第九問 自由記述は困るので、やめてください。
第9話です。
よろしくお願いします。
初クエストで色々あって、落ち込んでいるというリディを元気づけるため、フェルナンさんのお店で、例のお菓子をもらってきた僕は、リディの部屋に訪れたが、そこにリディはいなかった。
どこ行ったんだろう?エリカやベターは部屋から出ていないと言っていた気がするけど。まあ、しばらくすれば戻ってくるだろう。そのとき、一緒に食べよ。
僕はそんなことを考えながら、リディが帰ってくるのを部屋で待った。
しかし、1時間ぐらいしても戻ってこない。
これ、先に食べよっかな?と言う考えが、何度も頭をよぎったが、なんとか我慢した。僕は空気が読めるので。
それからしばらくして・・・
「うおおおお!つ、ついに、できたあああ!。」
そう叫んだ僕の天に掲げた手には氷で作られた人型駆動兵器アヴァムの48分の1スケール胸像がおさまっていた。
いやぁ、ほんと大変だった。僕の魔法では大きな塊が作れないから、ちまちまと氷を積み重ねて数時間、ようやく完成した。その代わりと言ってはなんだが、「観測」という分析することには長けた昨日得たギフトまで使って、細部まで細かく再現した自信作だ。このデュアルアイの内部カメラまで再現するという緻密さ。これは、溶ける前に早く誰かに見せたい。…リディはまだかな?
窓を見ると少し空が赤く染まってきていた。
「どこまで行ったんだろう。リディ。」
僕は、少し心配になってきたので、部屋から出て、街に様子を見にいくことにした。
階段を降りるとギルドの酒場にはエリカとベターがカウンターでギルマスたちと話していた。
「しっかりと抱きしめてやったか?」
僕に気づいた、ギルマスがニヤニヤと表情を浮かべながら声をかけてきた。
「はー、昨夜も言いましたが、そんなことしないですよ。…それに、リディは部屋にいませんでしたよ。」
僕が呆れながらそういうとその場にいたエリカが驚愕した表情を浮かべ問いかけてきた。
「リディはいなかったの?外に出たとこは見てないんだけど?…ていうか、カイ。いないってわかっているこの時間まで何してのよ!」
「え、しばらくすれば戻ってくると思って待っていたんだけど。」
僕がそう言うと、エリカは唖然として固まってしまった。すると今度はベターが近づいてきて、僕が手にしていた氷像に指を指して「これはなんだ?」と聞いてきた。
「よく、聞いてくれた。ベター。これは僕がいた世界で一二を争うほど人気だったロボットを魔法で再現したんだ。見て、この造形の細かさを。すごいでしょ。」
僕は声を上擦らせながら彼に見せつけた。
「ロボット?ゴーレムみたいなものか。それにしても、カッケーな。よくわからんけど、なんかテンション上がってくるわ。この目とかすごいな。めっちゃ惹かれる。」
「でしょー。そこ僕のこだわり。実はこのロボット…」
僕たちは氷像をまじまじと見ながらロボット談義に花を咲かせた。
ゴンッ
すると、突然頭に衝撃と共に痛みが伝わり、僕たちは頭を抑え踞る。
「あんたたち!何バカなこと言ってるのよ。リディが朝からこの時間まで帰ってきてないのよ!心配じゃないの!」
エリカがそう怒鳴り声をあげ、僕の視線の先で床に転がるアヴァム像を足で踏み砕いた。
あああー。僕のアヴァムがああああ。
僕が砕かれた氷像に手を伸ばしていると、冷めた目を向けてくるエリカの代わりに、その様子を見ていたギルマスが少し肩を震わせながら、けれど真面目な口調で声を出した。
「ふふ、氷像は残念だったね。それよりもリディのことは心配だ。私らはあれからここにいたけど、外に出たところは見ていない。つまり、夜の間に外に出かけたということになる。これは、急いだほうがいいかもしれない。」
「そうね、手分けして、探しにいきましょ!…ほら、あんたたちもさっさと立ち上がっていくわよ!」
エリカはそう言って僕の肩を叩き、外へと歩み出した。
確かに。エリカの言う通りこんなことしている場合じゃないな。ついベターが乗ってくれるから話し込んでしまった。くそー、ベターめ。さすがベタなことには長けているな。巻き込まれてしまった。うん。よし、リディを探そう。
僕は当初の目的だったリディを探しに街に出かけた。
すっかり日が落ちた頃、僕らは再びギルドの酒場に集まっていた。
僕は、あの後、真面目に街ゆく人々にリディの特徴を話し、居場所を知らないか聞いて回ったが、誰もが目を逸らし、知らないといった。この街の人たちは冷たいのか、本当に知らないのかはわからないが、なんの成果も得られなかった。
