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33 聖女の居場所2


「はい。こちらの物語によりますと、先代聖女様は、カウベリー(コケモモ)クラウベリー(ガンコウラン)を、ジャムや果実酒にして生計を立てていたと、書かれています。そのどちらも自生している地域が、北東領地のこの辺りですわ」


 地図を指し示してフランに印をつけてもらっていると、ジェラートが感心したような声をあげる。


「領地の特産物として俺も把握はしていたが、自生地域まで詳しいとは恐れ入ったな……」

「詰め込んだだけの知識ですわ」

「いや、勉強熱心なそなたには、いつも助けられている。改めて、感謝する」

「身に余る光栄です」


 言葉での感謝かと思えば、ジェラートは「いい子だ」といわんばかりにシャルロットの頭をなではじめる。


(皆の前で、何を……!)


 夫の『妻に慣れる速度』が加速しているような気がしてならない。シャルロットは落ち着かなさを感じながらも、二冊目の本を開いた。


「大聖女と呼ばれた先々代聖女様は、まんまるイノシシの被害に悩み、毎夜、星空にお願いしたそうですわ。何度、金色の星をすくい取っても願いは叶わなかったけれど、ある日。星を持った男が現れ、聖女の力が宿ったと」

「まんまるイノシシといえば、こちらの平原ですね!」


 若い騎士が自信たっぷりに指さすと、続いて近衛隊長が考え込むように腕を組みながら口を開いた。


「しかし、この平原は広大ですので、集落がいくつもあります。先々代聖女様の故郷特定は、難しいかと……」

「いや、ここだ」


 ジェラートが指さした場所は、シャルロットがまさに指摘しようとしていた場所。驚いたシャルロットは、ジェラートに視線を向けた。


「ジェラート様、よくおわかりになりましたわね」

「以前、討伐でその集落を訪れた際に『願いが叶う湖』があると聞いたんだ」


 物語に出てくる『金色の星をすくい取る』という描写は、湖に映った星のことで、『星を持った男』というのは、聖女探しに使う宝玉を持った、当時の王太子のことだ。

 この湖が、まんまるイノシシの水飲み場になっているので、最寄りの集落が最も被害を受けやすい。シャルロットはそう説明するつもりでいたが、ジェラートはそれより確実な情報を持っていたようだ。


「そうでしたの。ジェラート様も、湖に何かお願い事をなさったのですか?」


 冗談交じりにそう尋ねると、ジェラートは恥じらうように視線をそらしながら、「叶うまで、何年もかかった」と呟いた。


 ジェラートの願いとはなんだろうと思ったシャルロットだが、印をつけたフランが「なるほど」と呟いたのでそちらへと視線を向けた。


「三か所の共通点は、『湖』でしょうか」

「えぇ、そうよ。三ヶ所とも自然あふれる場所だけれど、二か所は山で、一か所は平原。地域もばらばらだし、共通点といえば湖だけなのよね」

「なるほど。湖は神が作ったものでもありますし、そのお力で聖女様がお生まれになるのは、理に適っておりますね」


 ジェラートが最も信頼しているフランに賛同してもらえれば、信ぴょう性がぐっと増す。順調に話が進んでいることに、シャルロットが手ごたえを感じていると、騎士の一人が手を挙げた。


「しかし、この国には大小さまざまな大きさの湖がございます。その周辺をくまなく捜索するとなると、何年かかるか……。もう少し、範囲を絞れたら良いのですが」


 範囲を絞る手立てはあるが、全てをシャルロットが説明すると、誘導しているように思われるかもしれない。フランなら気がついてくれるだろうと思い、シャルロットは頬に手を当てて、考えるそぶりを見せる。


「神様は、全ての湖をお作りになられたのかしら?」

「そうではないと思います。神話では、『地の底からお力が溢れ、山や湖が作られた』と記されています。その力とはマグマのことで、マグマの噴出により、山やカルデラ湖が形成されたのでしょう。三人の聖女様がお生まれになった地の湖も、カルデラ湖です」


 思ったとおりにフランが説明してくれることに、シャルロットが満足していると、近衛隊長が「うーん」と唸る。


「確かに火山の噴火は、神が我々に何かを伝えている証拠だと伝えられておりますが、平原の湖付近には火山がありませんが……」

「平原の湖も、確かにカルデラ湖ですよ。その証拠に、湖付近では温泉が湧くでしょう。おそらく、火山が丸ごと吹き飛ぶほどの大噴火がおきて形成されたカルデラ湖なのでしょうね」


 そこまで説明したフランは、ハッと気がついたようにジェラートへ視線を向ける。


「殿下! もしかして聖女様のお力は、カルデラ湖の規模に比例するのではありませんか……?」

「ふむ。大聖女には及ばないが、歴代の聖女の中でも力が強い曾祖母様の故郷も、規模の大きなカルデラ湖だ……」


 驚きを隠せない表情のジェラートは、シャルロットの肩を抱いて引き寄せる。


「そなたは、歴史に残る大発見をしてくれたようだな!」

「そんな。私はただ……、湖の共通点に気がついただけですわ」


(人を誘導し、答えを出させ、尚且つそれを自分の手柄にしてしまうとは。私はなんて、悪女なのかしら)


 シャルロットは嬉しくなりながら、ジェラートの胸にぴとりと身を寄せた。が、ふとこの現状に違和感を覚える。


(あら……? 悪女作戦は失敗したのに、なぜ私は悪女を続けているのかしら?)


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