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神々の寵愛  作者: Memu
第一章
13/20

幕間

 必要な警告を済ませ、エルはカリンのいる部屋を後にする。

(あのカリンという少女___ )

身なりからや口調からすれば一見ただの貴族に見える。だが彼女が普通でないことを知っている。首都の街でも言っていたことだ。これを言い始めたのは私だけではなく、ウルもだ。あの子がそう断定したのだ。だから、彼女は普通ではない。

 エルは自然と、歩きながら左手を白衣のポケットの中につっこみ、右手を顎のあたりにおく。彼が考え事をしているときにいつもとるポーズ。城に仕える者達や普段あまり城にいない貴族達もそのことを承知しており、このポーズをしたエルが通るときは静かに道を開けるのだとか。

(だとすると、彼女が本当に貴族なのかどうかも怪しいところだな。これは、調べてみる価値がありそうだ)

後で部下の一人でも捕まえて調べさせておこう、なんてことを考えながら角を曲がろうとしたときだった。

「...っ!?」

自身のよく知った気配を感じとり、反射的に熟考のポーズを解き、通路の角から顔だけを覗かせる。その視線の先にいるのは特徴的なピンクのハーフツインテールに普段より少し覇気のない緑色の瞳、黒地にオレンジと紫の派手な柄や刺繍のあしらわれたドレスの少女_ウルともう一()

「......__なんです。私が間違っているのですか?《《キルア様》》」

ウルは賢明に何事かを自身の目の前にいるものへ問う。しかし彼女の目の前に人影はない。だが其処には確かに”いる”のだ。ウルの視線の先...其処には大小様々なたくさんの光の粒が視える。この世界の神の一柱、光ノ神キルアが___。

「そおだなあ。ウルが思っていることは大抵みんなが考えることだから、おかしくはないと思うぞ。でもなあ、ウルはそのカリンって子にそれを言ってしまったんだろ?...それは良くないんじゃないか。ほら、その場にはエルもいたんだろう。あいつも同じようなことを言ってなかったか?」

「......お兄様には、他者のことにとやかく言うものではない、と言われましたわ」

「他者のことに、かあ。確かにエルが言いそうではあるな」

 そうしみじみと言うキルアの気配が一瞬だけ、エルの方を向いたような気がする。だが、きっと、気の所為だろう。いつか見た、口調に反して神として相応しい姿をした彼女。その記憶の中の姿を久方ぶりに想い出した。

「うーん、そうくるかあ。ボクとは少し違うかもなあ。カリンは復讐がしたいと言った。そしてウルはそれを否定、とまではいかなくても認めなかっただろ」

「だって復讐なんて何も意味がないんですよ!」

「ウルの言いたいこともわかるぞ。でもな、お前カリンのことどう思ってる?」

「え?どうって、友達...」

困惑したように一言ウルは呟いた。出会って間もないカリンのことを友達と言える妹はやはり眩しいな、と素直にそう思った。そして、それが私とウルとの決定的な違いの一つなのだろう。だからこそ、キルアはウルを選んだのだ。

「友達、そう友達だ。ウルは友達が望んだことを否定したんだろ?否定された側は、一体どんな気持ちになったんだろうなあ」

「っじゃあ他になんて言えば良かったんですか?」

スカートの裾をギュッと握りしめ、ウルは問う。あの頃と変わらず、キルアは妹へ趣味の悪い_少し意地悪な質問を投げかける。昔と変わることのない彼女にエルは何かを言いかけてやめる。これを言う資格はきっとない。

「うむう、難しいことをいうなあ。そうだな、復讐とひと括りに言ってもいろんな意味がある。カリンが具体的にどんな復讐を望んでいるのか、それを聞いてからでも遅くはなかったんじゃないか」

「......っ!?」

 キルアの言葉に思い当たる点があったのか、ウルは目を見開く。ふいに、ウルの正面にあったたくさんの光の粒が彼女の側へと近づいた。それがどのような行動なのかはわからなかったが、妹はその行動に確かな笑みを浮かべた。

