挑戦 朝昼兼用惣菜パン
、、、、首が痛い。
、、、、背中も痛い。
、、、何かもう全身痛いわ、、、。
まーた変な体勢で寝ちゃったかな、、、。
まだまだ眠い、、でももう起きないと、、
凛の幼稚園の支度して、、蓮のおむつ変えて、、朝ご飯何かあったっけ、、?、、昨日炊飯器セットしてなかった気がする、、、。
「お米炊いてないっ!!!」
ガバッと飛び起きた私は周りを見渡しその場に静かに座り込んだ。、、、そうだ、、ここパパの会社だったんだ、、、。恥ずかしい言葉で皆を起こさなくて良かった、、、、。何だよお米って!!!分かるけど!!!
皆まだ床に寝っ転がったまま動かない。
あの後朝の5時過ぎまで話し合ってたからなぁ、、、、。
凛と蓮も、なんだかんだで寝たのが1時ごろだったし。
見るとソファーで凛と蓮と静江さんがまだスヤスヤと眠っている。
はぁー、寝顔可愛すぎる。わたしの天使ちゃん達、寝顔マジで可愛すぎる。
横を見ればパパが床で寝ている。
はぁー、寝顔カッコいい。わたしの旦那、寝顔カッコ良くない?しゅてき、、、しゅき、、。
時計を見るともう午前10時半を回っていた。
5時間くらい休めたかな。
はっきりいって身体中痛いし、筋肉痛バキバキだし。
もう動きたくない。マジで。
「ステータスオープン」
HP 10
MP 2
寝て身体を休めてHPは満タンに戻ったけど、、、MPが回復してない、、、マジかぁ、、、。少しでも回復してくれれば、と思っていたのに。これでマザーテレサはあと2時間ぐらいしか使えないと言うことになる。
使えなくなれば、危険は増すばかりだ、、。
特に戦えない子供達が、、、。
なんとかしてMPを回復させないと、、。
「ううん、あうん、、、あああ。」
蓮がもぞもぞと動き起きだした。私は蓮のところに移動するとよしよしと抱っこをした。
蓮は私の顔を見ると、にぱぁと笑いほっぺたをスリスリしてくる。
ああああああああ!今日もウチの子が!!可愛すぎるー!!!!!!!!!ずっとスリスリしていられる!無限に!!!!
と、オムツがパンパンだ!急いで新しいオムツに履き替えさせて服を着替えさせる。
私がゴソゴソしていたせいか、凛や静江さん、パパ達が起きだした。
「マーマ、、起きたぁ。」
「ごめんね、凛起こしちゃったかな?」
「あら、嫌だ私ソファーで寝ちゃったのね、ごめんなさい皆床なのに、、、。」
「おはようございます。静江さん、全然良いですよ!むしろ子供達の添い寝見てもらってありがとうございました。」
凛のお着替えをさせつつ、髪をといであげる。
パパ達は水道で順に顔を洗いはじめた。
「ママ、凛お腹空いた。」
凛がお腹をおさえてアピールする。
蓮もお腹が空いているみたいで私の足を引っ張り何かよこせと訴えているのでアイテムボックスを開いて中を確認する。
あらかじめポイント購入していた食べ物系はカップラーメンばかりで昨日パパ達にほとんどあげてしまった。
残っているのは非常食用のカンパンや缶詰ばかり。
私はポイント購入ボタンをタップすると食料品一覧を開いた。えーと、、あ、この辺なら凛と蓮でも食べれるね。
「凛、甘いパンとしょっぱい系のパン、どっちが良い?」
「しょっぱい系ー!」
「了解。」
私は食料品一覧から凛用にウインナーパンを、蓮君用にほんのり甘いスティックパンを選んでタップ。ちなみにお値段は2つで2ポイント。
ポンっと、画面から出てきた袋に入っているパンを凛と蓮に渡す。2人とも嬉しそうに食べ始める。
「静江さんは、何にします?」
「大変な目にあっているけれど、こうゆうのはすごい便利ねぇ。私はじゃあ、アップルパンをお願いしようかしら?」
私はポイントでアップルパンを購入してそれを静江さんに渡した。
「パパ達はどうする?」
食料品一覧画面を指差し、皆んなにどれが良いか尋ねる。
「昨日のカップラーメンに続いて、今日ももらうなんて申し訳ないから大丈夫ですよ。自分のポイントで買いますから。」
「そうだな、少しならポイント持ってるし使えるよな。」
「いや、待て待て待て。」
自分の画面を開き、ポイント購入しようとしてる荻野さんと内田くんをパパがすっと止めた。
「残ってるポイントに余裕なんて無いんだぞ?今は葵から貰っておけよ。今後何にポイント使うか分からないんだし。」
「そうですよ!私ならまだ10000近くありますから!遠慮しないでください。」
いや、でも、、とまだモゴモゴ遠慮しているので私はさっさと画面上のパンをとりあえず何種類かタップして買った。
お会計どちらが、、とか、いえいえ私が、とか、、こうゆう時間が1番もったいないのよね、、。
「はい、もう買いましたんで!ここから好きなの各自選んでください。そんでもって今後ポイントたくさん取れたらその分同じだけ買って返してくれれば良いですから。」
そう言ってパンを差し出すと、皆頷き勢いよくパンを食べだした。パパも焼きそばパンを大きい口で頬張っている。
「皆食べ終わったらすぐに支度して出発しましょう!昨日話した通りに頑張りましょうね!」
みんなのポイントが10以下まで下がったのは生き残る為にスキルを購入したからだ。
マップスキル 10
検索スキル 10
通話スキル 10
探索スキル 10
これらを全員全て購入した。
その為、所持ポイント10と青ガチャ4回のおまけで取得した20ポイント、合計30ポイントしか無かった太田くんと山梨さんは、マップ、検索、通話を優先して購入。
所持ポイントは0になってしまった。
赤ガチャのおまけポイント100、元々の所持ポイント10の
パパ、内田くん、荻野さんは合計110。
この3人は全てのスキルを購入。
残りのポイントをほとんど自分の武器や装備、スキルに注ぎ込んだ。
そして9800まで残っていた私のポイントも
スキル マザーテレサの強化と他スキルの強化に使ったため7000をきってしまっている。ここに来る前は武器を優先的に強化した為、マザーテレサの強化は諦めたのだが、もしかしてポイントでスキル強化したらレベル上げたらMPが回復するんじゃないかと思い強化してみたのだ。
結果強化でレベルは上がったが、MP回復はしなかったけれど、、、、
しかもSSRスキルの為か強化には武器の時とは比べようの無いほどのポイントを要求された。
1番はじめの段階から1000っておかしくない!?
