警告
「...それにしても、この辺りにはもう誰もいないようですね」
「ああ。リンカとシンが他の奴らに指示を出してくれたからだろう」
「...後で、二人にはお礼を言っておかなければいけませんね。ラウちゃんも、私のお願いを聞いてくれてありがとうございます」
カリンからの言葉にラウはかぶりを振って応える。自分は従者として当然のことをしたまでだ、と。カリンとラウは誰もいない首都の街を、城の東にある正門に向かって走る。その道中、二人にリンカからの思念伝達が届く。
『カリン様、ラウ。少しよろしいでしょうか?』
『...はい。リンカ、用件はなんでしょうか』
『民の避難についてなのですが』
リンカから送られてきた言葉に、カリンは労いの言葉を返そうとする。だが、どうやらそんな様子ではないようで、少し待ってみても彼女から思念伝達が送られてくる気配はない。何かを言い淀んでいるようだ。
『何かあったのか?』
『実はですね...ラウからの思念伝達をもらい、城周辺の民の避難は済んでいます。ですが、あの焔の勢いが我々の予想を遙かに上回るもので、街の東側を除く三方の避難が間に合いそうにないのです』
『...っ!!そうですか』
闇の国の首都ゼルベリアは、城の周りをぐるりと囲むように位置している。だが首都から出るためには、城の東にある正門を通る必要がある。反対の西側には裏門があるが、正門に比べ遥かに小さく簡素な造りになっている。更に裏門は今ではほとんど使われることがなく、犯罪等の防止の為に魔法で封印がかけられている。避難が間に合わないのも無理ないだろう。ここでリンカたちを責めるのはお門違いということだ。避難の指示を出すのが遅かったカリンにも非があるだろう。救えるものなら救いたいところだが、この場合余分な被害を出すだけだろう。
(ならば、民を残すのが一番被害が少なく済みそうです)
割り切れない、という思いは確かにあるだろう。だが、力の足りないカリンでは切り捨てるという選択しか持ち合わせてはいない。ここで、切り捨てられないと戻ったところで誰かが欠けるのがオチだろう。それに今回は黒い焔に呑み込まれたところで、死ぬと決まっているわけではない。だから、大丈夫だ。そう信じよう、と根拠もなくそんなことを思う。こんなもの、都合のいいただの現実逃避でしかない。自身の力の及ばなさをひしひしと感じ、カリンはギュッと強く拳を握る。
『なので、私達に裏門へ向かう許可を下さいませんか?』
『...裏門へ、ですか?ですが、彼処には封印がかけられていて』
『無論、存じております』
リンカの意思は固く、カリンが何を言っても聞く耳を持たないといった様子であった。それを悟ったカリンは隣りにいたラウと頷きあい、思念伝達を送る。
『...わかりました。裏門へ向かうことを許可します』
『ありがとうございます、カリン様』
『...ただし、リンカ一人で行くというのは認めません』
『っ何故、ですか...』
リンカからの反応にやはりとカリンは思う。今までのやり取りの中で、リンカは一度も誰かを連れて行くということを送ってはこなかった。多分、カリンがここで思念伝達をしなければ、一人で向かうつもりだったのであろう。
『僕がついて行きます』
『......シンさん』『シンじゃねぇか。一体、いつから聞いてやがったんだよ...』
『『ボクたちもいるよ』』
『...フィアにフィオ、あなたたちもいたのですか』
リンカについて行く人選を誰にしたものか考えていると、思念伝達に三つの声が割って入ってくる。一つは先程、ラウと思念伝達をしていたシン、もう二つは双龍のフィアとフィオのものである。
『うん。リンカの話、シンと一緒に聞いてたんだ』
『そうそう。ねぇねの無事もちゃんと確認したかったし...』
『...そうでしたか。二人なら実力も申し分ないですし、リンカに付いて行って下さると助かります』
ねぇね、とはカリンのことを指している。幼く可愛らしい見た目の二人であるが、龍はとても長寿であるため、正確な年齢はわからないがカリンたちより年上だと思われる。カリンはフィアとフィオの同行に賛同する。それに、思念の向こうではしゃぐ二人を微笑ましく感じながら、カリンはシンへと思念伝達を送る。
『...シンさんも、行かれるつもりなのですか。リンカにはフィアとフィオが付いて行くそうですが』
『僕が行くのは反対ですか』
