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46 聖女お披露目の宴3


(もしかして……私に内緒で、それを実行しようとしていたのかしら)


 ジェラートの唐突な態度の理由は、これではなかろうか。

 そもそも別居についての話し合いは、落ち着いてからという話だった。今はまだ、聖女お披露目の宴も終わっていないし、ジェラートも忙しいまま。話し合いの時期には相応しくない。


「ジェラート様はもしかして……、そのために私を連れ出したのですか?」

「うむ……。個人的にも、シャルの口から早く結論を聞きたかったが、側妃問題が浮上してさらに、焦る気持ちが出てきた」


 それからジェラートは、言いにくそうに言葉を続ける。


「以前のシャルなら、『側妃を娶るなら自分はもう必要ない』と言い出しかねなかったし……」


 ジェラートの不安は的中どころか、それがシャルロットの当初の計画だった。

 言い当てられて、シャルロットが気まずさを感じる。

 そんなシャルロットの気持ちを伺うように、ジェラートが顔を覗き込んでくる。


「この話を聞いた後でも、気持ちは変わっていないか……?」


 シャルロットも幾度となく、ジェラートの気持ちを確かめるような行動を取ってきたが、ジェラートも不安な気持ちは、シャルロットに負けないほど抱えているようだ。五年間もすれ違っていたのだから、無理もない。


「もちろんですわ。ジェラート様の妃の座は、どなたにも譲りたくありませんし、共有も嫌です!」


 自分だけの夫だとばかりに、ジェラートの首にぎゅっと抱きつくと、ジェラートも力強く妻を抱きしめる。


「俺もシャルを絶対に手放したくないし、他の男に取られるなどもってのほかだ」


 それからジェラートは、シャルロットの耳元に口を寄せる。そして、誰にも聞かれたくないかのように、小さな声で囁いた。


「シャル……好きだ。どうしようもないほど、そなたが好きだ。五年間の想いが募りすぎたせいで、ひと時もそなたを離したくない」

「…………っ!」


(ジェラート様が初めて……、好きだと言ってくださったわ)


 ついに言葉でも好意を示してくれた。そのことが嬉しくて、シャルロットの心は締め付けられたように苦しくなる。


「私も、ジェラート様からひと時も離れたくないです! 大好きですわ!」


 以前は、夫婦の義務の時間は息が詰まる思いだったが、今は叶うならば、全ての責務を放り出して傍にいたい気分だ。

 一か月ほど会えなかった期間もあるせいか、尚のこと夫の温もりを離したくない。


「俺達の気持ちが同じで嬉しい。実は……この部屋へは、理由があって連れてきた」


(……え?)


 ジェラートの勢いが凄かったので、室内を確認する余裕がなかったが、改めて辺りを見回してみると、ここは寝室のようだ。


(初めて見るお部屋だわ)


 王太子宮にある部屋は全て把握しているし、客室は全てシャルロットの指示で整えてある。しかしこの部屋は、明らかにシャルロットではない誰かによって整えられた部屋だ。

 けれど、誰が整えたのかは何となく察しがつく。なぜなら、部屋中のさまざまな場所に『白バラ』が飾られているから。


「わぁ……。素敵なお部屋ですわ。新たにお作りになりましたの?」


 そう尋ねると、ジェラートはシャルロットから離れて、少し照れたような表情を見せながらうなずいた。


「この部屋は、俺達夫婦の寝室だ」

「私達の……、本当ですか?」

「あぁ。この部屋は、夫婦仲が改善した証拠作りとしての意味もあるが、俺がずっと望んでいたことでもある。夫婦の義務に関係なく、毎日シャルと一緒に過ごしたい……。この部屋を受け取ってくれるだろうか」


 今までは夫婦の義務の日にだけ、ジェラートがシャルロットの部屋を訪れていたが、ジェラートはずっと夫婦の寝室を持ちたかったようだ。

 それはシャルロットも、憧れていたこと。毎日、夫と一緒に寝起きして、『義務』ではなく自然に夫婦としての時間がほしかった。


「はい……。嬉しいです」


 これからは、些細な日常も夫と共有できる。それが嬉しくて微笑むと、ジェラートも安心したように微笑み返してくれる。


「では、その……。今夜から一緒に暮らさないか? 夫婦の義務も久しぶりなので、シャルと手を繋いで寝たい……」


 シャルロットに気づかれずに、ここまで部屋を整えるのは大変だったはず。そこまでして用意周到に準備しておいて、手を繋ぎたいだけという夫の願いは、なんと純粋なのか。

 夫の可愛い願いは必ず叶えるつもりだが、シャルロットは自分の一部となりつつある悪女心で、夫を刺激したい気分に駆られる。


「ジェラート様。妻をベッドに押し倒しておいて、願いはそれだけなんですか?」


 以前のシャルロットならば、こんな大胆な誘惑などできなかっただろう。これも夫との仲が改善したからこそ、恥ずかしげもなく言える言葉なのかもしれない。

 それに今のシャルロットは、自分が恥ずかしいという気持ちよりも、夫を困らせて恥じらう姿を見たいという気持ちのほうが大きい。


 ジェラートは、心の中でなにかと葛藤しているように、ぎゅっと目を閉じると、それから決意したように目を開いた。


「抱きしめるのも、追加したい……」

「ふふ。喜んで」


 そして純粋な夫の姿に、ときめきたいのだ。





 それから数日後、聖女お披露目の宴当日。

 宴用に仕立てた衣装を身にまとったシャルロットとジェラートは、夫婦の寝室にてお互いに見せ合いをしていた。


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