悩んだ末、2回のみ強化。私からマザーテレサはレベル3になった。これで残りのポイント約7800
私は他のスキルの強化にポイントを更に使用したのだ。
マップ、検索、探索、通話をMAXまで上げた。上限は10までだった。ポイントは7000以下にまで減ってしまっていた。
まだまだマザーテレサを強化しても良いのだろうけれどこの先ポイントはまだまだ何に使うか分からないので多めに残しておくことにした。
「ステータスオープン」
一ノ瀬葵 イチノセアオイ
女 33歳
レベル 5
HP 10
MP 2
特殊スキル SSR絶対安心空間レベル3
マップ レベル10
検索 レベル10
通話 レベル10
探索(特殊イベント探索可能) レベル10
武器 夢幻槌(フライパン返し)
レベル10 サブスキルA 無し
ポイント 6930
昨日、ゴブリンを倒したおかげでレベルが5も上がっていた。HPの上限量は増えてるのかどうなのかよく分からないけれど寝たら10まで回復した事はありがたかった。
マザーテレサをタップする。
現在のレベル3 使用人数10
使用可能範囲 6メートル
ポイントをほとんど持っていかれたけれど、強化して良かった。使用人数が倍になったのだ。
そして範囲も増えた。これならここにいるメンバーなら全員護れる。
みんなが通話スキルを取得したおかげでこのメンバー間なら離れていても電話みたいに画面を通して話せる事が可能になったし、検索スキルで場所も分かる。
特に私はレベルを各ノーマルスキルを全てMAXまで強化したからか、マップを見れば周辺どころかすでに世界地図から見れるようになった。目的地まで1番近いルートを表示してくれるようになったし。
探している人の場所ももっと詳しく分かるようになった。
なぜここまでポイントを使って強化をしたのかは今日この後の行動に全て関係する。
昨日みんなと話し合った事である。
ここからの脱出でも
このまま籠城するでもなく
出した答えは 攻略 であった。
脱出したとしても車に乗り切れない。
籠城をしたところで助けはきっと来ないだろう。
なら1番良いのは攻略ではないか?と考えたのだ。
SSRスキル+SR武器所持者が1人
R武器所持者1人
R装備所持者1人
Rスキル所持者1人
1パーティーにこれだけのメンバーが揃っていれば何とかなるんじゃないのか?と皆考えたのだ。
もちろん私は反対した。だってパーティーの主軸が私になる流れだったから、、
「無理無理無理です!ゴブリンキングと戦うなんて!単純に怖い!!ひたすら怖い!!筋肉痛で私全身ガクガクですよ?!無理ですってぇ!!」
「葵にはマザーテレサがあるだろう?ダメージを受けないなら大丈夫じゃないか!R所持の俺と内田と荻野でゴブリンキングを上手く誘導するからさ、そこをSR武器でトドメだけ刺してくれればいいんだって!」
「、、、でも、、。」
「特殊イベントのゴブリンキングさえ倒せば、イベント終了して、この建物の中にいる他の階のゴブリン達も消えるかもしれないんだ。」
「マザーテレサだってMP2であと2時間しか使えないんだよ?!誘導ってそれがうまく出来なかったら全滅するじゃん!クリアしたってゴブリン消える保証も無いでしょ?ぜんぶ予想なんだし。怖いっ!子供達だっているんだよ?」
「子供達はここに母さんと山梨、太田で守ってくれる。母さんがボウガンセット持ってるんだろ?それを山梨達に持たせれば万が一バリケードが破られてゴブリンが入ってきたとしても倒せるだろ。」
「子供達と離れるのが1番嫌なの!視界に入ってないだけで不安だよ!気になって闘いどころじゃないよ。」
「じゃあ子供達一緒なら行くんだな?」
「、、、、、、、、パパ、、怖いんだよぉ、、。」
「俺が、、葵、守るから。一緒に頑張ろう。」
守るから
俺が、葵、守るから。
この言葉を愛する旦那に言われて行けないって言えるひといる?この人結婚式当日しか、私に 愛してる って言ってくれなかった人のなんですよ、、。
普段もわたしからくっつきに行くばかりで、向こうからベタベタすることなんてまず無いんです。
そんな旦那が こんな少女漫画みたいなセリフを言ってくれた、、これはもう、私の負けだ。
怖いけど、すごい行きたくないけど、、
死ぬかもしれないけど、このままここで何もしなくて死ぬのなら、やれるだけやって子供達だけでもお家に帰らせてあげたい、、、。
「やりましょう!葵さん、俺達も生命かけて戦いますから!!」
