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プロローグ

 天正10年6月。信濃国砥石城。ここを治めているのは旧武田家臣で、今は織田信長の家臣で信濃国東部と上野国を委ねられている滝川一益の与力となっている真田昌幸。


真田信幸:父上。春日様より急ぎの書状が届いています。

真田昌幸:信達からか……。持って参れ。


 春日とは武田家で譜代家老を務めた春日虎綱の次男春日信達の事。彼は対北条氏政の最前線。駿河国三枚橋城の城代を務めていた時、武田家は滅亡。故郷である川中島に戻り現在は、川中島に入った森長可に属す人物。


真田信幸:また森様と国衆が揉めていなければ良いのでありますが……。


 川中島は織田と対立している上杉景勝の本拠地春日山に接する地域で、上杉は武田が滅亡するまで同盟関係。その同盟の成立に奔走したのが春日信達の父春日虎綱であり、春日信達本人でありました。


真田昌幸:うちもそうであったが、川中島の国衆は織田と戦う事が出来ぬまま敗戦を迎えてしまった。織田信長様信忠様が安土や岐阜に戻られ、手薄となった所を狙って来たのが上杉景勝であった。川中島の国衆を扇動し、新たな領主となられた森様に刃を向けてしまった。しかし森様は負けなかった。

「私に逆らうとこうなるのだぞ!」

と敵対した者全てを処断された。

真田信幸:それで川中島は……。

真田昌幸:一応ではあるが、治まっている。しかし当地は対越後の最前線で森様は今、越後に入られている。景勝自ら手勢を率い相対している所である。

真田信幸:形勢は?

真田昌幸:現地は一進一退だとか。

真田信幸:現地は。でありますか?

真田昌幸:そう。その代わり景勝は越中を見捨てた。魚津城は落ちた。恐らく魚津には越後から集められた精鋭が守っていた事であろう。それを景勝が守る事が出来なかった影響が今後越後国内に波及する事になる。そう。


 武田勝頼が高天神城を守る事が出来なかった時のように。


真田昌幸:実際、魚津陥落以前から揚北衆が蠢いていた。景勝はそれを制する事は出来ていない。越中、揚北。そして川中島に沼田から同時に侵攻された場合、景勝は持たない。しかし越中と沼田から越後に入るのは難しい。揚北衆が単独で景勝に勝つ事は出来ない。となると重要となって来るのが……。


 川中島からの侵入。


真田昌幸:景勝はここだけ注意を払っていれば良いとも言える。川中島は上杉と繋がりが深い国人が多い。今も景勝からなりふり構わぬ誘いの手紙が川中島の国人に送られている事であろう。信達も対応に苦慮しているのでは無いか……。


 書状に目を通す真田昌幸。


真田昌幸:……えっ!?

真田信幸:如何為されましたか?(書状を受け取り)っん!?

真田昌幸:口外無用だ。急ぎ信達の所に行ってくる。


 信濃国海津城近郊。


春日信達:真田殿。こんな所にまで足を運ばれて問題になりませんか?

真田昌幸:事が事である。書状でやり取りする時間は無い。それに其方が上田に向かう方が危険では無いか?

春日信達:確かに。


 川中島の国衆による反乱を受け統治の難しさを実感した森長可は、国衆の妻子を海津城に住まわせる事を義務化。と同時に反乱に参加したと思しき民の一部も海津城下に移動。監視下に置いたのでありました。


春日信達:ただ森様は、私のような者共意見交換の場を持っていただいています。今こうして暮らす事が出来ているのも森様のおかげであります。

真田昌幸:しかしこうなってしまうと話は変わって来るな……。

春日信達:はい。まさか織田信長様と信忠様が同じ日に斃られるとは思いもよりませんでした。


 織田信長信忠親子は京で明智光秀の謀叛に遭い、行方不明。


真田昌幸:この情報は何処から入って来ましたか?

春日信達:真田殿であるから正直に申します。私にこの報せを最初に届けて来たのは……。


 上杉景勝。


春日信達:でありました。

「織田信長信忠親子が明智光秀の手により殺害された。柴田勝家は越中を離れた。森長可も川中島に戻ろうとしている。春日様にお願いがあります。森の動きを妨害していただきたい。私。上杉景勝も兵を動かし、森を挟撃。殲滅して見せましょう。成功した暁には春日様。私の事です。に川中島をお任せします。」

との書状が送られて来ました。

真田昌幸:この報せを国衆に?

春日信達:いえ、伝えていません。尤も他の者に対しても同様の書状が届けられている事は間違いありません。

真田昌幸:其方はどうしようと考えている?

春日信達:私は森様に恨みはありませんし、上杉が頼りにならない事もわかっています。武田が織田の攻撃に晒された時。私が川中島に戻る前の混乱時。上杉は何もしませんでした。今回も同じ事になるのはわかっています。ただ……。


 他の国衆がどう動くかがわかりません。


真田昌幸:巻き込まれる危険性が高い。と考えている?

春日信達:はい。

真田昌幸:其方は虎綱様の子。春日家高坂家の当主。神輿にするには最適な存在である。

春日信達:はい。

真田昌幸:其方は拒んでも巻き込まれる恐れがある。

春日信達:はい。

真田昌幸:1つ尋ねて良いか?

春日信達:はい。何でありましょうか?

真田昌幸:其方は森様のためなら命を失う事になっても構わないか?

春日信達:今、こうして生きる事が出来ているのは偏に森様のおかげであります。

真田昌幸:二言は無いな?

春日信達:はい。

真田昌幸:ならば……。

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