ちなみに、フェルナンさんのお店やあのおばあちゃんの服屋にも行ったがリディはいなかった。彼らは街の人たちと違い、本気で心配してくれ、何か手がかりがないか探してみるよと言ってくれた。おばあちゃんはちょっと怖いぐらい迫ってきたがそれは、まあ、はい。
僕は手がかりを見つけることができなかったと皆に伝えるとエリカやギルマスも同じと言うように首を横に振った。
僕らは顔を見合わせて、まだ、この場に帰ってきていないベターに期待することにした。
彼は、ベターだけど、だからこそ何もなかったは絶対にない。
僕が彼に期待を込めて、サムズアップの準備をしているとギルドの扉が勢いよく開かれ。ベストよりベターな彼が姿を現す。
「おい!リディの場所がわかったぞ。道に彼女の冒険者カードが落ちているのを見つけたから、周りの奴らを問いただしたら、夜間に襲われている銀髪の少女を見たってやつが数人いた。…おい、やべぇぞ、これは。リディは攫われてしまったんだ!」
「…」
場が一瞬静まり返った。
え、これはベターなのか?リディの場所がわかったのは良かったけど。攫われたって、何それ。やばいじゃん。え、どうするのこれ。いや、ほんと。はは、どうすればいいの。
僕が、僕らが困惑していると、さすがギルマスと言いたっところか。落ち着いた声で、かつその場の皆に聞こえるように大声で声を出した。
「お前ら、落ち着け。リディが攫われた。家族が攫われて黙っている私ではないことはお前ら、わかっているよな。これから私はリディを助けにいく。…おい、ベターお前も来い!エリカとカイお前らはここで留守番だ。他の者もここで待機し、私らが出かける準備をしろ!」
ギルマスの話を聞き、ベターを含むその場にいたものは慌ただしく動き始めた。ただ、僕を除いた一人を残して。
「ギルマス!なぜ、カイは一緒じゃないんですか。カイこそ、一緒に行ってリディを助けるべきでしょ!」
エリカはギルマスの判断に納得しないように声を上げた。
「ダメだ。カイは昨日の怪我が治ったとはいえ病み上げりだ。それに、冒険者になってから日があさい。正直行って足手纏いになる。」
「でも、カイはギフトを持っているし、魔法の腕はこの私が保証するわ!だから連れっててあげてよ!」
「…それでもダメだ。何より彼は、リディを助けるという意味を知らない。覚悟がない奴は後で、苦しむことになるし、後悔する。それなら、この場で彼女が帰ってくるのを待っていた方がずっといい。」
ギルマスがそういうと、エリカは「それは…」と小さく呟き、黙り込んだ。
僕はそのやりとりの内容は、よくわからなかったが、ギルマスの言うことは正しいと思う。最初に留守番とギルマスが言ったとき、ホッとした。エリカには悪いが、こういう時は、経験と実力のある奴に任せた方がいい。僕は、大人しくリディの無事を祈ってければいい。
僕がそう納得していると、エリカが何かを決めるようにゆっくりと口を開いた。
「それじゃあ、リディが…カイが可哀想だよ。だから、カイにも全てを知ってもらう。そして決めてもらう。ギルマスそれでいいよね。」
すると、ギルマスは「好きにしろ。だが、手短にな」と言った。少し嬉しそうな顔していたのは僕の気のせいだろうか。そして、エリカは僕に向き直り、真剣な表情で語りかけてきた。
「ねえ、カイ。リディのこと心配だよね。これから私の話を聞いてもその気持ちは変えないでね。」
そう言って、エリカはリディについて話し始めた。
正直言って、聞きたくない。でも、「え、心配だけど、その話は結構です。」とは言える空気ではないことは僕でも分かるので仕方なく頷き彼女の話に耳を傾ける。
「この世界には、たくさんの人型の種族がいるの。カイの世界がどうだったかは分からないけど、獣の特徴を持った獣人族や魔族と呼ばれるモンスターに近い種族などそれはもうたくさんいるの。でもね、一つだけこの世界に存在しないはずの、いや、してはいけない種族がいるの。その種族の名は超月族。それが…彼女の種族なんだよ。」
超月族?存在しない?彼女は何を言っているのだろうか?だって、リディは僕らと何も変わらない、少し気の強いところがあって可愛いらしいどこにでもいるただの少女じゃ…
僕がそう感じていると、彼女は僕の考えを察してくれたように話を続ける。