「子供達から一瞬足りとも目を離しませんから!」
「頑張ります。、、よろしくお願いします。」
「、、、、分かりました。やれるだけやってみましょう
。」
パパとみんなに説得され、私も心を決めたのだった。
レベルマックスになったマップスキルでビル内の各階のゴブリンをチェック。昨日あんなに倒したにも関わらず、全ての階の通路にゴブリンがいる。
イベントクリアしない限り減らないのかもしれない、、、。
そしてゴブリンキングはどうやら12階の食堂、一番広いフロアにいるようだった。一際大きい赤い点がそこに記されていたからだ。
点線がそこまでの最短ルートを表示している。
ここが10階だからあと2回上がるだけ、、この部屋を出てからマザーテレサ発動して2時間以内にクリアをしなくてはならないのだ。
ベビーカーは一階に置いてきてしまったから、蓮は抱っこ紐で山梨さんが、凛はおんぶで太田くんが運んでくれることになった。私が昨日背負っていたリュックを静江さんに持ってもらう。
パパと私を先頭に
太田くん、蓮、静江さん、山梨さん、凛を真ん中にて
内田くんと荻野さんが後ろ。
ゴブリンが前から来ても後ろからきても子供達を守れるように大人で囲んだ。静江さんのボウガンセットは荻野さんがすぐに使えるように所持している。
バリケードをなるべく静かにどけ、ドアを開く。
すぐ近くにいたゴブリン2匹を私は巨大フライパン返しで払い倒した。
「っふっ!!!」
パァン!パァン!
と、昨日同様布団を思い切り叩くような音が鳴り、ゴブリン達は粉々に吹っ飛んだ。
レベルが5に上がっているせいなのか、それともこの武器の扱いに慣れたからなのか昨日よりも楽に扱える気がした。
筋肉痛が辛いのはしょうがないとして、、。
「SR武器やばぁ、、、。」
それを見たパパ達が唖然とする。
武器を見せた時にはさんざん フライパン返し!?!って騒いでたくせに、、、
「すごいっすね、形がフライパン返しじゃなかったらすごいカッコ良いんですけどね、、、。」
「なんでフライパン返しを選んだんですか、、、。」
「それは私もすごい思うけど、言わないで、、。」
選んでないし、勝手になっちゃったんだし泣
「さぁ、気を引き締めていくぞ。ゴブリンキングのところまで怪我無く行こう。マザーテレサは温存して、まだ発動しないでくれ。」
パパが先導し、階段までの通路を進む。
横通路から出てきたゴブリンに素早く反応するとパパは思いっきりゴブリンを蹴り上げ、顔面にパンチをくらわせた。
「ギッギギィッ!!!!」
ゴブリンは悲痛な声をあげるとそこに倒れ動かなくなった。
ピロンとパパから音が聞こえたのが分かる。
モンスターを討伐した時の効果音なのだとしたら、このゴブリンは今絶命したことになる。
「、、、半信半疑だったか本当に現実なんだな、、。」
「パパ、どお?」
「俺の武器でも行けそうだ。」
自分の両手にはめた黒いレザーグローブをわきわきと動かしながら確認する。これが一ノ瀬竜のR武器。
一ノ瀬竜 イチノセリュウ
男 37歳
レベル 1
HP 20
MP 10
能力 マップ レベル 1
検索 レベル 1
通話 レベル 1
探索 レベル1
武器 Rパワーグローブ レベル3
パパのHPは元から私より多い20だった。まぁ、どう考えても私はより体力ありそうだものな。
そしてR武器の強化はレベル1〜はポイント20だった。
ノーマルスキルのマップ類で40を使い残り70しか無かった為3回の強化に使用した。
名前の通りそのグローブを使用すると、使用者の腕力、攻撃力がアップすると言うものだった。
私の巨大フライパン返しの攻撃が中距離攻撃だとすると、パワーグローブは近距離攻撃に適したものである。
敵を粉々にするほどの攻撃力はまだ無いものの、骨を折り、内臓を潰すくらいの強さである。
「また出てきたよ!」
階段の上からゴブリンが飛び降りながらパパに刃物を振りかざそうとしている。
「大丈夫です!俺が!」
言うが早く私の横をすごい勢いで風の塊が、
いや内田君が走り抜けた。そしてパパの横も通ったと思ったらパパの体を掴みすぐに後ろに移動したのだ。
「はぁっ!」
私は目標を失い不思議そうにパパと内田君を見るゴブリンにすかさず巨大フライパン返しを振り抜いた。ゴブリンは何もわからないままその場で粉々になった。
「内田君、すごい!」
「助かった。内田、ありがとう。」
