四十四話
『えっ。今夜は陛下と同室ですか?』
『申し訳ありません。小さな駐屯地でして部屋数に余裕がなく……』
『あっ、いえ! わたしは全然大丈夫ですよ。騎士の皆様のお邪魔にならないようにしたいです』
『ご理解に感謝します。眷属の皆様には外に小屋を用意してますので、陛下と二人ではありますがゆっくりお過ごしくださいね』
『ありがとうございます』
――そんなやりとりをして了承を得たから安心してほしい、とアーノルドから見送られたセオドアは、自室のドアの前でかれこれ二十分は立ち尽くしていた。
もう夕食も済み、おのおの自室に戻って寝る時間だ。棒立ちになっているセオドアを横目で不思議そうに見ながら騎士らが通り過ぎていく。
「……ずっとこうしているわけにはいかない。入るか」
覚悟を決めてドアノブをひねる。
宿屋と違って広くない居室内は一目で状況がわかる。正面のベッドがこんもりと膨らんでいた。
(もう布団に入っているのか?)
近づいてみると、ルビーは壁の方を向いてすやすやと寝息を立てていた。
皇都に帰ってきた安心感と、昼間に演習場を走り回った疲れが出ているのだろうと思った。
「……起こしてまで伝えることではないか。アーノルドは怒るかもしれないが」
ぎし、とベッドの縁に座る。こんもりとした布団をめくって小さな頭にそっと触れると、柔らかい髪越しに彼女の体温が伝わってきた。
(こうしていると、サウス・ハーバーの木こり小屋での一晩を思い出すな)
あのときは心穏やかではなかったけれど、今はすごく幸せだ。無垢な寝顔を眺めているだけで心が満たされる。
ルビーが自分の隣にいることを選んでくれた。その気持ちだけで十分なのに、男として見てほしいと望むのは求めすぎではないかと思うこともある。
けれども――。
「君からも、いつかこの言葉を聞けたらと願ってしまう。……愛している」
そう呟いてセオドアはベッドではなくソファに横になる。彼の身体には小さく、長い足が半分以上はみ出していた。
彼自身も知らず知らずのうちに疲労が溜まっていたのだろう。セオドアはすぐに眠りに落ちていったが――。
壁の方を向いたままのルビーはぱっちりと目を開けていた。今しがた聞こえた信じられない言葉を幾度も頭のなかで繰り返しながら、布団を真っ赤な顔に押し付け、必死に息を殺していたのだった。