第十問 質問は最後まで回答しましょう。
第10話です。
よろしくお願いいたします。
僕がギルドの外に出ると皆が準備してくれた馬車が止まっていた。その馬車には2頭の馬のようで、全身を銀色の硬質なもので身を固めた生物が絡がれていた。
何この、生物。え、まって。これ鎧じゃないの。地肌なの!?すご。
僕が、その生物に恐る恐る触りながら、驚いていると、御者台にベターが座った。
「お、初めて見るのか?こいつらはアイアンホースって言うんだ。こいつは全身を硬く柔軟な外骨格に包まれ、それが動きを補助するように動くんだ。普通の馬の数倍は早いぜ。」
「…」
え、何それ。つまり、パワーアシストスーツを自ら作り出してるってこと?おかしいんじゃないのそれ。ていうか、それよりもベターが運転するの?そっちのが驚きなんですけど。
「おい、ぼっとしていないでささっと乗れ!急ぐんだろ。」
僕が呆けているとベターが早く乗れと言ってきたので、疑問を口にするまもなく馬車の荷台に乗り込んだ。ギルマスはすでに乗り込んでいたようで、僕が乗ったのを確認すると、ベターは馬に合図して、走り出した。
はは、やば、すごい早い。
馬車は進み出すと同時に風を切るように一気に加速し、瞬く間に街の外壁を抜けた。
馬車についてる窓を覗くと勢いよく通り過ぎる景色の中に赤い一筋の光が見えた。よく見ると馬の外骨格の部分が体のラインに合わせて光を放っていた。
何これ、ほんと。すごいカッコいんだけど、この生物。
僕が一人、興奮しているとギルマスは手に持ったリディの冒険者カードを見て、何やらベターに指示を出していた。
そういえば、リディってどこにいるんだろう。彼女達は居場所がわかったようなこと言っていたけど。僕のギフト「観測」はあらゆるものを見渡すらしいけど、よく使い方がわかっていない。それに彼女達は最初から僕のことをあてにしていなかった。
「ギルマス、リディはどこにいるかわかるんですか?」
僕は、ギルマスに問いかけた。
「うん?あー、説明していなかったな。どういう原理か私も知らんが、製作者曰く、魂のレベルで所持者と繋がっているらしい。だから、安否の確認や居場所の把握ができるらしい。登録する際、そういう感覚があったろ。」
ギルマスの答えを聞いて、冒険者カードを作った時のことを思い出した。確かに、ビリビリという感覚と共にカードと繋がったという感覚があった。
僕は「なるほど」と納得したように呟き、ギルマスの手元に目をやる。
すると、彼女は、カードのリディの名前が刻まれた場所をそっと指でなぞりながら独り言のように話し始めた。
「クレモニアはな、唯一認められていた超月族の都市だったんだ。だが、先日、ちょうどお前達がギルドに訪れる前に壊滅したと知り合いから聞いた。その時は、残念だと思ったし、何もできなかったことを悔やんだ。だから、彼女が、私の目の前でクレモニアの名前を名乗った時、なんともいえない気持ちになったよ。そして安心した。一人でも生きてくれて良かったと。…世間はひどくいうが、別に今の私たちが何かされたわけでもない。同じ命あるものとしてこの世界に少なからず貢献して生きているのに。なぜ嫌われなくてはいけないんだ。…それなのにどうだろうか、その彼女まで攫われてしまった。私は今度は助けるぞ。なあ、カイ。」
僕は、彼女の突然の独白に戸惑い、心が締め付けられるような感覚に襲われたが、強く頷いた。
…僕だって、彼女を助けたい。
そして、ギルマスは立ち上がり、空気を変えるように明るい声をあげる。
「さあ、カイ気を引き締めろ!ここから森に入る。夜の森を舐めると死ぬぞ。ベター。馬車の制御は任せた!」
その言葉を皮切りに高速で走るこの馬車に向かって、さまざまなモンスターが襲ってきた。
…だけど、その全てをギルマスが魔法で撃退していった。
「…」
僕は、その光景を目にして言葉を失った。ギルマス強すぎない?凄すぎて、逆に気が引けるんだけど。あ。
僕が唖然としていると、また一体、しかも全てを引き裂かんと腕を振り翳してきた巨大なクマみたいなモンスターだったのに、なんの躊躇もなく魔法で吹き飛ばした。
僕、いらなくないかこれ。本気でそう思えてくるぐらい、とにかく凄かった。しかも彼女だけじゃない。ベターもすごいとしか言いようがなかった。
