0.エピローグ 〜 1.異世界生活1日目 (A-part)
いらっしゃいませ!!
ゆっくりしていってね!!
――今から200年前。
人間と魔王の間に戦争が勃発した。人間側が絶望的不利な状況から突如として勇者アイゼルが現れ、魔王エイムを討ち滅ぼし人間側は勝利した。
以降現在まで平和な世界が続いている。――
伝記にはこう綴られていた。
言い伝えや書物なんてものは、勝者側の勝手な都合を押し付けているだけだ。
日本史で調べた『大本営発表』と同じような珍妙さを感じ、信憑性に欠ける。
真実は見た者、実体験した者にしかわからない。
……いや、体験した者の見え方によっては事実が捻じ曲がってしまうこともあるかもしれない。
一部を全部と捉えて誇張したのかもしれない。
200年という長い長い歳月を完全に立証することは現代社会に生きる人間の寿命では不可能だろう。
異世界を除けば。
―――
【異世界生活1日目】
朝だ。
目が覚めた。
今日も普通に平凡な朝だ。
布団の中から出たくない。もう少しだけ自分の体温を感じていたい。
僕、こと神戸泰水は、新しく始まった生活にも慣れてくる頃に訪れる最初の試練に立ち向かっていた。
五月病の克服だ。
あぁ……
今日も『あと五分』の誘惑に負けてしまう……
眩しい朝日……
ふかふかの枕……
お布団のいい香り……
見知らぬ……天井……
……ん?
僕は漸く自分が今居る寝床が自宅ではない事を認識した。
一気に目が覚めた。僕は顔に冷や水を浴びたような衝撃で飛び起きた。
ここは一体どこだ? 拉致された? 監禁に遭った? 身代金? 僕は海に沈められる?
脳みそが少ないパニック頭はくだらない妄想ばかりなので、取り敢えず僕は外に出ようと部屋の出口へ向かった。
出口の扉の近くには姿見があった。
僕は何気なくそちらを向くと、
「誰だコイツ!!」
思わず大声で叫んでしまった。
銀髪のサラサラヘアーに赤い瞳。鼻筋は日本人離れした高い鼻ながら、体格や顔つきは歳相応の16歳くらいだ。
いやいや僕は平凡のっぺり日本人顔だったはず。一晩で人間こんなに変わるわけないだろう。
すくに思い当たった結論は一つ。
僕は、転生した!?