「攻撃は出来ないですけど、サポートなら役に立てそうです!」
そう言ってピースをする内田君の足には、このフロアに移動する前まで履かれていた黒の革靴の代わりに白いスニーカーが履かれていた。
内田祐介 ウチダユウスケ
男 25歳
レベル 1
HP 20
MP 10
能力 マップ レベル 1
検索 レベル 1
通話 レベル 1
探索 レベル1
武器 なし
装備 Rスピードシューズ レベル3
内田君のは武器ではなく装備だった。攻撃力はほとんど無いけど、風を纏うその白いスニーカーは使用者の移動速度を格段に上げてくれる。
「この調子で進みましょう!」
「うん!あ、パパも内田君も、とゆうか皆ステータス画面の設定から経験値獲得とレベルアップの効果音消してくれる?意外にそれうるさいよ。」
「たしかに!ゲームとかだとこれ良いけど、実際に鳴ると気が散るな。わかった。」
皆んなでステータス画面を確認、経験値獲得音とレベルアップ音をオフにした。
「パパー!ママー!ウッチー!頑張れー!」
太田くんと、いつの間にかおんぶから肩車になっていた凛が太田君の上から声援を贈る。
ちなみにウッチーとは内田君のあだ名である。凛は呼びやすい為その名で呼んでいるのだ。
蓮はまだよく分からないみたいな顔をして山梨さんに抱っこ紐で抱えられながらもぞもぞしていた。
階段を順調に上がり12階へ
食堂はこちら→
混雑時は時間がかかります。
ご了承ください。食券購入機は入り口右。
階段を上ってすぐに食堂の看板が出されている。イベント開始時はきっとお昼時で沢山の人がいたであろう12階フロアの食堂へと続く通路は所々に物が散乱していた。
誰かが落としたであろうお財布。
脱げて落ちたであろう片方だけのハイヒール
お昼を食べながら見直そうとしたであろう書類類がバラバラ床に落ちている。
そしてその床には明らかに引きづられた、引きづられて行ったかのような血の跡がべったりと付いている。
白いフロアに鮮やかな赤が目立ち、この先には決して進まない方が良い。と、警告をしているようだった。
人の気配はまるで無く、他のフロアにどうか無事逃げていてくれと願うばかりだ。
ゴクリとツバを飲み込み、進もうとするが、、
「!?!」
突然足がツルッと滑り盛大に転びそうになる。思いっきり尻餅をつくところを後ろにいたパパが咄嗟に支えてくれことなきを得た。
「、、びっくりした、、。ありがとう。」
「気をつけて、それ滑るんだ。」
言われて足元を見ると私は通路の血痕を踏んだいたところだった。
皆それに気付きなるべく血の跡がない所を慎重に歩く。
マップではこの奥の食堂の中、そこに大きな赤い点がゴブリンキングを表している。
「、、、ここからマザーテレサをもう発動した方が良いかな。」
「2時間、残量が2時間なら発動しておこう、言い換えればもうここのフロアはボスのいるフロアだから何があるか分からない。」
「分かった!皆、私から6メートル以内でくっついて移動してね!」
「了解です!」
「分かりました!」
マザーテレサを発動させ意を決して食堂に入る。
途端に両側からゴブリンが刃物を構えて私を刺し殺そうと襲いかかる。
「きゃああああああっ!!!」
あまりの突然の奇襲に私はフライパン返しを振り回す事も忘れて叫んでしまった。
ガチンッ!!!!
ガチガチガチ!!!!
ゴブリンたちはマザーテレサの影響で私の手前で通り抜けることの出来ない透明な光の壁を刃物でガチガチと削ろうとしている。
「はぁ、、はぁ、、た、助かった。」
ドキドキと心臓が高なっている。一瞬にして大量の冷や汗をかいた。マザーテレサを発動していなかったら私は今死んでいたのだ。
バンッ!
ガンッ!
マザーテレサの中からパパがパワーグローブでゴブリン達を殴り飛ばす。
「大丈夫か、葵。落ち着け。」
マザーテレサが発動している、、大丈夫、、落ち着け落ち着け、この中にさえいれば私達は大丈夫、、。
私は自分を落ち着かせる為に深呼吸をした。
「、、よし、、大丈夫、、。」
落ち着いて周りを見る、、が、、見なきゃよかったとすぐに後悔した。食堂の中はまるで地獄のようになっていた。
普段会社の人達が楽しく食事をしているであろう机や椅子は今やゴブリン達に殺された人達の血の跡がベッタリと付いていた。
無惨にも刃物でズタズタに切り引かれた衣類のみが部屋に散乱しており、作り物の映画のセットのようにも感じる。
、、、、そうだったらどんなに良いか!