「じゃあ、ウル。やることはわかったか......よし。頑張ってこいよお。友達なんだろ」

「...はいっ、行ってきます。ありがとうございました、キルア様」

激励の言葉をキルアから送られて、ウルは嬉しそうに一礼してその場を去っていく。一瞬、彼女が此方に来て盗み聞きしていたことがバレるのではないか、と思案したが、幸いにも反対方向へと歩いていった。ウルの気配が十二分に遠ざかった後、光の粒達もキラキラと美しく瞬いて消えていく。

(私はまた何もできなかったのか)

何かを紡ぎかけた口も彼女の手を取ろうとした手も此処にある。キルアの方がいつも妹に寄り添っていて考えを聞いて、時に厳しく窘めたり、時に優しく抱きしめたりすることができる。エルにはもうできなくなってしまったことだ。あの時から、私達は正しくいようとして空回りしてばかりだ。

 ならば、せめて妹の仲直りの邪魔をしてはいけないだろう。それくらいなら、エルにだってできるはずだ。彼女の兄として___。

 何やら意味ありげに拳を握り、ウルと反対方向_つまりは、今来た道を去っていくエルの後ろ姿を一つ残った光の粒が見つめていた。

_______


 自身の前に立ち、思案顔で右手を頬に当てている少女_ウルを見つめながら、光の粒は愛おしげに話しかける。

「愛いものだなあ。妹にしたいくらいだ。どれ、一度ボクのことを姉と___ 」

「キルア様、ダメですよ。姉でも仮に兄だったとしても、そう呼ぶ気は私にはないです」

意地悪な問いを投げかけると、もう少し困るかと期待していたが、ウルはキルアの予想に反してきっぱりとそう言った。その場にエルはいない。それの気配が先程から此方に向かっているのは感じるが、残念ながらこの会話が聞こえるほどではないだろう。

「全く...」

難儀なものだな、と口には出さずにキルアは思う。ウルが続けて言っている言葉は適当にあしらい、エルの気配を追う。そんなことは本人に直接言ってほしい、というのが彼女の感想である。先程から聞こえてくるのはどれもエルのことが大好きだ、という想いが終始ダダ漏れたただの自慢話のようなものに過ぎない。

「ちょっと、さっきから空返事ばかりしてますけど話聞いてるんですか?」

「ああ。勿論聞いているよ」

ウルは本当にエルのことが好きなのだな、と意地悪をしかけてやめる。エルの気配がすぐ其処の通路までやってきているのを感じたからだ。

「それで。ウルはボクに何か話があったんじゃないのか?」

「あっ、そうなんです。聞いてください、実は.........」

大方想定通りな問いに耳を傾けながら、キルアはバレないように視線を右の通路へと向ける。案の定、其処には心配げに、そしてどこか羨ましげに此方を見ているエルがいた。彼からすれば、この光景はそれこそ仲の良い姉妹が楽しそうに会話をしているように見えるのかもしれない。

(ボクはこの二人の方が仲良いと思うけどなあ)

そんなことを考えて、隣りにいたウルを抱きしめると、右から鋭い視線が飛んでくるのを感じた。少し意地悪な気持ちになりつつ、内心で笑みを浮かべる。

「っキルア様...」

キルアから抱擁を受けたウルは彼女の腕の中で小さくその名を呼んだ。てっきり、怒られるのではないかと思っていたが、ウルはキルアを見上げて微笑んだ。まるで、餌を取りに行った親鳥が雛の元へと帰ってきたときのような安心した、安堵した、そんな笑みだった。

(じゃあ、ボクの役目は雛をあるべき場所へ送りだしてやることかな?)

カリンの元へと向かうウルを見送り、此方に向かってくるエルから姿を隠す。彼が反対の道を歩んでいくのを静かに見つめてキルアは呟く。

「がんばれ。エルにならきっとできる、ボクが違えさせてしまった道を再び一緒に歩むことが___ 」

最後に残った光の粒はその言葉を誰に聞かれることもその姿を誰かに見られることもなく消えていった。

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