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第5話 いいですよね?

 そんなこんなで慌ただしくも、同棲生活一日目は終わろうとしていた。


「じゃあおやすみなさい。エミリーさん」

「は、はい。おやすみなさい」


 寝る前の挨拶を交わして布団に入る。

 床で眠るのはいつぶりだろう。

 うるさい二人のおかげか、意外にも眠気はすぐにやってきた。


 ▼









 ▽


「はあ、はあ……」


 息苦しさに目を覚ます。呼吸が苦しい。口が……開かない。塞がれている。何かに。


 あるのは柔らかい感触。


 目を開くと、目の前に何か、いや誰かがいた。誰かは分からない。


 誰が。何を。……考える。だが分からない。


 ようやく目が馴染んでくる。馴染んでも尚、視界の殆どは肌色に覆われている。その端で銀色が揺れているのが目に入る。


 銀色……銀色と言うと思い当たる人物は──

 推察通り。エミリーさんがいた。


 遅れてようやく脳が解読をはじめる。


 口に当たっているものはエミリーさんの唇。つまり僕は、キスされている?


「!」


 エミリーさんはこちらの意識があることに気付くや否や、飛び退くように離れる。


「あ、あの……その……ごめんなさい。でも私止められなくて……。なんか凄く体が熱くて、変な気分になっちゃって、それで、私……」


 解読はできても理解ができない。


「あーえっと……これはどういう?」


 冷静に考えてみよう。目を開けたらエミリーさんからキスをされていて……なるほど。意味が分からない。

 どうやら完全に混乱しているらしい。


「でも明谷さん……いえ、お兄ちゃんもこういうの興味あるんですよね? その……私の火照りを治める手伝い、してください」


 再び近付いてくる。近い。近すぎる。

 肌と肌が密着する。


 はだけた胸元。首筋を流れる汗。肌を撫でる生温い吐息。


 この人はほんとにエミリーさんなのか。完全に別人の雰囲気だ。……冷静になろう。落ち着け。


「手伝いっていうのは一体?」

「はあ……はあ……嫌、ですか?」


 荒い呼吸で、ただねだるように見つめてくる。こちらの言葉を聞く様子もない。

 

 考えろ。寝る前は普通だったはず……急にどうして?

 

 状況が想定の外にあり過ぎてろくに頭が回らない。


「お兄ちゃん……」


 細く小さい両手に右手が掴まれる。


「何を……」


 そしてそのまま誘うように──

 ふわりとした感触が手の平に広がる。手はわずかに膨らんだエミリーさんの胸の上にあった。


「聞こえますか? 私こんなことになっちゃってるの」


 ドクン

 ドクン

 ドクン

 ドクン


 飛び出しそうに脈打つエミリーさんの心臓の音が手を伝わってくる。自分の手が心臓になってしまったのではないかと錯覚するほどに。


 こんな中で冷静な判断なんて誰ができようか。


 隙をつくように。絡めとるように。

 耳元で囁く声がした。それは悪魔か或いは天使か。


「ねぇ……いいですよね?」

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