十一話
夜も更けたころ、待ち侘びた夜食が部屋に運ばれてくる。
またあの美味しい粥とコンポートが食べられるとセオドアは胸を躍らせて待っていた。いそいそと匙ですくうが、口に含んだ瞬間に強い違和感を覚えた。
(あの味ではない。これは普通の粥だ)
静かに匙を置き、別皿のコンポートに手を伸ばす。
こちらも食べてみるが、やはり昼に食したものとはなにかが決定的に違っていた。力が湧き出るような感覚も、心に爽やかな風が吹き抜けるような感覚もない。
「……昼と味が違うようだが。食材や味付けを変えたのか?」
かしこまっている世話係に訊ねる。
「その、それが……。料理長は昼に粥とコンポートを作った覚えはないととぼけておりまして。陛下がご所望ということでとにかく作らせましたが、お気に召されませんでしたでしょうか?」
「とぼけているだと? あの真面目な人間がそんなことをするとは思えないが」
「わたくしめも勤めて長いのでそう思いますが、しかし一貫して作っていないと言い張っておりまして」
「嘘をつく理由はないから妙だな。……この件を調査せよ。料理長ではないというのが真実なら、あの食事はどこから来たのか突き止めよ」
「かしこまりました」
調査を命じざるを得ないほど、セオドアはあの食事を強く求めていた。
新鮮な野菜が入っているとか、貴重な果実が使われていたからとか、そんな理由ではなかった。料理そのものに込められたエネルギーのようなものに強く惹かれていた。
「見つけた者には報奨金を出す。俺の生活予算から捻出しろ」
「し、しかし。これ以上生活を切り詰めたら陛下が……」
「よい。毎日書類をさばいて魔物を討伐するだけの毎日なのだから、足りぬなら衣装の一つや二つ売ってくれ。そこの飾り壺も要らんだろう」
「承知いたしました……」
もったいないので料理長が作った料理はきちんと食べる。昼の一食だけではあったが、あのおかげで体調の回復を実感していた。
(誰が作ったのか、必ず見つけてみせる)
セオドアは獲物を狩るような目つきで考えるのだった。