『...そういうわけではありません。ただ___ 』
心配だ、という言葉を送りかけてやめる。この状況で、それを伝える資格は自分にはない、とカリンは思ったからだ。それをどう受け取ったのか、寡黙な彼は主へと思念伝達を送る。
『民を助けるために、人数が必要だと判断します』
『...そうですね。今日は式典もありましたし、周辺の都市や村などからも大勢の方々がいらしているはずです』
『......』
『...ですが、シンさん以外にもこの周辺に私の部下がいるはずですから......』
まとまらない内容を思い浮かんだままに彼に送るが、これではまるでシンだけを部下の中で特別扱いしているような気がして途中でやめる。いけない、彼と話しているときはいつも肝心なことが言えないままでいる。
『...わかりました。シンさんの同行を認めます。ですが、絶対に戦わないで下さい』
『承知いたしました』
二人の会話は其処で一段落し、先程から裏門での作戦を練っていたリンカたちがその内容を伝える。
『お話はよろしいようですね。それでは、作戦について説明させていただきます』
『...はい、お願いします』
リンカたちから聞かされた作戦の概要はこうだ。まず、カリンがこの辺りにいる部下たちに思念伝達で呼びかけ、カリンとラウに付いて正門から脱出する者とリンカたちに付いて裏門から脱出する者に分かれる。次に、どちらも脱出口へ向かうまでに見かけた民を無事に門まで連れて行く。そして、裏門組のメンバーにはここに裏門を解錠するという工程が加わるというわけである。
『このような作戦でいこうと思いますが、何かありますか?あと...先程、私の部下とも連絡が取れたので一緒に連れていこうと思います』
『...そうですか。作戦はそれでいいと思います。それでは、私は部隊長たちに思念伝達を送ってみますね』
そう伝えて、カリンはリンカたちとは別の回線経路を組み上げる。そして、この近くにいるはずの四人に思念伝達を送る。
『...皆さん、聞こえますか?』
カリンが思念伝達で呼びかけると、それに答える声が二つ。彼女の部下は七名の例外を除き、皆が五つある部隊のどれかに所属している。その部隊はそれぞれ攻撃・守護・遊撃・回復、そしてリンカの率いる隠密の五つである。この内カリンへ思念伝達が返ってきたのは、攻撃部隊と遊撃部隊の隊長...プーパとヌイビェードだ。返答のあった二人へカリンは今の大まかな状況を説明する。
『なるほど...それで、カリン様。オレたちは何をすりゃあいいんですか?』
『お前はほんとに馬鹿だな。ここまでの姫君からの説明を聞いてもまだわからないのか』
『あぁ?ヌイちゃんがオレに喧嘩売ってやがんのか?』
『...そこまでにして下さい。今は時間があまりありませんので』
思念伝達を介して、じゃれ合いを続ける二人を埒が明かないと見てカリンは止める。ラウとファメル程ではないが、この二人も喧嘩という名のじゃれ合いをよくしている。その度に長くなるため、こうして誰かが間に入る必要があるのだ。少々、罪悪感があるが致し方ないだろう。
『申し訳ありません。...プーパ、お前のせいで姫君に叱られてしまったではないか』
『ハッハッハ、悪かったな。ヌイちゃん』
『その気持ち悪い呼び方をやめろといつも言って___ 』
またじゃれ合い始める二人だが、流石に一度カリンに怒られ懲りたのか、二人ともそれを中断する。その様子を見守っていたカリンは、いつも通りの無表情のまま思念伝達を送る。
『...お二人の仲が良いのはいいことですが、今は緊急事態です』
『『.........』』
『...じゃれ合うのも程々にして下さい』
『『はい......』』
二人の返事を聞き終え、ようやくカリンは作戦の説明に移る。残る二部隊からの連絡は依然としてないが、仕方がないであろう。その二つの部隊は、常に城に駐屯していたのだから。逆にプーパとヌイビェードたちには、城周辺の警備を任せていたため、こうしてすぐに思念伝達がつながったのだろう。
『...それで本題に戻りますが、エドさんには遊撃部隊を率いてリンカたちに...プーパくんたちは、私達に着いてきてもらいたいです』
『はい、了解しました』
『了解。じゃ、さくっと行くぜ』
カリンからの思念伝達に片方は何処か嬉しそうに、もう片方は楽しそうに双方の答えを返す。その返答にカリンは思念伝達を切り、隣りで並走しているラウへと視線を向ける。