部屋に立ち込める血の匂いと視界から込み上げてくる強烈な嫌悪感、吐き気を必死で耐える。
唯一の救いは死体自体が無かった事だ。
子供達にはとてもじゃないけれど見せたくない。血の跡だけでも心配でハラハラしてしまう。
奥にいたゴブリン達は自分達の行動を止めると、新しく食堂に入ってきた新鮮な食材の私達に目を移す。
その数はざっと見ても30は超える。
その中で1番奥、他のゴブリンの2倍は体格が大きいやつがいる。あれがきっとゴブリンキング。
他のゴブリン達とは違い刃物では無く杖を所持にており、ゆったりと偉そうに他のゴブリン達をかしづかせているように見える。
「、、あれさえ倒せれば、、、。」
一歩前に出ようとした瞬間、部屋の中にいた30を越える数のゴブリン達が一斉にこちらに飛びかかってきた。
「!?」
「うおおっ?!」
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!
大きな音をたてて、次々と私達めがけて飛び交うゴブリン達はマザーテレサの範囲そのまま左右上へと張り付いた。
攻撃が通らないが刃物をガリガリと私達目掛けて執拗に振り回す。
まるで透明ケースの中にいる私達はその恐ろしさから
一瞬膠着し動けなくなる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「怖いよおおおおっ!!!」
異常を感じ取った凛と蓮が火がついたように泣き叫ぶ。
それに私は はっと反応して握りしめた巨大フライパン返しをマザーテレサに張り付いているゴブリン達めがけて振り抜いた。
パンッ!パンっ!パァーンっ!
無我夢中で目の前にいるゴブリン達をはたき倒す。
一刻も早く子供達の目の前からこいつらを消し去りたい。その一心だった。
パパも中からゴブリン目掛けてパンチや蹴りを喰らわせ、少しでも子供達の近くからゴブリン達を遠ざけようと必死だ。
「ひぃぃいっ!」
静江さんは子供達を連れた太田君、山梨さんと共に少しでもゴブリン達から離れようとマザーテレサの真ん中の位置に身を縮めて座り込んでいる。
攻撃力の無い内田君や荻野さんもひたすら蹴りをゴブリンに繰り出した。
「はぁっ!!!」
私はフライパン返しを右から左へ、下から上へ、ゴブリン目掛けて振り抜き、叩きのめし、吹き飛ばす。
一体ずつ確実に。
30はいたであろうゴブリンは次第に数を減らし、ついにはゴブリンキングのみとなった。
「はぁ、、はぁ、、はぁ、、、はぁ、、、。」
私とパパ、内田くんと荻野さんが肩で息をする。
皆冷や汗で背中がべっとりとはりついている。
「でも、、これであんたが最後よ。」
1番奥で仲間のゴブリンがやられるのをただ見ていただけのゴブリンキングにそう言うと、ゴブリンキングはこちらを見下ろし自分の持っている杖を高々と上げる。
「ギギギィーッ!!!」
とても汚い濁ったような声を出すとその杖の先に付いている水晶のようなものが光り出した。
「、、?何?」
特に変わった所は見られないが、、
「!葵!マップ!」
「!」
パパに言われてマップを確認すると小さい赤い点がこの食堂に一気に集まり出している。
「仲間を呼んだってこと!?」
先程の光は他のフロアにいたゴブリン達をここまで呼びつけるものだったのだ。
ゴブリン達は倒せるが時間な問題がある。このままずっと大量のゴブリン達に足止めされゴブリンキングを倒せなければ時間が切れてマザーテレサの発動が終わる。
そうしたら、、
子供達を見てそれを想像したしただけで冷や汗が止まらなくなる。
「早くあいつを倒さないと!!」
「他のゴブリン達がここに来る前に早く!」
パパと内田君と私は一瞬にして目で意思を確認。
私はマザーテレサの発動中心地を子供達がいるところに意識して固定。
自分はマザーテレサの効果範囲から飛び出した。
それにパパと内田君も続いた。
「ママァーーッ!!!」
「大丈夫!すぐ戻るから!!」
後ろから凛の鳴き声が聞こえるけれど今は振り向けない。
目の前のゴブリンキングに向けて全走力で走る。
ゴブリンキングは私の方に杖を向けると水晶がまた光った。
途端、目の前にサッカーボールくらいの火の玉が私は目掛けて飛んできたのだ。早くてとてもじゃないけど、避けられない。
「!」
「葵さんっ!!」
一瞬だった。
内田君は咄嗟に近くにあった椅子を持ち上げるとスピードシューズで火の玉の右に回り込みそれに椅子を全力でぶつけたいた。
バァンっ!
大きな音と共に私の目の前に焼け焦げた椅子がブスブスと音を立てて煙をあげている。
「ああぁっ!ぐぅっ!!」
「内田!?」
「内田君!!」
椅子を火の玉にぶつけた時に自分の腕も突っ込んでしまったのであろう。内田君は右腕を抑えながらその場に転がった。右腕のシャツは燃えて無くなりその下の皮膚も赤く腫れ上がって所々爛れてしまっている。
「葵っ!!」
「!!」
よそ見をしている余裕なんて無かったのに!
