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30 夫の好感度が知りたい6


「おはようございます、王太子妃様。王太子殿下の侍従からの伝言で、殿下は早朝、聖女探しへ出かけたとのことです」

「やっぱり、行ったのね」


 マドレーヌを大切に思っているジェラートなら、きっと聖女探しへ出かけるだろうとシャルロットも予想はしていた。

 深夜のマドレーヌは「よろけただけ」と笑っていたが、いつか本当に倒れるかもしれないという、危機感を夫は抱いたのかもしれない。

 小説の内容を知っているシャルロットとしては、一年後のマドレーヌの元気な姿を想像できるが、ジェラートは何も知らないので不安なのだろう。




 クラフティに続き、ジェラートも留守になってしまったので、シャルロットは王太子宮とハット家の両方を、管理しなければならなくなった。

 ハット家は執事長に任せきりでも構わないが、聖女が倒れたとの連絡の後に聖女探しが始まったとなれば、不安もあるかもしれない。

 両方の使用人達を安心させたいと思ったシャルロットは、交互に寝泊まりをする生活を始めた。




 それから二週間後。


「ジェラート様は、まだお戻りにならないわね……」


 王太子宮にある執務室の窓から、シャルロットはぼーっと門の方角を眺めていた。

 いつものジェラートなら、午後のお茶会が開かれる頃には帰ってくるが、何日待っても一向に帰って来る気配がない。

 国王陛下が「聖女探しを優先せよ」という勅命を出したこともあり、今回のジェラートは期限を区切らず、聖女を見つけるまでは帰ってこないのかもしれない。


「王太子殿下も、お手紙くらいくださればよろしいのに……」


 お茶の準備を整えているアンが、自分のことのように不満そうな声を上げるので、シャルロットはくすっと微笑んだ。


「仕方ないわ。ジェラート様はそういったことに対して、不器用なのよ」


 そう返すと、なぜか物珍し気な表情のアンに見つめられ、シャルロットは居心地悪くたじろぐ。


「どうしたのよ。アン……」

「ふふ。王太子妃様も、変わられたなーと思いまして」

「私が?」

「以前の王太子妃様なら、きっと不安そうにしていたでしょうが、今は余裕が感じられます」


 アンに指摘され、シャルロットは自分自身でも、不思議なほど落ち着いていることに気がついた。

 別居する前のシャルロットならば、ジェラートが冷たい態度なのは自分を嫌っているせいだ。としか思えなかったが、今なら夫の不器用さを少しは理解できる。


 妻のためにと『白いもの』を大量に集めるようなジェラートは、適量の匙加減が難しい性格なのだろう。

 国王の勅命も、『見つけるまで帰ってくるな』という意味ではないはずだが、ジェラートとしては『マドレーヌを早く故郷へ帰したい』という気持ちでいっぱいなのかもしれない。


「アン……。私ね、離婚をせずに幸せになれる道も、あるんじゃないかと思えてきたの……。これは、私の自惚れかしら……」


 小説の中のシャルロットは、ひたすらジェラートに無視され続けていたが、今のシャルロットとジェラートの間には、新たな関係が生まれつつある。


 夫は、シャルロットの悪女な行為を「可愛い」と受け入れ、妻の好きなものを贈ってみたり、体調を気遣ってくれるようにもなった。

 別居前におこなわれていた寒さに耐えながらのお茶会が嘘のように、今は不器用ではあるが夫は優しさを見せてくれる。


 ジェラートがシャルロットに慣れたことで、確実に夫婦関係は良い方向へと向かい出した。

 それが『愛』ではないとしても、国を背負うパートナーとしてお互いに尊重し合えれば、そんな人生も悪くはない。


「自惚れではございません! 王太子妃様は、きっと、きっと、幸せになれます!」

「ありがとう……、アン」


 小説の内容を知らないアンが思い描いているであろう『幸せ』とは違うだろうが、アンの言葉にシャルロットは背中を押してもらえたような気分になった。


 ヒロインとジェラートが愛し合う姿を見るのは辛いが、シャルロットさえ自制できれば、悪女として断罪される心配もないはず。

 なにより、やっと自分に興味を持ってくれた夫と『離れたくない』というのが、シャルロットの素直な気持ちだった。


(早く、帰ってきてほしいわ)


 これまでのジェラートは、交流を深めるたびに新しい姿を見せてくれた。帰ってきたらまた、新しい夫が見られるかもしれない。

 そう思うと、夫の帰りが待ち遠しくて仕方なかった。





 その日の夜。ハット家へ戻ったシャルロットが、そろそろ寝ようとしていた時刻。

 外の騒がしさに気がつき、窓を開けて屋敷の玄関を見下ろした。


(馬車と、騎士団がいるわ。もしかして……!)


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