「そうね。リディの見た目だと分かりづらいかもしれないね。彼女は純血じゃないらしいから。それでも夜になると髪が美しい銀髪に変わるはずだよ。彼ら超月族はみな夜空に浮かぶ月のように綺麗な銀色の髪をしてるんだ。それはどんなに染めても、別の種族と交配して違う色がまじっても夜になると必ず純粋な銀色に変わる。まあ、呪いみたいなものと思ってくれていいよ。他にも色々あるらしいけど、とりあえず今は置いとくね。」
「それでね、なんでこんな風になっているのかというと、話は初めに戻るけど、彼らがこの世界のものじゃないからなんだよ。確かな証拠はないけど皆そう思っている。だって、彼ら超月族は大昔と言っても二百年ぐらい前らしいんだけど、空から突然、地上の人たちを襲ってきた侵略者だから。」
「侵略者?」思わず僕は疑問を口にする。
「そう。彼らは見たこともない武器や道具を使って襲ってきたらしいわ。それこそ、さっきカイが見せてくれたゴーレムのようなものもいたと文献に記されていた気がするわ。」
「当時、見たこともない技術に手が出ずに、当初は多くの人が死者が出たらしいけど、彼らが魔法を使えない、知らないことを知ると、一気に形成が逆転したの。今では、彼らはごく一部しか生存していない。」
「それは大昔のことなんだよね?今回の事件とどう繋がるの?」と僕は問いかける。
「ううん、違うの。確かに戦争には勝ったけど、多くの死者と影響を出したわ。だから、今でも変わらず、彼らに対するあたりは冷たいものなの。カイも見たでしょ。街の人たちの反応を。それなのに彼らの技術だけは今も活用としようとする人たちはいるんだよね。」
僕はそう言われて、「あー」と頷いた。
確かに、この街に来てから、多くの視線を感じた。あれは、あのおばあちゃんの服のせいではなかったのか。そうか、リディが最初大人しくなったのもこういう背景があったからか。
でも、それじゃあ…
「じゃあ、エリカやギルマス達はどうして、こんなにも親切に助けようとするの?何も感じないわけじゃないでしょ。」
僕は当然の疑問を彼女に問いかけた。
「うーんとそれは。ギルマスはどう思っているかはわからないけど、この国はね、人間史上主義なの。元々他種族には厳しくてね。…実は、私も獣人族なんだよね。だからリディの気持ちも少しはわかるの。」
そう言って彼女は大きな尖り帽子を外し、そこから猫のような耳が見えた。
「…」
僕が何もいえずにいると、彼女は明るい声で言った。
「まあ、ここには私みたいな問題を抱えた奴もいるし、それに全員が人間至上主義ではないからね。カイもすでに出会ってるでしょ?それにリディは友達だしね。だから私は、私たちは彼女を助けるよ。…それで、カイ。あなたはどうするの?」
彼女は、最後にそう問いかけてきたが、どうするも何にも、急にそんなこと言われてもな。
とりあえず、彼女の話をまとめると、リディはこの世界では嫌われている種族の一人で、尚且つこの国は他種族NGの人間至上主義。だけど、リディの種族、超月族が持つ技術は欲しいという。確かに、彼女を助けるのは相当のリスクがありそうだ。
僕は、話をひとまとめすると天を仰いだ。
ああー、聞きたくなかったな。だから、嫌だったのに。彼女に思い過去があるのはなんとなく感じてたけど、想像以上だった。そして、ほんと、できれば知りたくなかった。今が楽しかったら、彼女が笑って過ごせるならそれでいいんだって思ってた。いや、まあ関わりたくなかっただけかもしれないけど。でも、それを聞いてしまったら、知ってしまったら。
はー、今の僕がしなければならないことなんて…
「話してくれて、ありがと。その、話を聞いた上で、ギルマスの言葉は正しいと今でも思う。僕なんかが行くべきではない。」
こんなの、もう決まったようなものじゃないか。
「でも、…それじゃあ、僕の心が…なぜか納得してくれないんだ。…だから、僕も行くよ。ギルマス。僕も連れてってください。お願いします。」
はは、ほんと、泣きそう。…ねえ、先生。これで良かったんだよね。
僕が胸を押さえ、訴えるようにギルマスにいうと周りにいた冒険者達が、「さすが、兄弟」「うおおお、ちゃんと助けてやれ!」「だいすき!」とか騒がしく歓声があがった。まあ少しおかしいのが混ざっていた気がするけど概ね好意的なもので少し嬉しかった。
そして…
「よし。それじゃカイも来い!リディを助けるぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ギルマスがそう言うと雄叫びがギルドに響き渡り、僕とギルマス、そしてベターは、リディを助けに向かった。