内田君を見たその一瞬の内にゴブリンキングが再度私に杖を向けてきていた。
左側から回り込んでいたパパがゴブリンキングの杖に掴みかなる杖の先を天井へと向ける。
「ギギギィッ!」
「ぐううぅっ!!!」
ゴブリンキングがどんなに杖を取り戻そうとしても、パワーグローブの力で抑え付けられた腕はびくともしなかった。
怒りをあらわにしたゴブリンキングが杖を押さえ込んでいるパパの左肩に牙を立て噛み付いた。
パパは痛さに顔を歪め、歯を噛み砕くような声を喉から絞るる。みるみる内に白いシャツは赤い血で染まっていく。杖を抑える手を離さないパパにゴブリンキングの牙は更に深く食い込もうとしていた。
「ああああああああああっ!!!!」
無我夢中に走り込みゴブリンキングの真正面から思いっきり巨大フライパン返しを上から下へ叩き込んだ。
パァァァァァァァンッ!!!!!
一際大きな音がフロア中に響き渡る。ゴブリンキングは最後に声を出す事も出来ずに血走った目を私に向けながら崩れ落ちた。
「ああああああっ!!!」
そこに更に何度も何度もフライパン返しを叩きつける。
原型がなくなるまで叩き込んだ。
「葵!もう大丈夫だから!」
「、、、はぁ、はぁ、、はぁ、、。」
パパの声でようやく動きを止めた私は息が切れ、フライパン返しを握っていた両手は力を込めすぎていたためジンジンと痺れていた。
ピロンと右手からウインドゥ画面が勝手に現れる。
特殊イベントクリア
ゴブリンキングを討伐した為、この
エリアでの特殊イベントがクリアと
なります。建物内のモンスターは
いなくなります。討伐参加メンバー
には順にポイントが加算されます。
※イベント期間中の為ポイントは
3倍となります。
文字の表記を確認し、マップから建物内のモンスターの赤い点が消えたのを確認した私は目の前が急にチカチカし出しその場にへたり込んだ。良かった、、間に合った、、。あとほんの少しでまた大量のゴブリン達に囲まれるところだった、、、、。
マザーテレサの発動が切れたのを感じる。
きっと時間切れでMPが0になったのだ。
「一ノ瀬さん!大丈夫ですか!」
「内田!一ノ瀬!葵さん!!」
「水で傷口を洗わないと!!」
「ママぁぁー!!!」
食堂入り口で固まっていた皆んなが私達に駆け寄って来た。
「パパ、、内田君、、。」
ふらふらする頭をなんとかして動こうとするも、その場に倒れそうになる。
静江さんが私を支えてくれ、そこに凛と蓮が抱きついてくる。
「ママァァァっ!!!」
「っま!っま!」
「、、、2人とも怖い思いさせてごめんね、、もう大丈夫だからね、、、。」
2人とも涙で顔がぐしゃぐしゃだ。私は2人をぎゅっと抱きしめ少しでも安心させようとした。
「ああああっ!!沁みる!いてえぇっ!」
「、、ぐぅっ!!」
山梨さんと太田君、荻野さんの3人に囲まれてパパと内田君が傷の手当てをされていた。
内田君の火傷はひどく右腕の肘から下全体が赤く爛れて皮膚が無くなってしまっている。ペットボトルの水をかけられるあまりの痛さに叫ぶ。
パパも真っ赤になってしまったシャツを脱がされると左肩に大型犬に噛まれたような噛み跡がくっきりと残ってしまっている。牙の跡が皮膚にぽっかりと穴を残してそこから血がどくどくと滲み出ていた。
2人とも緊急応急処置セットを出し消毒液をかけて包帯を巻く。それしか出来ない。
「、、パパ、、内田くん、、、。大丈夫だよね、、、?死んだりなんかしないよね、、、?」
子供達を抱えて私は半泣きだった。
MPは0でマザーテレサは発動出来ないし、パパと内田君は大怪我をしてしまって大丈夫なのかも分からない、、、。
「殺すな殺すな。大丈夫だから一旦落ち着こう!モンスターもいなくなったんならここはとりあえず安全だろう、、。」
「こっちも死ぬ程痛いですけど、生きてます!」
包帯を巻かれて少し落ち着いた2人が座ったまま壁に体を預ける。2人ともシャツはボロボロ。
痛みもかなりあるらしく辛そうだ、、。
「、、鎮痛剤、、とか?抗生物質とか、、?とにかく薬とか無いと、、、。」
「近くに病院があるけど、、こんな状況じゃ病院内もどうなってるか分からないし、、行けないよな、、。」
「でもずっとここにいても、、、。」
皆で必死に意見を出し合うが全部行き止まりになる。
はぁ、はぁと浅く息をする2人が何より心配だ。
凛と蓮も私達にしがみついたまま、、静江さんも疲れ切ってパパの横に座り込んでしまっている。
私は何か使えるものが無いかウインドゥ画面を出す。
一ノ瀬葵 イチノセアオイ
女 33歳
レベル 10
HP 10
MP 2
特殊スキル SSR絶対安心空間レベル3
マップ レベル10
検索 レベル10
通話 レベル10
探索(特殊イベント探索可能) レベル10
武器 夢幻槌(フライパン返し)
レベル10 サブスキルA 無し
ポイント 36930
、、、、、、。
?!、、36930!!?
