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11 夫の様子がおかしい5


 シャルロットが宮殿を出て以来、ジェラートの貴重な姿をこれでもかというほど目にしているフランだが、同性なので微塵も嬉しくない。

 この姿を王太子妃殿下が見たら、どれほど喜ぶか。シャルロットの気持ちも知っているフランとしては、残念であり、もどかしい。

 いっそのこと、二人の前でお互いの心情をぶちまけてやりたいくらいだ。


「充実した毎日のようで、なによりです。ところで、王太子妃殿下の侍女たちが、殿下の動向を気にしているようですが」

「まさか……、俺の気持ちがシャルに知られてしまったのか……?」


 夢から覚めて絶望しているような表情のジェラートに対して、フランはなだめるように微笑む。


「そうでは、なさそうですよ。殿下が騎士団を大胆に動かしておられるので、気になっているのでしょう」

「そうか。シャルも心配だが、ストーカーだと思われても困る。これからは少数精鋭に切り替えるとするか」

「賢明なご判断です。今の状況は不自然すぎましたね」


 ジェラートの上着を手に取ったフランは、それを広げてジェラートが立ち上がるのを待ち構えた。

 しかしジェラートは、会議の時刻が迫っているにも関わらず立ち上がろうとしない。どうしたのだろう?

 ジェラートは真剣な表情をフランに向けてきた。


「ところで会議の間、フランには重要な案件を任せたい」

「構いませんが、急用の案件でございますか?」

「あぁ。急用かつ、重要な案件で、お前にしか任せられない」


 そんなに重要な案件などあっただろうか。ジェラートが決裁すべき書類は事前に目を通しているし、今日は誰もジェラートに会いに来ていない。

 心当たりがないフランは、よほど極秘の案件だと察した。


「お任せくださいませ。……それで、案件とは?」

「今日はその……。シャルと一緒に寝る日だ」


 また乙女の顔に戻る主を見て、フランの緊張は一気に崩れ去る。


「そうでございますね。今夜は、良いお時間を過ごせるのでは?」

「それが問題だ。何か対策を考えてくれ」

「対策……、必要ですか?」

「当たり前だろう! 今朝は俺から『おはよう』と言ったんだ。『おやすみ』も言わなければ、不自然ではないか」


 よくわからない理論を持ちだすジェラートに対して、フランの頭に浮かぶのは、やはり『めんどくさい』。

 しかし積極性を見せる主は、応援したいとも思う。


「承知いたしました。王太子妃殿下のお部屋へ入ってから『おやすみ』の挨拶をするまでの、脚本を書けば良いのですね」

「うむ。頼んだぞ、フラン」

「お任せください。僕はこう見えても、物語を書くのが得意なんです」




 今日は夫婦で寝室をともにする日。シャルロットは伯爵家へは帰らずに、宮殿の自室に留まっていた。


 晩餐後、早めに湯浴みを終えて寝間着に着替える。ジェラートがいつ部屋を訪れても良いように準備だけは怠らないが、夫がシャルロットの元へと来るのは、決まって日付も変わりそうな時刻。

 夜のひと時を共に過ごそうなどという考えは、彼には微塵もないらしい。


 今日も、どうせ遅い時間に来るのだろうと思ったシャルロットは、本棚から隣国の歴史書を手に取った。

 王太子妃となり、いずれは王妃となる身のシャルロットには、外交面で夫を支えるという責務がある。

 夫とは冷えきった関係だが、王太子妃としての仕事にはそれなりにやりがいを感じていた。


 異国の文化を知り、交流を深めることは興味深いし、なにより国に貢献できる。シャルロットと隣国の王妃とのお茶会では、互いの特産品を合わせて新たな工芸品が生まれたことがあり。他国を訪問した際には、シャルロットがその国の美術品に詳しかったため、感銘を受けたその国の王が特別に我が国との取引を許可してくれたこともあった。


 他国を知ることは、シャルロットにとって大きな手札となっていたが、歴史書のページをめくりながらシャルロットは小さく自嘲した。

 本気で離婚をしたいと思っているのに、今さら勉強などしても意味がない。

 それよりも今は、今後の作戦を考えるべきだろう。


 昨日までは、小説のストーリーが始まるのが一年後なので、それまでに離婚する方法を考えればよいと呑気に考えていた。

 けれど昼間にマドレーヌと話したことで、少し焦る気持ちも出てきた。

 マドレーヌは優しい言葉をかけてくれたが、やはり彼女の現状を考えると悠長に構えてはいられない。


(最も楽な方法は、王太子妃として問題があると見せることだけれど……)


 ジェラートがシャルロットを離さない理由は、王太子妃として役立っているからだと思われる。

 ジェラートには、王太子妃という存在が必要不可欠。卒なくその役目を果たせるシャルロットを、簡単には手放したくないのだろう。

 それを崩すには、王太子妃として無能にみせることが最も有効だが、シャルロットはそれを実行したくはない。


 夫には愛されないが、王宮に仕える者たちとは信頼関係がある。いくら離婚して王宮を去る身だとしても、その信頼関係を裏切るようなことはしたくない。


 それに、他人も巻き込んでの計画には危険もともなう。小説のストーリーが始まる前だとしても、反王太子派に目をつけられてしまったら利用されるかもしれないのだから。

 なるべく夫婦だけで完結できるような、作戦が望ましいが。


「どうしたら、ジェラート様は離婚してくださるのかしら……」


 そう呟いた時だった――、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


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