コミカライズ開始&書籍2巻発売記念/冥府の元王女-①
ピクシブにてコミカライズが始まりました!美麗なセオドア、マイケルやブラッキーもとても可愛いのでぜひご覧ください。WEBや書籍では読めないオリジナルエピソードも描かれるようです。
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そしても小説②巻(完結巻)がも出ましたよ!
Web版にたっぷり加筆し2倍のボリュームになっていますのでよろしくお願いします*
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冥府に取り残された、ベルハイム王国元王女アクアマリン。
魔王城唯一の人間の召使いとして城内の掃除をしたり門番として働いている。
当然今まで下働きなどしたことがないアクアマリン。一癖も二癖もある性格の彼女は仕事ぶりも一筋縄ではいかないようで、今日も城門の前ではひと悶着が起こっていた――。
「魔王様に面会させてくれ」
「あなた誰? 面会の約束はあるのかしら?」
金髪碧眼の美しい令嬢が眉をひそめると、相手の狼男は鋭い牙をむいて彼女を見下ろした。
「人間には関係ない。おまえの噂は聞いているぞ。大聖女に悪さをしたからもとの世界に戻れなくなったって!」
「あら、それなら話が早いわ。今のわたくしの仕事は、あなたのような礼儀知らずを追い返すことなの。さっさと帰ってちょうだい」
「んだとっ! 人間ごときが指図しやがって!」
狼男は色をなす。鋭い爪が生えた手でアクアマリンの華奢な肩を掴み、恐ろしい顔で威嚇をするが――。
もう一人の門番、ガーゴイルのガイルが取りなしに入った。
「ウルグス。約束のない者は案内できない」
「なんだよガイルさん! あんたまでこいつの味方をするのか!?」
「それがあるじの決めたことだからだ。あるじは絶対だ」
「っクソ!」
「急ぎの用事ならば、ひとまず我が話を聞くが」
「――いいっすよ。別に、そこまでのことじゃ……」
冷静なガイルと話すうちにウルグスの勢いは削がれていく。がっかりしながらも、やがて大人しく森へ帰っていった。
ガイルは定位置の門柱の上にぴょんと戻ると、ふてくされるアクアマリンにため息をついた。
「弱き人間よ、何度も言うが口には気をつけろ。我がいなかったら喰われていた」
「ふんっ。別にいつ死んだっていいわよ。どうせ長くないんだし」
アクアマリンはドレスのポケットからクリスタルを取り出した。
姉がくれたとき透明だったそれは、瘴気の影響でグレーに変色している。
これが真っ黒になったとき、冥府の強烈な瘴気に侵されてアクアマリンは死ぬのだ。
「大聖女に頼めば新しいものをくれるだろう」
「そうね。お姉さまはなんだかんだお人好しだから、わたくしを哀れに思って新しいものをくれると思うわ。……でも、そんなことをするくらいなら死んだほうがマシ」
「我には分からない。人間とは面倒な生き物だな」
「魔物はいいわね。すべての物事が単純だもの」
「褒め言葉と受け取ろう」
ガイルがにやりと笑うと、アクアマリンもフッと小鼻を鳴らして自嘲するように微笑んだ。
◇
無事に一日の仕事を終えると、ガイルに挨拶をしてアクアマリンは家路についた。
魔王城を取り囲むように茂る黒い森の外れにある小屋だ。
ドアを開けるとギイと家全体が軋む。その昔ラングレー城で滞在した部屋よりはマシだが、ベルハイム城の私室には遠く及ばないみすぼらしい家。
(……もう慣れたわ。別に、平気よ)
魔王は城の寮に住んでいいと言ってくれたが、「馬鹿にするんじゃないわよ」と啖呵を切って出てきてしまったから。
静けさの中にアクアマリンの衣服の衣擦れの音が響く。
明かりをともして戸棚をのぞくと、木の実がいくつかと干した芋がぽつんと入っていた。
「……夕飯を食べに行きましょう」
自炊はしない。やり方を知らないからだ。
一度調理を試みたことはあったが、ボヤを起こしたうえ、とても食べれたものではなかった。
それからは歩いて行ける距離にある酒場で済ませるようにしていた。
酒場に入ると、外の寒さを一瞬で忘れるような熱気に包まれる。
コボルトやゴブリン、メドゥーサ、ケンタウロスなど、さまざまな魔物客で賑わっていた。かれらは入ってきたアクアマリンをちらりと見るが、すぐにまた歓談に興じる。
アクアマリンは人ごみを避けるようにして、カウンターの一番端に腰掛けた。
「いつもありがとうございます。同じもので宜しいですか?」
スマートに話しかけてきたのはバーテンの吸血鬼だ。
距離を感じる態度だが蔑まれているわけではない。アクアマリンにとってはありがたい存在だった。この酒場があるおかげで、このバーテンがいるおかげで飢えずに済んでいる。
「ええ。お願い」
しばらくしてグラスに入ったシードルと、ハムとチーズの乗った皿が運ばれてくる。
このハムとチーズはどういう動物――あるいは魔物からつくられているのかアクアマリンは知らない。知らなくていいと思っている。
ベルハイムで食べていたものとはまったく味が違うが、それにももう慣れた。
「今年産の赤ワインが入りましたが」
「結構よ。赤は好みじゃないの」
魔物は酒好きが多く、金属製のごつごつしたジョッキで豪快にあおっているが、あんなはしたない飲み方自分はしない。
バーテンを困らせながらも取り寄せさせた薄いガラスのシャンパングラスで甘いシードルを飲むのがいつもの夜だ。
一通りアクアマリンの相手を終えるとバーテンは離れていった。
「…………」
フロアには色とりどりの魔物があふれている。
乾杯でジョッキが高く鳴る音。ガハハと腹の底から笑う声。濃い香水の香り。
アクアマリンの胸に、きゅっと鋭い痛みが走る。
(……別に、寂しくなんてないわ)
ベルハイムにいたころだって、あれが手に入れば次はこれが欲しくなって、心から満たされたことなんてなかった。
結局どこに行ったって自分はこういう人間なのだから、孤独と隣り合わせに生きるしかないのだ。
食事を終えるとアクアマリンは店を出る。
森の静けさが心を締め付け、冷たい風が熱気に火照った顔を慰めるように撫でた。
(帰りましょう。明日も朝から仕事だわ)
胸にかけたポシェットの紐をぎゅっと握りしめる。しゃんと背筋を伸ばして、ふたたび家路につくのだった。




