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秋葉原ヲタク白書95 ヲタクの黙示録

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒はメイドカフェの美しきメイド長。


この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナのためのラノベ第95話です。


今回は、ベトナム戦争の再現イベント中に"戦死者"が発生、当時発行されてた芸術的な出来の偽札の存在が浮上します。


期せずしてマンション放火により偽札が焼失した事を知ったコンビは、価値下落を恐れたコレクターに迫りますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 世にも奇妙な戦死


朝焼けを背にヘリが突撃する!


最大音量でワルキューレを鳴らしつつ突っ込んだ僕達のヘリはロケット弾で撃墜される。

炎上するヘリから飛び降りた僕は背中の火を消そうと地面を転がる内に射殺されKIA(せんし)


薄く目を開けると、目の前に同じくKIA扱いの先任軍曹が血塗れになって転がっている。


全滅だwとの設定からスタートしたのだが…


「おいおい!何でココで携帯が鳴るかな」

「マジかょ?日陰坂46?」

「コレは史実の忠実な再現ナンだぞ!」


散乱した死体から次々と呪詛の声が上がる。


「ベトナム戦争以降のモノは使用禁止だ」

「君だって腕にスマートバンドしてるぞ?」

「運動量のチェックを医師に言われてルンだ。何より妻がリアルタイムで心拍数をチェックしてる。そもそもコレは音は出ない」


僕も、目の前の血塗れの死体に声をかける。


「おいジョジ。その胸の怪我どうやった?すごいな。血糊カプセルか?…大変だ!ジョジが死んでる!」

「あぁ俺達もだ。全員KIAだ。黙って死んでろ」

「いや。ホントに死んでるんだよ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ベトナム戦争の再現イベント中にモノホンの銃が使われたようだ」

「被害者はジョジ。大手メイド居酒屋チェーンのオーナー」

「そして、第1騎兵師団の先任軍曹だょ」


110番通報を受け万世橋(アキバポリス)が飛んで来る。

早朝のパーツ通りがパトカーで埋まる。


コレが殺人現場と逝う奴か?

そして、僕が最初の発見者?


実は犯人でした率、かなり高いょw


「モデルガン屋主催のベトナム戦争再現イベント中の出来事です。時代設定は"NAM(ベトナム)"後期の1969年。既にアメリカ軍に厭戦気分が漂う中、僕達はヘリで敵の前哨基地を空襲(エアボーン)し…」

「ストップ!テリィ、先はわかってる。以来ベトコンはジャングルに潜み、ゲリラ戦を始め、終わりが始まった」

「ベトナム人にとっては、ただの始まりだ。ジョジは、撃墜されたヘリに乗ってた先任軍曹の役で、僕達は数名で死んだフリをするハズが…ホントに死んでた。イベントが始まった直後のコトだ」


僕に質問して来る新橋鮫は、万世橋の敏腕刑事なんだが、僕は彼には色々と貸しがアルw


「明らかに胸に1発食らってるが、コレなら銃撃の目撃者も多いだろう。楽なヤマだ…ところで、エアボーンにしちゃヘリが見えないが」

「ヘリは妄想で補ってるw僕達が"死体"として路上に転がってイベントはスタートした。いきなりパーツ通りに大音量のワグナー(ワルキューレ)が流れたから、誰も銃撃に気づかなかった」