ここまで、ギルマスが容赦なく魔法を放ち、かつモンスターが次々と襲ってくるのに、その衝撃がほとんど伝わらない。
こ、こいつ。ベタを極めすぎてなんでもできるようになってるんじゃないか。もしかしたら、ベタの基準の方がズレているだけなんじゃ…。
僕が終始呆けていると、目的地らしい洞窟に辿り着いた。
この森もやばいけど、彼女達の方がもっとやばい。異世界こわ。よし、リディを助けたら、ゆっくり彼女と共に、平穏に過ごすぞ。
僕はいまだにその平穏がどれだけ遠いか理解しきれずにそんな決意をしながら、彼女達と共に目の前の洞窟に足を踏み入れた。
しばらく歩くと、大勢の話声が聞こえるともに奥が少し明るくなっているのを見つけ、ギルマスが手を横に突き出し、静かにとジェスチャーをした。
ちなみに、この道中、先ほどのギルマスの戦いについて「魔力とか体力は大丈夫ですか?」と心配して声をかけると「大丈夫だ。あれは撃退したわけで、殺してはいない。ふふ、まあ全力ではないから安心しろ。」と気味の悪い笑顔と共にそんなの言葉が返ってきた。
「…」
すると、ベターが僕の肩に手をおき「うちのギルマスはすごいだろ!」となんでもないように笑顔でいってきた。
「…」
うん、リディを助けることだけを考えよ。
そして、中を確認すると、十数人の男達が酒瓶を手にわちゃわちゃと騒いでいた。
僕は、それを見ると、素早く駆け出し、彼らの足元を凍らして、動きを封じた。
「おい、なんだこれ」
「お前らはなんだよ!」
彼らは動揺した声をあげ、ナイフや魔法を放ってきたが、僕は、それらを全てかわし、彼らに近づき、少し躊躇いつつも、それでも容赦なく殴った。
だって、後ろの他二人に任せたら彼らはきっと消し炭になるだろう。ほんと、先ほどの戦いといい、あの二人にはそれだけの凄みがあった。
ギルマス達が見守る中、僕は一人の男の襟元を掴み、チラと後ろを振り向きながら問い詰める。
「おい、リディ、銀髪の黒い服を着た少女はどこにいる?知っているなら言え!このままだとお前ら死ぬぞ。」
しかし、彼はなんともないように、嘲笑うように答えた。
「へへ、嬢ちゃん。可愛い顔して舐めたこと言ってくれるじゃないか。しかもあいつを助けるだって。はははは、頭おかしいんじゃないのか。だって…グハッ」
突然、彼は白目をむき、力が抜けたように項垂れる。
僕はその言葉を最後まで聞くことはなかった。
後ろにいたギルマスが彼が言い終わる前に魔法を放ったからだ。
「…」
ふと、先ほどまでの喧騒がなくなったのに気づき、あたりを見渡すと、まだ意識があったものまでが気を失っていた。どうやらベターが何かしたようだった。
「…」
もう、嫌だ…帰りたい。いや、すごく助かるけど、僕ほんとにいらなかったんじゃないのか。
僕は最初の決意が薄まるように、この場所にきたことを後悔しつつあった。
そんな僕に気を止めずに、ベターは何やら情報掴んだようで、この洞窟をアジトととして占める奴隷商が奥の部屋で少女と何かを行っていると僕らに伝えてきた。
ほんと、彼は有能だなあ。
僕はしみじみと思いながら、その場所へと急いで足を進めた。
奥の部屋に着くと、そこは先ほどより大きな空間が広がっており、無数の檻が置いてあった。中には赤い肌をした巨躯が「グルるるるる」と唸り声を上げながら大人しく収まっていた。オーガだ。初クエストで僕たちを苦しめたオーガが数えきれないほどいた。
そして、その檻に挟まれるように通路が続いておりその奥には一人の男とリディがいた。
男は、彼女の髪を掴み上げ、四角い箱のような機械が置かれた机に彼女の額を勢いよく押し付けながら怒鳴り声をあげていた。
「さあ、さっさと話せよ!知ってるんだろこれをどう使うか。…なあ、おい!」
「うっ。し、知らない。私はそんなの見たことな…いやぁっ」
リディの服は、所々擦り切れており、そこから赤いものがちらりと見えた。相当乱暴に扱われているようだった。そして、首には拘束具が付けられており、怪しい光を放っていた。
彼女が、商人らしくこ綺麗な服に身を包み、すかした雰囲気を漂わせる男に殴られる光景を見せつけられ、自分のように胸が苦しく、目を逸らすように俯いた。
ドゥンッ!
