[続続続] 名無し草
[______こっから40m先カーブだ、気をつけろよ]
「了解」
ハンドル横にあるパドルシフトを一回叩きシフトダウンさせる。
適度に速度が落とされ軽やかにカーブを曲がってゆく。
そして直線に入るとまたシフトアップをし、加速してゆく。
一瞬にして機体は最高速度の500kmに達した。
[_______調子がいいな"名無し草"。危ない薬でも打ったのかい?]
「バカ言うなコーウェル。そんな状態でこの速度カマしたらあっという間にお陀仏だ」
[お、そうだったな!ま、あたしはレースでアドレナリン出せれば元気100倍だぜ!]
「ふふ...」
[そういやお前、よく笑うようになったよな]
「そうか?」
[ほら、最初チームに来た時は自己紹介もしないで無愛想だったじゃん]
[だから名無し草って名前も付けられたんだぜ?]
「...」
「名無し草...か」
______________________
「______明日はみんな知っての通りGODレースの本番だ。新参の奴らのために言っておくが、このレースはマジにやばい」
「ピットであぐらかいてる奴も数秒後にはミンチになってるようなレースだ。なに、暴走した機体が突っ込んできて剥き出しのエンジンに巻き込まれただけよ」
「「「へへへ...」」」
豪華な飯にスポドリと紅茶。
今日のチームの食堂はいつにもまして活気漂っていた。
そして今、青黒い髪をしたメガネのギャロという男が壇上に立って大声で話している。
「...」
「また、運転手も然り。時速400kmで機体ぶつけられて爆散致死したやつも数しれん」
「名無し草。特にお前、気をつけろよ」
「ん...」
「そんなにやべぇのかよ、このレースは」
「あ?当たりめぇだろ。観客までバンバン死んでんだぞ」
「だが俺らは...俺たちこそが優勝すれば、莫大な金と、俺らの血と汗の結晶であるレースカーのレプリカが全員分に贈られる」
「______そのためには、死に狂うまでよ」
「...」
「...面白ぇ」
「______全員ぶっ殺してやるよ。俺達が最後に残るまで」
______________________
[_____皆様、長らくお待たせしました。間もなくGOD杯が開催されます]
[関係者は速やかに定位置についてください]
レース開幕のファンファーレが鳴る。
死のレースとは程遠い程に明るい雰囲気に少し圧倒された。
ピピッ
[やい名無し草!感度どうよ!]
「...最高だよ、ちょっと元気すぎないか?お前」
自分のチーム、"ハリトンボ"のピットを確認する。
案の定、コーウェルはそのゴーグル付きのヘルメット頭を揺らしながら元気よく手を大きく振っていた。
いつもながらのくたびれたノースリーブの白シャツを身につけ、また短い金髪を靡かせている。
「てか、そろそろその小汚いシャツ捨てたらどうだ?」
[これはあたしの勝負服よ!捨てられるかってい!]
「ふっ...そうかよ」
「なんか安心した。死のレースとか言ってるけどただのレースじゃんか」
「ぱぱっと勝って、ロマネコンティでも流し込もうや」
[おう、流し込もうや! ]
「ふふっ...」
「"ハリトンボ"さん早くスタート位置について下さいよぉ!もう始まっちゃいますよ!」
「ん...あぁ、悪い」
キキキィッ
ガォン...ガォンガロロン...!
[全12車定位置に着きました。これよりレースを開催します]
ピピッ
[_______ハリトンボのドライバーに告ぐ]
[_______この勝負、負けろ_______]
「あ?」
「誰だ、お前」
[_______負けろ。兄貴の命令だ]
「...兄貴...?」
ピッ
[名無し草!おい名無し草!聞こえてんのかい!]
[ギアをローに入れろ!もう発進するぞ!]
「チっ...!」
前を見ると点灯ランプが既に2つ目の赤色にまで達していた。
私がギアを下げた瞬間に青色のスタート色に変わる。
ギャリギャリギャリ...!
「(クソ...ッ、出遅れたッ!)」
[お、おい!]