「テリィ、お前が絡むと、いつも楽勝なヤマがこの上なく厄介になるw10人以上が同じ兵隊の格好で武装し、全員から硝煙反応が出てる」


新橋鮫は、早くもウンザリ顔だ。

仕方なく少し手伝うコトにスル。


「イベントがディエンビエンフー再現ショーでなくて何より。さぁ他の目撃者にも話を聞こう」


僕が手招きスルと、ソレまで遠巻きにしてた"戦友"が1個小隊、待ってましたと駈寄るw


「ふと見たら倒れてたンだ!」

「戦闘中、背後のビルの窓に人影があった。そこから狙撃してコッソリ逃げたんじゃないか?」

「憶測か?見たのか?」

「憶測だ。でも辻褄は合う」

「僕は見た。茶色の髪で中肉中背だ」

「長身の男?」

「そうかも。ベトコンだろう」

「いや北ベトナム兵の装備を持ってた」

「確かじゃない。戦場には煙が充満していたから」

「1度に喋るのは3人までにしてくれ。ビルに誰が隠れてたって?」

「車を見たよっ!」

「リアルで公園の逆側に白いバンがいた」

「犯人は、ソレに乗って逃げたのかも」

「不審な音を聞いた者は?」

「耳栓をしてた。戦闘中はうるさいから。ワグナーも音デカッ」

「つまり中背か高長身のVC(ベトコン)NVA(きたベトナムへい)が徒歩かバンで逃げたと?」


新橋鮫が天を仰いで大声を出す。


「コスプレ軍団諸君!全員、署に来て供述書を書いてくれ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


制服警官が新橋鮫に耳打ちをスル。

ボディガードが待機してたらしい。


早速、話を聞きに逝く。


「警告はしたんだ。ボディガードである私に警護させないのは危険過ぎると」

「では、貴方は肝心の時にジョジを守ってなかった、というコト?」

「俺は、VCには見えないらしくてね。大勢が銃を持って走り回る中、車で待たされてた。史実に沿うためにな」

「ジョジはなぜ貴方を雇ったの?」


ココで屈強な"ボディガード"は、コロナ前はヤタラと名を聞いた居酒屋の名を挙げる。


「よく見かけるょね。アキバ発の"メイド居酒屋チェーン"だ」

「ボスはそのブランドと販売システムを所有していてフランチャイズ加盟店から手数料をとっていた」

「儲かっていただろうな。店舗がそこら中にある」

「そうだが…脅迫状もよく来てた」

「誰から?」

「居酒屋は、借金して開く者が多い。だが赤字から抜け出せず、自分の車や家を売り払う者もいるんだ。自己破産を避けようとして。マスコミには伏せられてるが、実は倒産も多い。特にコロナ以降は」

「みなさん、ボスを恨んでたのかな?」

「新規参入者は契約上、先に始めた者から中古の厨房器具を高額で買わされる仕組みになってる」

「なんだかマルチ商法みたいだ」

「マルチそのものだ。ソレで、最近ボスを殺すって言う脅迫メールがポチポチ届き始めた。"首を切り落としてプードルに食わせる"とかな。で、俺が雇われた」

「まだメールはあるか?」

「ウチの警備会社がアカウントを入手して脅迫を監視している。パスワードを送るよ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ココでいつもならドンドン話が進むトコロだけど大休止スル。

ちょっち頭痛が酷くて"アキバ医院"のスミレ女医を訪ねる。


コスプレした萌え系のお店じゃナイょ!

市場時代から続く古馴染みの診療所だ。


麻薬系の処方に甘くて患者が絶えないw


「私達メイド3人組。女生徒みたいに元気。笑顔があふれるメイド3人組」

「オペレッタの熱演には程遠いけど、暗唱どうも。テリィたん、貴方の長期記憶は損われていないわ」

「冗談はともかく、ペンライトで照らされるのは拷問だ」

「頭痛がヒドい?」

「頻度も増して集中力や睡眠、生活を脅かしてるレベル」

「処方薬は飲んでる?効果ナイの?」

「症状が悪化してる。目のかすみ、短期記憶喪失、痛み。会った時、こういう経過は望んでなかった」

「言ったハズょ。何事も直ぐには回復しない。脳が癒えるまでに時間がかかるの。遠回りもあるわ。愛と同じ」←

「医師としての助言は"最善を望んで待て"かな?」

「ガバペンチンの量を200mgから400mgに増やすわ。少し眠くなるけど、他は変わらないハズ。もしソレで効かなければ、効くまでさらに投与量を増やす。薬には抵抗があるだろうけど、テリィたんに多幸感は出てないし、依存症に陥るリスクも無さそう」

「薬が依存しにくくても、僕が依存しやすい体質だから…」

「ミユリさんにね。とにかく!貴方の依存力や症状を考えると、この薬が最適なの。私を信じて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


昼下がりの御屋敷(ミユリさんのバー)