すると、突然、重低音があたりに響き渡るとともに、僕の視線の先の地面にヒビ割れ、破片が舞い散っていた。
僕が顔を上げると、ギルマスが彼女に向かって足を踏み出したのだ。
…たった一歩踏み出しただけで、地面が割れるって相当…。
「なあ、お前。お前がリディを傷つけたんだよな。」
彼女はそう静かにいった。だけど、誰の耳にも届き、強い怒りの感情が伝わった。
「な!なんだよ、お前ら。ここがどこがわかっているのか?」
「…ギルマス?それにカイ?どうしてここに!」
僕たちに気づいた彼らは動揺しながら思い思いに言葉を口にした。
僕は、リディに「助けに来た」と伝えようと言葉を口にしようとした時、視線の隅を何かが通り過ぎた。
「いつまで、彼女の髪を掴んでいるんだ?」
「「ひっ!」」
次の瞬間には、ギルマスが彼らの元に現れ、拳を振り上げながらそう言った。
…ギルマス、リディまで、怯えてるじゃん。頭に血が昇りすぎだよ。でもこれで…いや、まだだ。
「ギルマス、「バンッ!」気をつけて!」
「っ!」
僕はギルマスが男を殴りつけて終わりかと思ったが、何か嫌な予感が頭をよぎり、咄嗟にギルマスに向けて注意を呼びかけたが、遅かった。
ギルマスが振り下ろした拳がリディを押さえつけている男に届くことはなかった。寸前のところで、彼女の腕は掴み止められていたからだ。
突如と現れたそいつは、赤い肌をした巨躯でオーガのように見えたが、そんなものじゃない。オーガとは比べものにならないほどヤバいと自然と理解できた。
ギルマスは、痛みで顔を顰めながらも、蹴り上げ、咄嗟に距離をとった。そして「ハイオーガだ…と。」と驚愕した表情でつぶやいた。
「あ、危ないな。おい、お前ら一体何なんだよ!ここが本当にどこかわかっているのか?まさか…こいつを助けに来たっていうんじゃないだろうな。」
男は身だしなみを整えながら、そう言った。僕は答えるように頷くと、さらに言葉を続けた。
「あはははははは、まじか。おい!お前、良かったな。わざわざこんなところまで助けに来たってよ。」
「なんで、どうしてあなたまでこんなところに来たのよ。カイ。」
「どうしてって、まあ、心配だから。ていうか、黙っていなくなるなよ!心配になるのは当たり前だろう。」
「そ、それは、こんなことになるなんて思っていなかったの。それよりもあなたは帰って!」
…助けに来たら、帰って言われた。正直、泣きそうなぐらいつらい。いや、まあ僕を心配して言ってくれてるのはわかるよ。僕がここにいてもギルマス達ような力もないので、ただ邪魔なだけだ。彼女の心を無駄に傷つけるだけかもしれない。ここまでの道中、帰りたいと何度も思ったことか。力がないのは、怪我をすることなんて僕が一番わかっている。だけど…僕だって。
僕が少し戸惑い、それでも彼女に応えようとした時、奴隷商の男が笑いながら先に言葉を口にする。
「ふふ、残念だな、彼女はお前に助けられることを望んでないみたいだぞ。まあ、こいつをはいどうぞ、と渡すわけにはいかないんだけどなあ。」
「なら、力尽くで、連れて帰るだけだ。」
ギルマスは腕の痛みはもう大丈夫なのか、戦闘態勢を整えながらそう答えた。
「おっと、それは勘弁被りたいな。こいつには、利用価値があるんだ。だから、ここで奪われるわけにはいない。お前らが、何者かは知らないが、ここで、死ね。」
男は先ほどまでのおどけたような口調から打って変わって冷たい口調でそう言い、指を鳴らした。
すると、無数にあった檻から電子音みたいな音が鳴り響き、一斉に扉が開いた。そして、
「「「グガああああああああああああああああああ」」」
中に閉じ込められていたオーガ雄叫びを上げ、その姿をあらわにする。
「さあ、これで終わりだ。」
男は、笑みを浮かべながらそう言って、リディを引きづり、さらに奥に向かって歩き出した。
「待って」
僕は思わず、彼女に手を伸ばし、走り出したが、オーガの大群に阻まれた。