「皆!ポイントってどうなってます!?」
「え?」
私の声に反応して皆が慌ててウインドゥ画面を出す。
「、、、増えてる、、俺は24000。」
「俺は15000です。」
「俺も15000。」
パパと内田君、荻野さんのポイントも増えている。
「俺は0のままですね。」
「俺もです。」
山梨さんと太田君は増えていない。
皆んなの画面を覗き込みながら荻野さんが考えながら言葉を出す。
「、、きっとボス討伐イベント内でゴブリン達やゴブリンキングに対してのダメージ数によってランキングされて獲得ポイントに差が出たんじゃないか?きっと一位の葵ちゃんが10000、3倍特典で30000なんだ。」
「あ、そうか3倍イベント期間中なのか、それで30000。」
「それで2位が竜で8000.3倍で24000。内田と俺は多分マザーテレサの外のゴブリン達を蹴ったりしてたからそれで3位に同率に入って5000、3倍で15000。」
「太田君、山梨さん、静江さんは子供達を守ってくれていたからゴブリン達に接してない、、。だから0?」
「今のところそう思う。ゲームとかでも同じギルドとかチームを組んでる人でもダメージ0とかだと褒賞とか出ないから、、、。」
ゲームに詳しい荻野さんに考えに皆が頷く。
「ポイントが増えたのは嬉しいですけど、ここからどうしたらいいんでしょう、、。マザーテレサのレベルをポイントで上げてもMPは増えないですし、、ポイントで鎮痛剤とかも買う一覧に出てこないです、、、。」
「、、、荻野、お前のスキルで何とかならないか、、?」
ふとパパが思い付いたように荻野さんを見る。
荻野さんのRスキルは叡智の書。レベル3まで強化してあるがスキルを使用して出てきたのは古ぼけた洋書みたいな本一冊。渋い青紫色で表紙には綺麗な白い梟が描かれている。
本を開くとこのゲーム世界の説明が載っている。
載ってはいるのだが、レベルの関係か全然説明が足りてない状態なのだ。
例えば ステータス画面
使用者の名前、年齢、職業、スキル
武器などが記される。
などや、 スキル
使用者が使用出来る特殊な能力
N、R、SR、SSRと分かれている。
スキル、武器、装備がありそれぞれ
使用可能である。
など、もう知っているというか知りたいのはそのもっと先の細かな事なんだが、、と言った感じなのだ。
今回唯一役に立った情報が
マップ上の丸い赤い点はモンスター。
点の大きさにより、強さの強弱が
分かる。大きいものほどボスである
確率が高い。
である。 あとは全然、むしろ本のまだほとんどが白紙に近いのだ。
「レベルが上がればもっと有益な情報が得られるかもしれないってことか、、、。俺のポイントは15000なら強化してMAXにまであげられるかもしれない、やってみよう。」
荻野さんは自分のスターテス画面からスキルをタップする。
荻野純 オギノジュン
男 37歳
レベル 3
HP 20
MP 5
能力 マップ レベル 1
検索 レベル 1
通話 レベル 1
探索 レベル1
武器 なし
装備 なし
スキル R叡智の書 レベル3
ポイント 15000
R叡智の書を強化しますか?
必要ポイント数 40
はい いいえ
「今朝やったら強化の時は必要ポイント数20だったと思ったんだけど、、。」
「あ、それ上がりました?私の時も強化する度に必要ポイント数、えぐいぐらいに上がりましたよ。」
「なるほど、、。とりあえずポイントはたくさんあるからあげてみるよ。」
そう言うと荻野さんはポイントをどんどん使い叡智の書をレベルMAXまで上げた。更に
R 叡智の書のレベルがMAXになりました。
SRに進化出来ますが進化しますか?
必要ポイント数 1000
「1000!??」
「SSRのマザーテレサの一回の強化分のポイントを使う進化、SRまであがるんですか!?」
「進化もあるなんてね、とりあえずここは出し惜しみしてる場合じゃないから進化されるね。」
荻野さんは躊躇なくポイントをつっこみR叡智の書を進化させ、更にそこからSR叡智の書のレベルもMAXにまであげた。15000あったポイントは3480にまで下がった。
「ここまでやったんだ。頼むぞ、、、。」
進化した叡智の書をタップすると急に本の表紙の白い梟の絵が盛り上がり本から離れた。
そう、本から出てきたのだ。
白い翼を大きく広げて宙にバサリと優雅に舞い降りた。
白い体に青い目をした神秘的な梟。
「ホウッ、我を具現化出来るものは久しぶりだな、、。主人よ、名は何と申す?」
「しゃ、、喋った、、。俺は荻野純、、。」
「我が主人はオギノと申すのだな。はじめまして。私は叡智の書の具現梟、アベルという。私が必要であるならば何なりと言うが良い。」
梟は首をくるくると回している。
本当に喋ってる、、、。嘘でしょう、、?半から出てくるなんてまるで魔法みたい、、。
荻野さんは梟をじっと見ると自分の腕に止まらせた。
「アベルが俺のスキルなんだな?」
「ホウ。そうだオギノ、私は叡智の書を具現化した梟でありスキルそのもの。」
「アベルは何が出来るんだ?」
「ホウ。私はオギノが知りたいと思う事を教える事が可能だ。」
