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22 聖女誕生祭3


 日頃から「狼のようだ」と貴族から恐れられているジェラートだが、それは容姿だけの話。彼は、横暴な態度や権力を振りかざすような態度は、決してしない。

 シャルロットに対してもそうだ。冷たい態度で接してはいるが、罵声を浴びせられたり暴力を振るわれるようなことは、一度もなかった。


 そんなジェラートの性格を利用して、大勢の前でわざと手を繋ぐことを選択した。改めて自分が『悪女キャラ』であることを痛感しつつ、辺りを見回した。


 当然のごとく、貴族たちは驚きに満ち溢れた様子で出迎えている。

 今まで冷え切った関係だと思っていた王太子夫妻が、お揃いの衣装をまとい、手を繋いで登場したのだ。


 こういった色恋沙汰が大好きな婦人たちは頬を染め、男性陣は素早く派閥同士で集まり始めている。これは一気に、派閥間の力関係が変わるかもしれない事態と言えよう。


(こんな効果もあったのね。今のうちに、反王太子派の勢いを削げるかもしれないわ)


 シャルロットが断罪される原因の一つは、『反王太子派』の存在。

 彼らは『王太子夫婦の関係に不安がある者』と『第二王子を王位に就かせたい者』とに分かれている。

 王太子夫婦の関係が良好であると見せかければ、前者だけでもこちら側に就いてくれるかもしれない。


 そう考えながら、扉から大広間までの階段を下り終えると、シャルロットとジェラートは早速、婦人たちに囲まれた。


「両殿下の仲睦まじいご様子には、私共も感激いたしましたわ」

「ふふ、ありがとう」


「素敵なご衣裳ですわ。お二人で、お考えになりましたの?」

「ジェラート様のデザイン画が素敵でしたもので、私が合わさせていただいたの」


「王太子殿下の髪色や、王太子妃殿下の瞳の色なども入っていて、両殿下の想い合いが伺えますわ」

「ジェラート様はいつもさり気ないけれど……、嬉しいわ」


 それは単なる偶然。紺に映える色が赤なだけだ。そう思いながらも、単純に自分の色を夫が身に着けていることは嬉しいので、無邪気に喜んでみせる。


(やっぱり悪女は、他人がいてこそ輝くものよね)


 婦人たちの質問攻めに対して、仲の良い夫婦であると匂わせるのは、実に悪女らしい。

 一方的に印象付けられて、ジェラートはさぞ不愉快だろう。宴終了と同時に、夫婦関係も終了かもしれない。


 そんな状況で、一人の令嬢が言いにくそうに「あの……」と声をかけてきた。


「王太子妃殿下は、もしかして……ですか?」


 さり気なくお腹に手を当てた令嬢。その意味を察した婦人たちは、一斉にシャルロットへ注目した。


(この子ったら……、なんて大胆な質問を! 若さって怖いわ……)


 思い切り動揺したシャルロットだが、ここで怯んでは悪女失格。なんでもないことのように、微笑んでみせる。


「残念ながら。けれど、いずれは……ね?」


 さすがにジェラートの反応が気になって、夫の顔を見上げてみる。

 するとジェラートは、遠くを見つめながら「うむ……」と返事をした。


(ちょっ……、ジェラート様!?)


 これが本心だとは到底思えない。律義にも話を合わせてくれているのか。そもそも話を聞いていないのか。

 どちらにせよ、ジェラートが肯定したことにより、辺りは悲鳴で満ちあふれた。


 反王太子派の勢いを削げたらとは思ったが、これはやりすぎではないだろうか。

 これがきっかけで離婚を言い渡されたら、さすがに理不尽だ。

 シャルロットは目で抗議するも、いつもの如く、夫が自分を見てくれるはずがなかった。




「それでは、聖女様へご挨拶に伺う際に、また戻りますわね」


 なんとか婦人たちの輪から離れたシャルロットは、夫に向けてそう挨拶した。

 入場を終えたら速やかに別行動を取るのが、これまでの暗黙のルール。


 しかしジェラートは、シャルロットの手を握ったまま離してくれない。


(もしかしてこれは……、『これ以上、余計な真似はするな』という、けん制かしら……)


 ジェラートはそのまま、シャルロットの手を引いて歩き出した。

 先ほどは、最後にどでかい余計な真似をしたのはジェラートのほうではないか。本当に理不尽だ。


 お叱りでもあるのかと思いながら連れられていると、たどり着いたのはなぜか、ビュッフェテーブルだった。

 そこから、リンゴジュースのグラスを手に取ったジェラートは、無言でシャルロットに差し出す。


「あ……、ありがとうございます」


(ジェラート様は、私がお酒に弱いことを知っていたのね……)


 思わぬ夫の行動に驚いていると、続いてジェラートは皿を手に取り、そこへお菓子をのせていく。

 お菓子でてんこ盛りになったお皿を、シャルロットに渡したジェラートは「……では、後ほど」と言って、シャルロットの前から立ち去った。


 この宴のために他国から献上された、巨大虹色二枚貝の皿。その美しさを覆うほどこんもりと盛られた、見た目が白い(・・)お菓子たち。

 お菓子が好きなシャルロットでも、さすがにこれは食べきれない。


(嫌がらせ……返し?)


 今日の夫は、本当に変だ。





 王族の入場が終了し、最後に聖女マドレーヌが入場した際は、盛大な拍手につつまれた。


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