くそ、これじゃ、僕は何もできないまま、彼女に傷だけを残して、終わってしまう。それだけは、ダメだ。
僕は、昨日と同様、魔法をうまく使い、オーガの攻撃を避けながら、考えた。だけど、突破口が見つからない。とにかく数が多すぎる。いや、一つだけ、僕には見えている。でも、それは…。
「カイ!お前は先に行け!ここは私とベターで何とかして見せる。だからリディは任せた!」
ギルマスが眼前のオーガを殴り飛ばしながら、僕にそう言ってくれた。
そう、ここは彼女達に任せて、僕が先に行けば間に合うかもしれない。けど、この数は流石のギルマス達とはいえ、無理がある。それがわかってしまうから僕は…。
「嫌ですよ。みんなで一緒に彼女を迎えに行きましょうよ。三人でやればすぐ片付きます。だから…」
「いいから、先に行けよ!俺たちを、ギルマスを信じろ!…なあ、カイ。リディが待ってるんだろう。」
「っ!」
僕が、ギルマスの言葉を否定しようとすると、被せるように今度はベターが声をかけてきた。
ベターの方を見ると彼は、片方だけ腕に装備した鎧の形を自在に変化させながら、オーガを切りつけていた。
ふふ、何あれ。すごくかっこいい。
僕はこんな時にもかかわらず、思わず、そう感じてしまった。そして先程のやりとりを思い返して、再び笑みが溢れる。
あれ、おかしいな。さっきは少し胸にくるものがあったのに、すごく笑えてくる。まるで漫画のワンシーンを見ているようだ。はは、まただ。あの時と同じように口が自然と吊り上がる。これはあれかな。ギフトによって客観視を極めすぎた弊害かな。ふふ、また、頭がおかしいって言われるな。…けど、だからこそ、僕がすることは決まっている。
「うん、そうだね。ベター。ギルマス。ここはお願いします。四人でまた会いましょう!」
僕は、片腕を掲げ、そう彼らに宣言した。自分の言動に思わず笑いそうになったが、今度は何とか抑えた。
ここで、笑ったらダメだ。これは僕らの、いや僕の物語だから。冷静にならないと。笑みなんてこぼして場合じゃない。
僕は、能力を制御するように意識し、オーガの大群の中を駆け出した。
そして、僕が動き出したのを確認したギルマスとベターは道を開くように力を行使し、その場に残った。
奥へと進むと先ほどよりも狭い空間が広がっていた。そこにリディとそれを引きずる奴隷商の男がまだいた。どうやら、間に合ったようだ。だけど、ギルマスの拳を止めたオーガも一緒にいるのが問題だ。
僕がどうするか迷っていると、こちらに気づいた男が声を上げる。
「おいおい、まじか。あのオーガの大群を抜けてきたのか。可愛い顔してよくやるな嬢ちゃん。」
「カイ!どうしてここまでくるのよ。…私なんかほっといて、もう帰ってよ。」
「うん、そうだね。だから、一緒に帰ろ。」
僕はそういうと、彼らとの距離を詰めるように前と足を進め、一気に加速する。
男に近づき拳を振り翳した時、オーガが先ほどと同じように防ごうとしてきた。
それは、さっき見た。
僕は心でそう呟き、足元を凍らしタイミングをずらす。そのまま、僕の拳は男を殴り飛ばした。
そして、リディの手を掴むように手を伸ばそうとした。
だけど、それは叶わなかった。
「きゃああ」
彼女は首を手で押さえながら、悲痛な声を上げた。彼女の首につけられている拘束具が放つ光が強まり、磁石で引き寄せられるように男の方に体を引きづられていった。
僕が、目の前で起きたことが理解できずに固まっていると、体に衝撃が走った。
「ゴホッ」
オーガに殴られたのだ。咄嗟に氷で障壁を作ることができたが、壁に打ち付けられ、口から血が溢れる。
「あー、痛いな。あの状況で殴るとか、お前、おかしいだろう。だが、こいつを渡すわけにはいかないんだよ。ふふ、こいつには奴隷用の首輪をつけている。しかもこれは特別製でな、この腕輪と一定の距離を離れると強制的に引き寄せる仕組みが施されているんだよ。」
