表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/58

48 聖女お披露目の宴5


 クラフティがショコラになにかを伝えると、二人は同時に王太子夫婦に対して挨拶の礼をする。ショコラの教育に関しては、クラフティも積極的に手伝ってくれているので、息がぴったりの二人が実に微笑ましい。


「ごきげんよう、ショコラ様、クラフティ。綺麗な挨拶でしたわ」

「ありがとうございます、シャルお姉ちゃん」


 ほっとしたように微笑んだショコラは、それから目を輝かせて王太子夫婦を見る。


「今日のシャルお姉ちゃんとジェラートお兄ちゃんの衣装、とっても素敵です」

「ありがとう。ショコラ様も素敵ですわ」

「シャルお姉ちゃんに褒めてもらえると、嬉しいです。実は……私もクラフくんと、ここだけお揃いなんです」


 ショコラは、控えめに微笑みながら、袖の刺繍を見せてくれる。ショコラ用のドレスのデザインを決めた際は、シャルロットも同席していたが、その時のデザインとは少し異なっている。


「あら、いつのまに」

「お揃いのものを持っていると、一人じゃないって気がして勇気が出ると、クラフくんが教えてくれたんです」


 臆病なショコラにとっては、それが本当に勇気となっているようだ。袖を胸に抱く姿が、いかに大切であるかを物語っている。


「へぇ。クラフティがねぇ」


 今まではひたすら姉のことばかり考えているような弟だったので、ショコラへの気遣いを見るたびに驚かされる。

 弟も、一人の女性へ情熱を傾ける歳になったのだ。改めて認識すると、嬉しいような寂しいような。


「僕もたまには、良いことを言うと思いませんか?」

「ふふ、そうね。ショコラ様にとっては、良いおまじないだわ」


 ショコラのことは、クラフティに任せておけば安心だ。

 シャルロットがそう思っていると、ジェラートも同じことを思ったのか「クラフティ、今日はショコラを頼んだ」とクラフティに視線を向ける。

 小説ではジェラートがショコラをエスコートしていたが、今のジェラートにその考えは微塵もないようだ。


「お任せ下さい、兄様。――では、ショコラの準備もありますので、僕達はお先に失礼いたします」


(うわぁ……。この前まで『ショコラ様』って呼んでなかった?)


 弟の手の速さは、夫にも学んでほしいものだ。五年目にしてやっと愛称で呼んでくれた夫に視線を向けると、ジェラートはなんとも言えない顔で、玄関を出ていくショコラとクラフティを見つめている。


「どうかなさいましたか、ジェラート様」

「いや……。クラフティに初めて、笑顔を向けられたと思って」


 ジェラートは、クラフティの変貌ぶりに驚いているようだ。今までのクラフティは、ジェラートのことを『愚兄』と呼び、嫌っていたので無理もない。


「ふふ。未来の義兄になる方ですもの。印象を良くしておきたいのよ」

「今も義兄だが?」

「姉の夫と、妻の兄では気合の入れようが変わってきますわ」

「なるほど。そういう意味か」


 納得したような様子のジェラートは、それからシャルロットを抱き寄せて囁いた。


「二人のためにも、側妃問題は速やかに解決しなければな。宴が終わったらもう一度、母様と交渉してみる」

「はい、よろしくお願いします」


(でも……、交渉前に事態は動く気がするのよね……)


 今までの経験から、小説の内容とは大きく展開が変わっても、その時々に見合ったイベントはしっかりと挿入されている。

 それを踏まえると、宴の会場では王妃がなんらかの行動を取る気がしてならない。

 自分達にとってそのイベントが、良いものであるように。今のシャルロットは、そう祈るしかない。




 聖女お披露目の宴は、新たな聖女の姿を貴族に見せるのが目的なので、特に儀式などは用意されていない。


 宴が始まると、国王から紹介を受けたショコラが、皆の前で簡単な挨拶をおこなった。

 小説のヒロインよりも練習時間があったショコラは、特に失敗することもなく、貴族から喝采を浴びることができた。


(小説のヒロインは失敗して、貴族から「庶民」であることを馬鹿にされてしまったのよね)


 そんなヒロインを、ジェラートが必死にかばったことで、シャルロットは嫉妬をする。

 シャルロットが小説の展開を変えた影響で、ヒロインにとっても良い方向に向かっているように思える。


(ショコラは良い子だし、クラフティも彼女を気に入ってるもの。皆で幸せになれたら良いわよね)


 小説の展開を安心して通過するたびに、気が緩むシャルロット。

 今度は四人で、どこかへ遊びに行きたいなどと考えていると、ジェラートがシャルロットの顔を覗き込んだ。


「ショコラの挨拶も終わったし、何か食べないか?」

「良いですわね。準備でバタバタしていたので、お腹がすきましたわ」


 今日の主役はショコラだ。王太子夫婦としてショコラの挨拶を見守る役目は終わったので、シャルロットはにこりと微笑みながら、夫が差し出す手を取った。


(さっさと、王妃様から離れたほうが賢明よね)


 ジェラートの提案に乗っかり、シャルロットはそそくさとビュッフェテーブルへ向かう。

 そんな王太子夫婦の姿を、多くの貴族が注目していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