「分かってるッ!」
ギュロロロロロッ!!
「(なんか加速時のエンジン音が変だ...エンジニアは何してんだッ!)」
[60m先右カーブ]
[きついぞ]
「...ッ!」
ギャリギャリギャリッ!!
グォォオオオオッ________
[あっぶな...コーナーギリギリだったぞ...!]
「さっきからエンジン音が変なんだ。キュルキュル言ってやがる」
「ピットスタンバイ頼む」
[お、おう!]
カーブの後、なんとか直線に軌道を戻し加速する。
「(このレースは短距離走だ...24kmの鉄柵で囲われた紆余曲折を走破する...ッ)」
「______ただ、それだけのことだ...ッ!」
ギュォオ______オン________ッ
「コーウェル、時速500キロ乗った」
[よし。上位に食い込めばピット入りにも余裕ができる]
[直線でぶっちぎっちまえばこっちのもんだぜい!]
「あぁ!!」
時速500キロ。
前方を走る12番5番の機体にゆっくりと近づいてゆく。
「(2体ともぶっ飛ばすのもいいが、今は機体を損傷させたくない)」
「(それよりも今は、上位に食い込むが吉...!)」
ギュロロロロロ________ッ
[よう、調子は戻ったみたいだな!]
[さらに前方3体いるぜい!]
「_______任せろ______!」
ギュォオオオオオアア_______ッ
__________ガギンッ
「...っ!!」
「くっそ...!」
ガヒュ_______ゥン_______ッ
[なんだ、どうした!]
「3機に挟まれてアーマーが剥がされた...ッ」
「修理の準備も頼む...第3ピットでいい」
[第2ピットじゃないのかよ!]
「まだ上位にくい込んでねぇだろうがッ!」
[...わかったよ!でも死ぬんじゃねぇぞ!]
[前方に1番、4番、11番確認...でも100m先に急な蛇行カーブがある]
[追い抜くんじゃねぇぞ!]
「冗談言うな。絶好の機会だろうが」
「"あれ"、使うぞ」
[あれって...カーブで使うなッ!マジに死ぬぞッ!]
「俺らは皆死ぬ気だ。死ぬ気で頑張ってここまで来たんだ。今更やめられるはずもない」
「_______"自切"、発動_________」
カシュゥ...パラパラパラ...
勢いよく自機の隙間から吹き出る白煙。
塗装のされた私を守る外装が次々にカミソリのような路上に落ちて吹き飛ばされてゆく。
「(アーマーが無い状態でぶつけられたら俺は多分...死ぬ)」
「(だが、同時に大幅な軽量化が成されぶっちぎりでトップに躍り出ることが可能...!)」
[バカヤロー_______ッ!!]
「...コーウェル、お前も知ってるだろ」
「_______軽量化は機体を雲のように軽くする」
500キロの速度で鉄柵という名の壁に直面する。
その距離30cm。先端と壁が接触しそうなその時、全てがスローモーションに見える。
瞬間、私のエンドルフィンは頭蓋に満たされた。
ガオンッ
ギャンギャンギャンギャン_______ッッ!
バガッギュォォオオアアアッッ_______!!!
[...ぬ...]
[抜いた...あ?]
「はぁ...は...っ」
[や、やりやがった...3機抜いちまった...]
「ははっ...ま、こんなもんよ_______」
_________バチィッッ!!
「...」
「...は?」
[今の音...!早く第3ピットに入れ!]
______________________
「...これは...なんで...」
「なんで、タイミングベルトが切れてるんだッ!」
バンパーを開けたギャロが叫ぶ。
その光景に、他のピットクルーはただ黙ってるしか無かった。
「おいコーウェル!お前んとこのエンジニア整備サボったんじゃねぇのか!」
「そ、そんなはずないだろ!レース前にみんなで確認したはずだ!」
「...じゃあ、誰が一体...まさかこの中にスパイが...ッ」
「...コーウェル」
「もっかいタイミングベルトを付けて」
「________こいつをフレームだけにしてくれ」
「...は...っ」
「...ば、バカいうなって...フレームだけってのは、エンジン以外全部取り払うってこと...」
「しかも今更行ったって...優勝は...」
「...頼む」
「こんなことで終われねぇ...終わらせてたまるか...」
「「...っ」」
「...わかった」
ガシャッ バリッ ガガッ...