「じゃあこのゲームについて詳しく知りたいが可能か?」
「ホウ。私は全智では無く叡智。私が分かる事からなら何でも答える事が可能だ。」
荻野さんは私達を見回し、最後に私と目が合うとこくりと頷く。
「じゃあ教えてくれアベル。俺の仲間達が怪我をして困っている。手当てはしたがそれが最善かも分からない。ここから移動したいが安全に移動出来る方法はないか?安全な場所も知りたいんだ。」
「ホウ。オギノはここから安全に安全な場所に移動をしたい、更に怪我人の怪我を治す事を希望しているのだな。」
「そうだ。」
「ホウ。怪我を治せる可能性が有り、更に安全なポイントを教える事は可能である。ただそこに安全にいける手段をオギノは持っていない。」
「!私の!私の車があります。それで移動出来ます!」
「ホウ。私の主人はオギノだ。その他の人間の意見は聞かん。」
梟は私を一瞥するとぷいっと反対方向へ首を向けてしまった。
「アベル。葵ちゃんは俺の仲間の1人だと思ってくれ。そんでもって俺が今生きてるのも葵ちゃんと今怪我してるこの2人のおかげなんだ。だからここにいるメンバーの意見は聞いてくれないか。」
「、、ホウ。承知した。」
梟は仕方が無いとでも言うように身体を揺らすとくるりと私の方に顔を戻した。
「ホウ。移動出来る車があるのだな。ではそれに乗って移動出来るのならここから北の方角のセーブポイントに向かうが良い。」
「セーブ、、ポイント、、?」
全員が一斉にマップ画面を開き北の方角を調べると、ちょうど栄えている街中のど真ん中辺りに今まで見た事ないマークを発見した。
「この位置って確かPARCAだよね、デパートの。Sってマークが付いてる。saveのSってこと?」
「ここならここから40分くらいで着くよな。普通なら、だけど、、。」
「ここに行けば助かるのか?安全なのか?」
「ホウ。そこに行けば怪我人が助かる可能性が有る。安全な時間も確保出来る。」
アベルの話を聞いて皆で意見を出し合う。この建物内にはいまモンスターがいない状態だからまだここにいた方が良いという意見。パパと内田君の怪我を一刻も早くなんとかしたいからアベルの言う通りセーブポイントに向かった方が良いという意見。マザーテレサが発動出来ない今、車での移動でも危険ではないかと言う意見。バラバラの意見の中から少しでも最善の道は無いかと模索する。
「、、、葵の車は5人乗りだろ?」
「、、チャイルドシート2つを捨てていく。そしたら後ろを荷物置き用に座席を倒せるからそこに無理でも皆乗り込んで行くしかない。」
2台で移動できるならそうしたいけど移動用燃料がないから新しく別の車を使う事が出来ない。
でもここに半数が残るとしてもどうする?
今はモンスターがいないけれど、時間が経てば外から入ってくる可能性もある。
だったら多少の無理をしてでも皆で移動したほうが良いと思った。幸いSR武器のフライパン返しを使える私はまだ動けるのだから。
本当に本当にぎゅうぎゅうに行けばなんとか乗れるはず、、。誰かに運転してもらって私が助手席でモンスターが来てもすぐに武器を振えるようにすればなんとか行けるんじゃないか、、?
「ここにずっといても竜と内田の怪我の具合も心配だ、俺は動けるなら動こうと思う。」
荻野さんがパパの肩の包帯に滲んだ血を見て言った。
「、、治せるなら直して欲しいとは思う。強がってるけどこれマジクソ痛いんだわ、、、。」
「自分もっす。これもバチクソ痛いです。常に痛くて泣きそうです。」
パパと内田君が自分の怪我を見て呟く。
やっぱり痩せ我慢していたようで、そしてもう本音を隠せないほど余裕が無さそうだ。
「、、私もパパと内田君を治せるなら動いても良いと思います。でも、その為には皆の手がどうしても必要です。私がモンスターを相手している時に子供達や静江さんを守ってくれる人が、怪我をしているパパと内田君を診てくれる人が。、、太田君、山梨さん、どうか一緒に来てくれませんか
、、、。お願いします。私頑張ってモンスター倒しますから!」
私は太田君と山梨さんを見て頭を下げた。このメンバーでもう動けるのは私と荻野さん、そしてこの2人しかいないのだ。太田君と山梨さんはお互いに目配せをしてから頷きこちらに向き直った。
「、、行きましょう!自分には結局何も出来なかったけれど
子供達を見るくらいならまだまだ出来ます。、、むしろ戦闘に参加出来なくてすいません。」
「俺も行きます。少しでも役に立てるなら、、、。」
「ありがとうございます!」
子供達2人は泣き疲れて私に抱きついたまま寝てしまったようだった。そっと起こさないように抱きしめる。
荻野さんは肩にとまっているアベルに顎をくいっと寄せてつついた。
「聞いてたか?アベル。セーブポイントに行く事にしたよ。」
梟は全員の顔を見るようにくるりと首を一周されるとホウホウと鳴いた。
「ホウ。では急ぐが良い。暗くなると夜目がきくモンスターが出てくるからな。」
アベルの言葉に慌てて時計を見ると時刻は夕方の4時を指していた。荻野さんはパパに肩を貸して立ち上がらせる。
「急ごう。」
私たちは移動することになった。
目指すはセーブポイント、街中のPARCAだ。