男は立ち上がり、腕輪見せつけるように掲げながらそういった。
僕は痛みで、体をすぐに動かせずに、にらめ返すことしかできなかった。
「おい、まだ、こいつを助けようとするのか?お前、こいつが何者か知っているのか。助ける価値なんてないだろう。」
「…知っている。だけど関係ない。僕は…心のままにリディを助けるだけだよ。」
「はは、お前、ほんとおかしいな。可愛らしい見た目なのに男口調だしな。はー、でもそうか。なら、さっさと死んでくれよ。」
男がそういうとオーガがこちらに向かってきた。
「ねえ、もうやめてよ。大人しく付いて行くから。言うことも聞く。だから、カイを、彼をこれ以上、傷つけないで!」
リディが悲痛な声でそう叫ぶが、男は彼女に腕を振りながら答える。
「あ、うるさいな。お前がいうことを聞くのは当然だろう。僕はただ、邪魔者を排除するだけだ。なあ、おい。こいつがただのオーガではないことぐらい気づいてるんだろう。」
僕がその言葉に頷きながら、立ち上がりオーガに向かい合うと彼はまるで自分のコレクションを自慢するように話を続けた。
「そいつは、ハイオーガ。普通のオーガとはそもそも成り立ちが違う。あの女は知っていたみたいだが、お前ぐらいのガキならまだ知らないだろうな。こいつは、元々僕たちと同じ人種族の一つでもあった鬼人族の成れの果てだ。野生のオーガと違い、高い知能と理性を持った個体が、悲劇によって理性を失い、力が暴走した姿がハイオーガなんだよ!能力の桁が違うんだよ。あ、ちなみにこいつが理性を失った原因に僕は関わってないから安心しろ。何でも集落を燃やされたらしいぞ。はははは、こいつと一緒だな。」
「っ!」
くそ、僕にこのオーガも助けなくてもいいのかと言いたいのか。同情はするが、あいにくそんな余裕は僕にはない。
男が話している間も、目の前のハイオーガは襲ってきていた。しかも攻撃の軌道が読めない。男の話にあったように、理性が完全に飛んでいるからだろう。にもかかわらず、さっきまで戦っていたオーガより威力と速度が段違いにあるから、受け流すだけで精一杯だ。ほんと、僕が生きているのが不思議なぐらいにダメージが蓄積されていくのがわかる。
攻撃を仕掛ける隙さえあれば、何なとかなりそうなのに。
しばらく、こう着状態が続いたが、疲労が体に出たのだろう、僕はハイオーガが振り翳した拳をかわしきれず、お腹に受け、再び壁に突き飛ばされた。
あー、意識が飛びそうだ。痛みはすでに感じないぐらい感覚が遠くなっている。正直言ってこのまま眠りたい。だけど…まだ、倒れるわけにはいかない。
僕は、覚束ない中、腕を動かし、ポケットに手を突っ込んだ。
これだけはしたくなかったけど…仕方がないか。
「すごいな、お前。ハイオーガに対してこれだけ動けるなんて。でも、これで終わりだ。なかなか楽しめたよ。」
「いや、やめて!…カイ、逃げてよ。私ことなんてどうでもいいから。お願い、生きて。」
僕が倒れたの見て、男がそう言い、リディは訴えるように声を大きく上げる。
僕が苦労して、助けに来てるのに相変わらず、逃げてとか、帰ってとか叫ぶリディに対して僕は、強めの口調で、「うるさい!少し黙ってて!」と声を絞り上げた。
そして、ポケットからこの世界に来てからも肌身離さず持っていた一つの端末を取り出し、そのまま、ホームボタンを長押しした。
…ポン
『はい、何でしょうか?』
しばらくして、スマホの画面に明かりが灯り、先生はいつも通り僕の呼びかけに応えてくれた。
…ごめん。先生。今まで助かったよ。ありがとう。
僕はそう声にならない声で呟き、体に力を込め、何とか立ち上がり、そのまま手に握るスマホを力強く投げた。そして…
「歌え!シアああああああああ!」
『…了解しました』
僕がそう叫ぶと、先生は応えてくれた。
先生に宿る最後の灯火が燃え盛る。