「...ラウちゃん、攻撃部隊と遊撃部隊に連絡が取れました。この内、攻撃は私たちに遊撃はリンカたちに着いていきます」
「攻撃と遊撃...ということは、あいつらか。わかった、リンカたちには俺が伝えておく」
「...はい、よろしくお願いします」
手短に話を終え、早速とばかりにラウはリンカたちへと思念伝達をする。その間にカリンは辺りを見渡し、逃げ遅れた者がいないか確認する。後方の焔との距離は大分縮まってきており、だいたい数百メートルといったところだろう。予想以上にスピードが速い。城から飛び降りた直後のアドバンテージはなくなったも同然だ。
「カリン。リンカたちには、取り敢えず一通り伝えておいた。後は、遊撃の連中と連絡取って好きにやるってよ」
「...わかりました。ところで、この辺りには誰もいないようですし、少しスピードを上げましょうか?」
「そうだな。あの焔に追いつかれると厄介だ」
カリンからの提案に二人はスピードを一段階上げる。だいたい百メートルが十秒程で走れるといったところだろうか。あまり速すぎると、民を見逃してしまう可能性や余計な体力を消耗してしまう可能性等があり、後ろの黒い焔と付かず離れずの距離で走ることを鑑みたスピードである。それにこのくらいのスピードであれば、プーパたちも容易に追いつけるだろう。そうこの短時間で判断を下し、二人は黒に呑まれゆく街を走り続ける。
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「待て」
カリンからの命に従って彼女の元へ赴こうとした折、後ろから呼び止められる。
「ヌイちゃん、どうかしたのか?」
「お前に言っておきたいことがある」
いつになく神妙な面持ちでヌイビェードに言われ、プーパは足を止めて振り返る。隊員たちは二部隊共、一足先に作戦の場所へと向かっているため此処にはいない。つまり、ヌイビェードとプーパしかこの場にはいないわけだが...珍しい。二人きりでいるときに、彼の方から話しかけてくるなんて。きっとそれほどに重大な話なのだろう。そう思って、プーパは少しだけ気を引き締める。
「なんだ?」
「......いいか、これは善意の忠告なんかじゃない。警告だ」
「警告、ね。オレのこと心配してくれ___ 」
「お前、今一体何を考えているんだ」
プーパのことを正面から見据えながら、ヌイビェードは冷たく言う。いつも彼に冷たくあしらわれているという自覚はあるが、これは違う。敵を見ている目だ。初めて真っ向から見るその瞳に、流石のプーパでも背筋に冷たいものが走るような感覚を覚える。彼は内心の動揺を悟られないように細心の注意を払いながら、できるだけいつものように返す。
「何って?別にいつも通りヌイちゃんのこと考えてるだけだぜ」
「.........」
「そんなに疑わしそうに見るんじゃねえよ。お前が心配してるようなことなんざ、なんも考えてない」
「本当か?信じてもいいんだな」
ヌイビェードの質問に、プーパはああ、と短い頷きを一つ返した。それだけであれ程尖っていた気配は消え失せ、代わりにいつもの友好的だが何処かに彼との壁を感じるものになる。ヌイビェード自身は意図していないのだろうが、彼は本能的にプーパのことを警戒しているのだろう。だが先程よりかは明らかな隙が視える。
「なら、いい。せいぜいお前も死なないように気をつけ、て...っ」
背を向けてそのまま歩き出そうとした矢先、鳩尾の下辺りに違和感を覚える。次いで、そこに焼けるような痛みが走った。不思議に思ってヌイビェードがその位置を見下ろすと、其処には血に濡れた刃が深々と刺さっていた。
「っ何、を...する」
「ごめんな、ヌイちゃん」
何の答えにもならない謝罪を溢し、プーパはヌイビェードを後ろから貫く刃を引き抜く。その衝撃と同時に溢れ出ていった大量の血のせいでフラフラと前へ倒れ込もうとする彼だったが、途中で自身の体を貫いた相手によって抱きかかえられる。そして驚くほど優しくて丁寧な動作によって、地面に横たえられる。その時、彼はもう一度悪かったな、と謝罪した。矛盾した行動を取るプーパの表情がどうしても気になって、震える手で彼の頬に触れる。そこから微かな動揺と困惑が伝わってきたが、激しい抵抗はなかった。段々と霞んでいく意識の中で、確かにプーパと目が合う。そして彼の表情を見て、半ば反射的に顔を歪める。
