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52 元聖女の旅立ち


 それから、二か月間。

 聖女の代替わりに関する、さまざまな行事がとりおこなわれ、シャルロットも手伝いで忙しい日々を送ることに。


 その間、王宮ではシャルロットが発見した『聖女が生まれる地の共通点』についての検証もおこなわれ、シャルロットの説が正しいことが証明された。


 国王はその功績を称えて、シャルロットに勲章と褒賞を授与したが、この発見自体は小説で知った情報。本来は自分の功績ではないと思いつつも、シャルロットは悪女なので、もらえるものは全ていただくことにした。


 シャルロットに箔がつけば、ジェラートに相応しい妃だとさらに印象付けることができるはず。シャルロットにとっての『悪女』は、良くも悪くも、いつもジェラートとのために使われている。



 そして二か月後の今日。先代の聖女マドレーヌが、故郷へと旅立つ日がやってきた。

 季節はすでに夏。マドレーヌや聖女宮の使用人達を乗せる馬車は、真夏の日差しを受けて輝き、元聖女の旅立ちに相応しい明るさを演出している。


 マドレーヌは故郷へ帰れる日を、事前に知っていたかのように短期間で準備を整えた。

 生まれ育った家が存在していた場所に、当時の記憶を元にした同じ家を建て、その隣には使用人達が住む大きな屋敷も建てたのだという。

 マドレーヌ曰く、使用人はただのお隣さんで、自分は悠々自適に一人暮らしをするのだそうだ。


 老いがどこかへ吹き飛んだように、旅立ちを喜んでいるマドレーヌは、今は王宮の者達への最後の挨拶で忙しい。

 やっと王太子夫婦の順番がくると、マドレーヌはそれまでとは一転、別れを惜しむような顔つきになる。


「シャルちゃんと離れ離れになるのが、一番寂しいわ」

「私も寂しいです……、マドレーヌ様」


 ジェラートとの結婚生活が上手くいかずに、寂しい気持ちを抱えていたシャルロットにとっては、マドレーヌの存在が随分と助けになった。

 本当の曾祖母のように慕っていたマドレーヌと離れるのは寂しいが、今はお互いに心の底から求めていたものを、得ることができた。この別れは、喜ぶべきなのだろう。


「本当は、シャルちゃんを連れて行きたかったけれど、ジェラートに取られてしまったので仕方ないわね」

「曾祖母様には、渡しません」


 冗談交じりにマドレーヌがため息をつくと、ジェラートはシャルロットを抱き寄せる。冗談であっても、決してシャルロットを渡したくないらしい。


「これからは私の分まで、ジェラートがシャルちゃんを可愛がってあげてね」

「もちろんです。曾祖母様のことなど忘れてしまうくらい、シャルに愛情を注ぎます」


 最近のジェラートは、『シャルロットに慣れる』という段階はすでに終え、タガが外れたように情熱的だ。

 今の宣言が偽りでないことを、誰よりもよく知っているシャルロットは、昨夜を思い出して頬を赤く染める。


「ジェラートも頼もしくなったわね。これで、安心して旅立てるわ」


 マドレーヌは、曾孫の成長を喜ぶように微笑むと、再びシャルロットに視線を戻した。 


「前にも話したけれど、シャルちゃんの物語の主人公は、あなた自身なのよ。これからもそれを忘れないで、堂々と人生を謳歌してほしいの」

「はい。マドレーヌ様のおかげで、私も勇気が出たような気がしますわ。ありがとうございました」


 断罪という未来が待ち構えていても、楽しみながら計画を実行してこられたのは、マドレーヌのこの言葉が、心の片隅に残っていたからのように思える。それでなければ、悪女となり、好き勝手に振舞おうなんて考えは、思いつかなった。


(……はずよね?)


 悪女行為に慣れすぎた影響で、前世の記憶が戻ったことで悪女になったのか、それとも元々の性格だったのか、シャルロットはよくわからなくなってきている。

 けれど一つだけ言えるのは、ジェラートに嫌われたくない一心で、仕事も夫婦の義務も無理をしていた頃よりは、今のほうがずっと楽しいということ。シャルロットはこれからも、悪女を止めるつもりはない。


「最後にもう一つ、ささやかな贈り物をするわ。耳を貸してちょうだい」


 なんだろうと思いながらシャルロットは、マドレーヌに耳を寄せる。そして贈り物を受け取ったシャルロットは、瞳を輝かせた。


「まぁ! 本当ですか?」

「えぇ。直に兆候が見られるはずよ」

「ありがとうございます、マドレーヌ様!」


 マドレーヌの手を取りながらシャルロットが喜んでいると、ジェラートが不思議そうにシャルロットの顔を覗き込んでくる。


「どうしたんだ? シャル」

「ジェラート様がお帰りになりましたら、ゆっくりとお話しいたしますわ」

「気になる……」


 ジェラートは蚊帳の外にされたと思ったのか、不機嫌そうな顔になる。しかしシャルロットとしては、もっと落ち着いた場所で、マドレーヌからの贈り物を夫に分けたい。


「ほら、ジェラート。私を故郷まで送ってくれるのでしょう? 早く準備なさい」


 ジェラートはこれからマドレーヌを送りつつ、彼女の故郷の視察をする予定となっている。

 出発まで時間がないと諦めた様子のジェラートは、別れを惜しむようにシャルロットを抱きしめた。


「ではシャル、行ってくる。約束を忘れないでくれ」

「はい、お帰りを楽しみにしておりますわ。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」


 ジェラートが準備へ向かう姿を見送ると、続いてマドレーヌも離れがたい様子でシャルロットを抱きしめた。


「それじゃ、私も行くわね。シャルちゃんに出会えたおかげで、最後の王宮暮らしがとても楽しかったわ。贈り物を受け取ってくれてありがとう」

「私のほうこそ、マドレーヌ様はいつも私の支えとなってくださりましたわ。感謝しても、しきれないくらいです。故郷へお帰りになっても、お元気でお暮らしくださいませ」


 シャルロットの元を離れたマドレーヌは、最後に息子の先代国王と、孫の国王に別れの挨拶をしてから、馬車へと乗り込んだ。

 歴代聖女の中で、最も長く聖女を務めたマドレーヌは、多くの者に惜しまれながら、故郷への帰路へと旅立った。




 マドレーヌを見送った後、シャルロットはショコラをお茶に誘った。


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