表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/73

九話

 一度しか顔を合わせていない夫に感謝を伝えようと、ルビーは早起きして芋粥とコンポートをこしらえた。

 お粥には消化のいい青菜が、コンポートにはすっきりとした酸味のある野苺が使われている。離宮の家庭菜園や森で採れたものだ。高価な砂糖の代わりに甘味のある薬草で煮込んでいる。


「お礼の手紙も書いたし、あとは持って行くだけね。その後陛下の具合について何か聞いている?」

「少なくとも快方に向かっているという話は聞いてませんので、まだ寝込んでいらっしゃるのだと思います」

「食欲がなくても受け付けやすいメニューにして正解ね。さっそく向かいましょう」


 バスケットに荷物を入れて離宮を出発する。

 ところが城の入り口まで来ると、門番をしている騎士からストップがかかった。


「セオドア陛下はルビー様にお会いにならない。これより先にお通しすることはできません」

「ルビー様は王女であり奥様でもあるのよ! 通れないってどういうことですか!?」


 慌ててエマが訊ねると、騎士は険しい顔つきになる。


「それが陛下からの命令だからだ。離宮では自由に過ごしてよいが、城には入れるなと仰せつかっている。陛下は妻だとお認めになっていないのだろう」

「なんて失礼なの! そんなのおかしいわ!」

「いいのよエマ。騎士様の言う通りよ」


 気色ばんだエマをルビーが宥める。

 セオドアはかつて騎士団長をしていたと聞いている。だから仲間である騎士が彼の肩を持ち、偽者だった自分を疎ましく思うのは当然だと思ったからだ。


「これを陛下にお渡ししていただけますか? 体調を崩されていると聞いたので、差し入れを持ってきたんです」

「……王女殿下は毒使いなのでしょう。そのような方が作ったものを陛下に差し上げるなど……」

「こればっかりは信じていただくよりほかないのだけど。そうだエマ、あなたが少し食べてみせてくれる? 毒見が済んでいれば大丈夫でしょう」


 騎士にバスケットの中身を提示し、エマが少量ずつ口に含んで嚥下してみせる。

 異変はおこらず、安全だということが証明された。


「じゃあ騎士様、お願いしますね。お早い回復を祈っております」

「……ふん」


 鼻を鳴らす門番の騎士。

 受け取った以上は彼の一存で廃棄できないので、宰相であり一番の側近であるアーノルドのところに持って行くことに決めた。

 くるりと踵を返した拍子にバスケットから手紙が舞い落ちる。


 それに気がつくことなく騎士は城の中に入り、仲間の近衛騎士に「アーノルド様に届けてくれ。食べ物だから急ぎでな」とバスケットを託したのだった。

別作品で恐縮ですが、本日わたしが書いております小説「薬師と魔王」の②巻とコミックス①巻が発売しました! 恋愛要素ありの異世界医療ファンタジーです。よろしければぜひチェックしてみてください^^

(小説⇒KADOKAWAメディアワークス文庫様、コミックス⇒角川コミックス・エース様)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 偽の花嫁とはいえ一国の王女にふんって鼻を鳴らしてあしらうってこの騎士様大物ですね
[一言] そしてこの手紙が、のちのち城内に要らぬ波紋を起こすのでした(ぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