「...ど、う...して、おま、え......が___ 」
(泣いてるんだよ)
最後まで言葉を紡ぐことなく、ヌイビェードの意識は沈んでいった。
気絶したヌイビェードを見つめながら、プーパは彼とは違う者へ声をかける。このやり取りを最初から見ていたもう一人へと。
「おい、言われた通り急所は外したぞ。本当にこれでいいんだよな」
『ああ、それでいい』
いや、厳密に言えば一人ではないかもしれない。プーパに話しかけるそれは、今も街を呑み込みつつある黒い焔...さらに厳密に言えば、それを操作している闇だ。それが、中々友好的に話しかけてくる。何をどうやっているのかはわからないが、器用なことに焔でヒト型のような姿を取り、身振り手振りを会話の所々に交えてくる。それが威厳と威圧感が感じられる声と対比され、彼はつい笑みをこぼしそうになる。
「そうかよ。なら、オレの役目は終わりってことでいいよな」
『もちろんだ。...このおとこはコチラで預かってもよいな』
「いいぜ。ただし......」
プーパは少し間を開けた後、普段よりも幾分か低い声で言う。
「絶対に殺すなよ」
『ああ、わかった』
有無を言わさぬ、その圧力に闇は頷きを返す。そんなもので信じられるとは到底思わないが、幾らかの気休めにはなっただろう。そう考えてプーパは、闇に背を向けて歩き出す。もう、お前と話すことはないと言わんばかりに。
『全く、むずかしいものだな』
命令には誰よりも忠実で、例え自身が一番に想う相手を傷つけることも厭わない人形のようだ。しかし、彼は今も消えることのない痛みを背負い続けているのだろう。だからこそ彼は...プーパという名を与えられた男は人形になりきれず、自身が終わらせた世界を歩み続けるのだ。その果てに希望の一つがないとしても___。
闇は去っていくプーパの背を焔ごしに見つめた後、静かにヌイビェードを呑み込む。そして、ヌイビェードの傷口を軽く燃やして止血する。闇の生み出す黒い焔は、燃やすことよりも呑み込むことに向いている。だから、焔の中に物体やあらゆる生命体を燃やすことなく入れることが可能なのだ。無論、それなりの技術と魔力の制御は必要だが。
『死にはしてないようだな。となると、残るもんだいは...』
『ヘェイ、おーさま。お呼びかい?』
闇の思考を断ち切るように、明るい声が割って入った。声の主は、ヌイビェードの近くでフヨフヨと漂っている紫色の光。フェルドを取り込んだ闇と同じく、彼が持っていた禁書に封印されていた闇の内の一体である。あの本には百体ほどの闇が本のページごとに封印されており、力の弱いものから順に並んでいる。そして、フェルドが封印を解いたのは、その禁書の最後のページに封印されている一番強力な闇だ。それが封印を解かれたことによって、他の闇たちも完全に自由にというわけにはいかないが、こうして本体の力の何割かを持った魂の状態で禁書の外へと出てくることが可能になったのである。その内の名もなき一体が、実にフレンドリーに闇へと話しかけてきたのだ。
『別段、お前をよんだつもりはないが...ちょうどいいだろう。その肉体、好きにつかってよいぞ』
『ヘェ、それはホントですか?』
『ああ、ただしころすなよ』
「...うっ、こ、こは......?」
闇からの提案を、嬉しそうにその魂が承諾したときだった。軽く呻き声を上げながら、先程止血を終えたばかりのヌイビェードが目を開ける。この短時間で目覚めたことに、闇は少々の驚きをもつ。その時、彼の横にいた紫色の光が凄い速度で、ヌイビェードの方へ向かっていく。そして、闇に話しかけたときと同じくらいのフレンドリーさで彼に話しかける。最初は、ヌイビェードに大分怪しまれていたようだが何を言ったのか、彼と少し会話をした後、その光は闇にこう言った。
『おーさま。コイツの肉体、貰いますね。今、ちゃんと許可も取ったんで』
『......あ、ああ。好きにしろ』
敵であるはずの者に、律儀にも許可を取ったらしい。そのなんとも言えない行いに、闇は自分にあるのかどうか定かではない頭が痛くなるのを感じるのだった。
「うーん、やっぱりまだ違和感がありますねェ」
『そうだろうな』
その後、無事にヌイビェードの肉体の中に魂を入れることができた。目の前の奴は、イビーと名を改め、新しい自身の肉体を確かめている。数分の間、しっかりと体を馴染ませ、それを自分のものとしていく。