「...なぁ、コーウェル」
「やっぱり祝杯はジョニーウォーカーにしないか」
「...」
「高いワインより、そっちの方が好きなんだよ」
「...」
「...あぁ...そうしよっか」
ガロン...ガロロロロロロ_________
「(...名無し草...頼む...)」
「(まだ俺に...夢を見させてくれ)」
______________________
キュゴォオオオオ________ッッ
[5機追い抜き確認。現在6位にまで上昇]
「(流石に速いな...石が飛んできただけでも頭吹っ飛ぶぞ...ッ)」
[が...ここまでだ。ギアを最大限落としてスピードを落とせ]
[この先400m...きついUターンがある]
「(コーウェルが無理だと言ったのはこれのせいか...確かに今の速度で走れば優勝できるかもしれない)」
「(しかし1歩でも間違えばあの世行き。俺は跡形もなく冥界に逝く...)」
______________________
「そのために汗を出せ、血を出せ、全てを犠牲にしろ」
「汝求めよ。さらば与えられん」
______________________
「...」
「...もう...」
「▅▅▅▅▅もう、ここで終わってもいい▅▅▅▅▅」
ガヒュンッ
ギャォオアアアアッッ________!!!
[...ねぇ、なにしてんの]
[_______何してんだよッ!!!]
[なんでギア上げてんだよッ!!スピード落とせっつってんだろッ!!]
「______そんなに死にたいのかよッッ!!!」
「...なんだよ、お前も見たかったんじゃないのかよ」
「俺らが目指した...夢の続きを」
[...見たいに決まってるだろッ!]
[でもさ...死んだら夢も何もないんだよ...お前と酒も飲めなくなるんだよ...ッ]
[それでもいいのかよッ!!]
「...」
「...俺は、機体が欲しい」
[________]
「▅▅▅▅▅▅俺は、これが欲しい▅▅▅▅▅▅」
ピッ
そして、コーウェルとの無線を切った。
ギュォオオオオオアア________ッッ!!
ターンの初めから20m。
向かいに見えるは鉄でできた壁。
500キロで走ってるというのに、全てがスローモーションに見える________
「GODレース...その名前の意味、ようやく理解できた...」
「これは誰かを殺して勝ち残る遊戯ではなく」
「______自分を殺して勝ち残る遊戯なのだと_______」
ガギュンッ
「▅▅▅▅▅▅▅180°サイドターン▅▅▅▅▅▅」
______ギアを最低まで落とし機体を正反対にする_______
_______そして壁面に向けての______
__________最大火力_________
ボギョォォオオアアアッッ!!!!!
「______うぉぉ"お"あ"あ"あ"あ"ッッ!!!」
_______一歩間違えれば壁のシミ______
________しかし_______
___しかしもし、500キロの速さを掻き消せれれば__
▅▅▅▅もう誰も、俺を野良犬とは呼べない▅▅▅▅
ギャリョリョァアアアア_______ッッ!!!
「_____俺の____勝ちだ______」
ギィ_______ヒュ______ン____ッ
最後の難関を通り抜けラスト2km。
時速は再び500キロの水準に戻り直線を駆け抜けてゆく。
1機、3機、4機。
過度な軽量化を施されたこの機体はライバル達を地平線まで置いていき、残すとこ3番との一機勝負となった。
ギュロロロロロロ__________ッ
「(ゴールまで残り300m...1位は200mってとこか)」
「(だが最高軽量化によって、今時速は600キロにまで達した)」
「_____あぁ...こいつとなら________」
「_______どこまでも行ける_______」
_____ガ_____ヒィ_____ン__ッ
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▅▅▅▅薔薇と拳銃▅▅▅▅
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