第6話 挑戦者が現れました
目覚めと共に、バッと身体を起こした。
右に左に、首を振って部屋中を見渡す。
……特に変わった点は無い。エミリーさんはベッドで心地よさそうに寝ている。
夢か?
身体を触る。無論、証拠等あるはずもない。ただ、ザワザワしてなにかをせずにはいられなかった。
女の人への免疫が無さすぎるせいか、或いは緊張していたせいか。それがあんな夢を見せたのだとすれば……我ながら恥ずかしいし何よりキモイ。一旦墓に持っていくか。
「ふわぁ……あ、おはようございます」
そんなことを考えているとベッドから声がした。エミリーさんも起きたらしい。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「いえ、目が覚めただけです。それにしても昨夜はなにか悪い夢でも見てたんですか?」
まだ半分夢の中という感じに目を擦りながら話している。
やはり小動物。さすが小動物。でもそんな相手に僕は……
「い、いえ。そんなことは無いです。悪い夢ってわけでは」
「そうですか。なら良かったです。うなされていたような気がしたので」
ニコッと笑いかけてくる。
うーん、屈託ない笑顔が逆に痛い。
爽やかな笑顔を返す代わりに、心の中で秒速222回ぐらいは謝っておいた。
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今日の予定はなんだったか。手帳を確認する。
実は、ここで暮らすにはある決まりが存在する。ファンタジーと言えどさすがに働かざるものなんとやら。現実はビターである。
その内容は様々で、カベッサさんが口頭やらメモ紙やらで知らせてくる。
逆に言えば、それ以外の場合は大抵自由に過ごしていいことになっている。
働かざるものここ掘れワンワンとは言ったが、つまるところほとんど何もしなくても快適な生活を送ることが出来る。それがここでの暮らしである。
働かざるものえんやーさっさーと言えどファンタジー。結局のところ現実はスウィートなのである。
そりゃ転生のひとつやふたつだってしたくもなるわけだ。
手帳を閉じる。
「今日は特に予定は無い、か。しかし何もしなくていいというのも暇だよなあ……まあ暇ほど有難いものは無いけど」
呑気に窓の外を見ると、エミリーさんとマーシャの姿があった。
マーシャの事だ。どうせ『探検に行こう!』 なんて呑気なことを言ってるんだろうなあ。いや、さすがにいい歳してそれは無いか。マーシャと言えど。
そんなことを考えながら窓の外をもう一度見た時に違和感に気づく。
あれ、マーシャがいない。
気づいた時には遅かった。階段をかけ上がる音がして、ドアが開く(破壊)。
CHALLENGER APPROACHING
挑戦者が現れました
「たのもーーーーー!!」
「HAHAHA! なーんだ、ただの乱入者か!」
そこには元気そうな挑戦者の姿があった。
「今日、太郎って予定ある?」
「いや特にないけど」
「じゃあ行こ!」
有無を言わさず、手を引っ張られる。
「え、行くってどこに? まさかとは思うけどたん──」
「探検だよ! エミリーちゃんに村を案内してあげるんだよ!」
当たってしまったらしい。こんなにも当たってて嬉しくない事がこの世にあるだろうか。参加賞のティッシュが恋しい。
とにかくこうなれば抵抗は無駄。付き合わされることは確定している。
「はいはい、分かった。分かったからとりあえず手は離して貰えますかね! 痛いので! いやほんとに痛い、え? 待ってこれ腕ちぎれてない? ね、一旦離そ?」
駄目だこいつ聞いてない。でもまあ、いつまでも気まずいとも言ってられないし丁度いい機会か。
「よーし! じゃあレッツゴー!」
張り切って腕を上げるマーシャの一言とともに楽しい楽しい探検(強制)が始まった。