『どうだ?』
「そうですねェ。完全ではありませんが、さっきよりは大分ましです」
『そうか。しばらくは、自分の体になれることにセンネンするといい』
「お心遣い、痛み入ります」
闇の言葉に、感銘を受けたとばかりに恭しく一礼して見せるイビー。どうにも、油断ならんやつだな、というのが今の所の印象だ。
「ところで、おーさま。一つ、お願いがあるのですが」
『...なんだ?』
「新しい体の準備運動も兼ねて、裏門へ行ってもいいでしょうか?」
ニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべながら、イビーは言う。裏門へはカリンの部下たちが向かっているはずだ。其処を当初の計画通り、黒い焔が呑み込むまでに数を減らしておくつもりなのだろう。できるだけ、彼女の部下たちを呑み込みたいところではあるし、この提案に若干の不安要素は残るがまあいいだろう。
『殺さなければ、少々遊んできてもよいぞ』
「そうですか。じゃあ、行ってきますねェ」
心底楽しそうに、イビーはその場を後にした。闇はその様子を見ながら、やはり奴は何処か胡散臭い、とそう思うのだった。
「ふん、ふん、ふ〜ん♪」
闇と別れたイビーは、一人上機嫌に裏門へと向かう。この短時間で鼻歌を歌いながら、スキップができる程、ヌイビェードの肉体は自身の魂とよく馴染んでいる。それほど、彼の魂とは相性が良かったのだろう。
「さァて、それじゃあ一緒に行こうか。相棒」
『......』
イビーが相棒と呼ぶ者からの返答はない。ただ、微かに自身の魂にもう一つの魂が触れたような...そんな気配を感じた。
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『ヤッホー、はじめましてェ。体は大丈夫?』
「だ、れだ...お前...?」
いきなり話しかけてきたイビーに対して、ヌイビェードは不審げな顔をする。それも当然だろう。目覚めたら、妙な紫色の光に話しかけられたのだから。この場合、弓で射って殺されるのが普通であろう。彼がそうしなかったのは、血液不足で頭が回っていないだけなのか、それとも___。
『うーん、誰って言われるとちょっと困るけど...ただの名もなき闇だよ』
「闇、だと?ここは、あの黒い焔の中か?」
『そのとーり。見かけによらず、頭いいんだねェ』
少しからかうように言うと、ヌイビェードに睨まれてしまった。ごめんね、というように、イビーがフヨフヨと彼の周りを飛ぶと、それだけで許したのか、はたまた最初から興味がないのか、ヌイビェードは一人、状況を整理しはじめる。
「そうか。それで、僕はプーパに刺されて...ハハッ、死なないように気をつけるのは僕の方だったってわけか。そもそも、この任務で死ぬ危険は低かったし」
『そうそう。だから、相棒を刺したやつは裏切り者だったんだよ』
「裏切り者、か。あいつ、やっぱり...ていうか、誰が相棒だ!?」
『アハハッ、ツッコミのキレまで最高だァ。流石だよ、相棒』
ケタケタと笑うイビーに、流石に疲れたのか頭を抱えるヌイビェード。彼から、ことこの件に関して二度目のツッコミがくることはなかった。
『それでよォ、相棒。お前の肉体、貰ってもいいか?まァ、断るって選択はないけどな』
「......何故だ?」
イビーの問いに少し考えた後、ヌイビェードは一言問い返す。
「何故、わざわざ聞いたんだ?初めから僕には、選択の余地がないだろう」
『そうだなァ。相棒なら何を返すのか...それが、知りたかったんだ』
そう呟いた彼は、先程までと何処か違った。今までの薄っぺらな言葉ではなく、心から感じたことを言っているような、そんな気がした。
「仮に、僕たちや姫君の安全等のことを何も考えなかったとき、お前の質問に僕はこう返すだろう。_お前に...僕以外の全てに僕をやるつもりはない。向こうがそれでも奪うと言うのなら、奪い返すまでだ。たとえ、血肉の一片たりとも渡すつもりはない。それが、あの方からヌイビェードという名を賜ったときに決めたことだ」
彼の本心を聞き、ヌイビェードもまた嘘偽りのない言葉を返す。目の前にいる、存在の不確かな魂が、確かにそれを望んでいるような気がしたから。
『...そうか。......そうかァ。じゃあ、奪い返してみてよ』
「ああ。受けて立とう」




