買い物が間に合わないっ!
買い物が間に合わない。目の前の化け物のせいで。
「ガーガー」
シーサーがでっかくなったみたいな化け物が、ぼくの前に立っている。早く母ちゃんのところに帰りたい。んで、美味しいカレーを食べたい。
ぼく、ちゃんと買えたよ。ニンジンにジャガイモに玉ねぎに牛肉150g……なのに、化け物はぎょろりとした目でこっちを見てくる。「ガーガー」うるさい。
「マジで何なんだよー。やるのかー」
化け物の尖った口にグーをガツンとぶつける。痛い。何なんだコイツは。ぼくのカレーを邪魔するな。早く帰って母ちゃんのカレーを食べるんだ。
早くコイツと決着をつけないと。
「……ガー……ガー」
「うるさーい!」
ぼくは買い物袋を置いて、相撲取りみたいに両手いっぱい広げて化け物を押してみる。ガーガーなんかに負けるか! こんちくしょう!
「ガルルル……ガルルル」
(鳴き声が変わった!)
もう一押し。身体が揺れた。
「ガルー、ルー」
あ。
(そうだ、カレールーを買うのを忘れてた!)
――――キキィ!
〈○○駅~○○駅~、次はー△△駅~お乗り換えは……〉
むにゃむにゃ、ここは電車の中。化け物はいない。代わりに、大きな荷物を持ったおばさんが居る。席を譲ってあげた。いいんだ。次の駅で降りなきゃいけないからね。
今日はカレー。
ニンジンにジャガイモ、玉ねぎに牛肉150g……それからそれから。
「カレールー!」
ぼくが言ったら、みんなびっくりしてた。今からスーパーに行ってたら買い物に間に合わない。でも、カレールーが無かったら、カレーは出来ない。
スマホでトントン。こういう時は母ちゃんに連絡。夢の中でも出来たらよかったのに。化け物と戦っている間に駅を寝過ごしちゃった。ばかばかばかばか。
――――ぷるるる……ぽぴっ
「あら、どうしたの。まーくん」
「買い物が間に合わないっ!」
「え、道に迷った?」
「カレールーない!」
ぼくは必死に訴えた。なのに周りの人たちはクスクス笑ってる。うう、何なんだ。僕の人生こんちくしょー!
「そう。なかったのね。じゃあカレーは明日。今日は出前で中華でも食べる?」
「……!」
出前! 中華!
本当はカレーが一番好きだけど、なんか今は天津飯が食べたい気分だ。えーい、やけ食いしちゃおう! 電話を切る。電車がとまる。おじさんの咳払い。電車の中の電話に怒っちゃったのかな。んもー、分からずや。
僕は今日カレーを食べ損ねたんだぞ。それくらい分かれ!
(べーだ!)
帰る帰る。家に帰る。
買い物には間に合わなかったけど、今日は出前。明日はカレーに落ち着いた。やったね!