここら一体を統一しようって腹か」






「全ては平穏のため。その目的は絶対に履き違えない」






「...」


「...負けた、あんたらには」


「傷が癒え次第奴らを殺しに行く。しっかり準備しておくことだ」


「羽咲のおっさん」





_____________________





「へぇ、面白いじゃん」


「で、つづきは?」





「おいおい、これは童話じゃないんだぞ。ガキみたいに続きをねだるなよ」


「結局私とおっさん達が賞金首ども倒して終わり。その後お前と出会ったの」


「問題はあの子だ。あんなちっちゃくて可愛かったお嬢ちゃんが、今じゃ殺人マシーンなんておっさん聞いたらびっくりして生き返るぞ」





「今は休ませて、そこから最善策を見出すしかないか」





「そうだな...」






「「...」」







「...」


「麻婆豆腐、おかわりあるけど」





「食べる」






_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _




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