DJANGO
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「わかった...明後日修理代の2倍の金を持ってくる」
「それで...3日で直してくれ」
「...」
「なにか、わけアリのようだな」
「アンタの知識と腕を見込んでの頼みだ」
「58年のGODカーを知ってくれてんのは...アンタだけだ」
「...」
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ザッザッザッザッ...
「...結局、金と引き換えに3日で直してくれるそうですね」
途方もない荒野を歩く。
宇宙船を無くした私らは歩くしか無かったのだ。
「...」
ザッ ザッ...
後ろからの足音が消える。
香澄は立ち止まった。
「_______そろそろ、教えて貰えませんか」
「_____あなたの、目的を_______」
「...目的?」
「とぼけるのはやめてください。私は貴女の闇を知っています」
「へぇ...」
「そりゃ一体どんな闇かな」
「見たんです。貴女が警官を残忍に殺害する様子を」
「...」
「油圧機に押し込んで...その人が跡形もなくなるほどに焼き焦がした」
「わざわざあんな殺し方...普通じゃありません」
「...普通じゃない?」
「ああ、あの警官も今までそんな普通じゃない殺しをやってきた。だから普通じゃない殺し方をしてやったまでだ」
「私は...貴女のことを話してるんですよッ!!」
「...」
「恐らく貴女は、有栖川が重体を負わせられたからあんな殺し方をしたんです」
「でも報復としてあんな殺し方は...まるで...」
「_____まるで...マフィアと同じよう____」
カチョッ
「▅▅▅▅▅▅それ以上喋ったら殺す▅▅▅▅▅▅」
「...っ」
振り向いて香澄の額に銃口を向ける。
時間が一瞬止まったようだった。
だが風が私のコートを揺らしたのでやはり時間は止まっていなかった。
「ウォーカー...あなたおかしいですよ」
「有栖川が拘束されて私に助けを求めた時、あなた言いましたよね?」
「"もう誰も失いたくない"、って」
「...」
「なのに今は...私の額に向けて銃口を向けている...本気で撃つ時のあなたの目です...!」
「っ...違う...そんなことは...っ」
..."そんなことは"?
"そんなことは"、なんだ。
本気で撃つ以外銃を抜く理由はあるのか?
仲間を撃つ理由は。
俺は...本当に仲間を________
この香澄という少女の頭を、撃とうとしていたのか?
「違う...俺は...俺は...」
「...」
______本当に撃つべきは______
__________俺だ__________
かこっ
「...ッ!!」
「________だめ...ッ!!!」
バギャンッ_____________
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_____▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅_____
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ゴッ。
鈍い音が後頭部から鳴った。
口にくわえた銃口が頭蓋を打ち砕いたか。
でもそれは仕方ないと思う。
仲間を一人...殺そうとしてたんだから。
「______ウォーカー_____!」
「...」
意識がある。
不意に後頭部を撫でてみる。
触れた感触は乾いた砂ばかり。
目の前の銃口からは硝煙が吹き出している。
「...」
「...俺は...死んでいないのか...」
「ええ...生きてますよ...残念ながら...」
「...まだ...死ねないのか...」
「宛のない砂漠を...まだ歩き続けなきゃいけないのか」
「ウォーカー...」
途端。目からなにかが溢れ出した。
感動?
香澄が全力で止めてくれたから?
違う。
絶望だ。
果てしなく続くこの永遠の絶望から結局は解放されないからの涙だと、自分で理解した。
運命からは逃げられない。
そうだ、いつだってそうだった。
運命という悪魔からは絶対に逃れられることは出来なかった。
あまつさえ消滅したいという情けない願いでさえ...運命は容赦なくかき消していった。
「...コーウェル...ギャロぉ...みんなどこに行ったんだよぉ...!」
「俺を置いて...みんなどこに行っちまったんだよおッ!」
「...」
「...っ...毎晩心の中で叫ぶ。こうやってアイツらを」
「でもあいつらは帰ってこない。なんでか分かるか?」
「みんな死んじまった...!マフィア共に殺されて、棺桶すら入れずに...ッ!」
「...っ」
「...お前は言った。なんで賞金稼ぎなんかやってるかって?」
「仲間を皆殺しにしたクソマフィア共の首をちょんぎる為だッ!!!」
「腹を食い破って...喉を掻っ切り、目ん玉抉って食ってやるのさッ!!!」
「▅▅▅▅▅それが俺の目的だッ!!!▅▅▅▅▅」
「...」
「はぁ...はあ...」
「だけど...いつまで経っても、火星の何処を探してもそいつらは見つからない...どの宇宙のどの惑星にもな」
「生まれた時から俺をレイプした奴も、仲間を皆殺しにした奴すらもなぁッッ!!!」
「...っ」
途端、香澄の顔がレモンを絞るようにくしゃっと歪んだ。
頬にレモン果汁が落ちてくる。
それに酸味はなく、ただ、しょっぱい。
「...なぜ泣く。俺を憐れむな」
「抜け殻は...一生抜け殻なんだよ」
「そんな悲しいこと...言わないで...」
「私が...私たちが...いるじゃないですか」
「私たちは仲間じゃなかったんですか...?」
どんな糸よりか細い声。
また彼女は小さく消えてしまいそうになる。
そんな姿に、光に触れるように彼女の頬を撫でる。
「...」
「....いや...そう...だな...すまなかった」
「...帰ろう、香澄」
ぐぐっ...
力の抜けた足を垂直に立たせ再び北西へと歩く。
後ろに不安がる少女を置いて。
「ついてくるなら...こいよ」
「スラム育ちの野良犬についてくる気があればな...」
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_____▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅_____
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