夕方の開店までは僕の秋葉原オフィスだ。

誰も来ズ集中スルにはモッテコイの環境。


ところが…


「テリィ様!何を被ってるのですか?」

「古道具屋で売ってた昭和な溶接用マスク」

「あ、そう…ではなくて、なぜ被ってるのですか?」


僕は、ヨッコラセとマスクを脱ぐ。

真四角な箱に両目用の丸い覗き穴。


確かにロボット人間に見えたカモ。


「サングラスよりも断然遮光効果が高くて、保護されるンだ」

「何が?」

「心」←

「そんなにアキバの光は凶暴ですか?」

「悶絶するホドだょ」

「ならば、こーゆーパソコン作業なんて悪の巣窟そのものです。特に凝視は良くありません。私が代わりマス」

「いや。ジョジへの脅迫メール、全部見終わったトコロだ」

「それで?」

「彼が世の中のみんなから嫌われてたコトは確かだ。とても人気者とは言い難い。でも、かと逝って、加盟店のオーナー達は嫌ってはいるが犯人じゃナイな」

「なぜ?」

「メンタリティが違う。この犯人は用意周到で忍耐強くて几帳面だ。その対局にアルのが、このメールの主だょ。"俺はマジだ。目玉から星が飛び出すマデぶちのめすぞ"だぜ?」

「全部が全部、こうですか?」

「コレなんか、例外的に綴りと句読点の正確さが際立ってる方だ。この愉快な脅迫者達には、多分人は殺せない。仮に人殺しだとしても、よもやジョジが今朝、コスプレイベントで狙撃の格好の標的となるとは、夢にも思ってなかったハズだ」

「なるほど。では、メールからは収穫ナシですか?」

「そうでもない。不穏なメールも見つけた。娘のマーシとのメールだ」


ミユリさんが僕のPCを覗き込んで来る。

白い首筋から僕の大好きな香水の香り。


「ヒドいですね。コレでは、家族の集まりは地獄でしょうね。お誕生日とか呼ばれたくナイわ…とは逝え、親と揉める人って、案外多いンですょね」

「最後のメールが特になぁw娘は、父と縁を切り"探しに来たら殺す"とまで警告して、突如姿を消した」

「娘さんに相続権は?」

「本人に聞こう。住所は調べてある。今から出れば、ミユリさんも遅番までに帰って来れそうだょ?」

「テリィ様は行かないの?」

「こういう時は、人と話した方が良いってスミレ先生に逝われてる。で、ワザワザ時間を作ってくれた人がいるンで、ありがたく好意を受けてみよーかと」

「あ、浮気の匂いがスル!」

「ゲ、まさか!」

「では、一緒に来てください」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


湯島にある中古マンションの1室。

普通の3LDKだがココは"教会"。


「パパは、資本主義に殺されたのょ」

「残念だが、資本主義は殺人罪に問えない。犯人を探してるんだけど、何か事情をご存知ですか?」

「私が殺したと思っているの?」

「お父さんの会計士によれば、君には遺産が1億円以上転がり込むそうだね」

「そして、お父さんと仲違いもしてる。半年前にこんなメールを描いてるわね?」

「確かに、パパにはヒドいメールを描いた。でも、半年前のコトよ。このコミューンに来て、私は生まれ変わったの」

「でも、当時はお父さんに"連絡して来たら殺す"と描いてる。連絡はあった?」

「なかった。そして、私の怒りも消えたわ。今では、私は蟻も殺さない。パパを殺すワケないじゃナイ」

「遺産狙いで誰かに殺させたんじゃ?」

「誰かって誰のコト?知り合いは、コミューンの人だけよ。それに犯行時刻には、みんなと上野公園でビジョンハイクをしてた」

「コミューンの外の殺し屋を雇う手もある」

「例えそうだとしても、このコミューンには連絡手段がない。ハイテク機器類は禁止よ。入り口で携帯を預けたでしょ?殺し屋を雇うには狼煙で合図しなきゃ。ねぇ確かに1億円欲しさに殺人を犯す人も多いだろうけど、私は手をつけない。お金がパパを冷徹なマシンに変えるのを見て育ったから。私は、そうなりたくない。だから、ココに来たの。遺産なんて私の首を絞める縄と同じょ。もし入っても全部手放すわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


気まずく退出する僕とミユリさん。

鉄扉に"携帯を預けてください"w


「ビジョンハイクってなんでしょう?何か楽しそう」

「"桜を見る会"的なイベントかな?とにかく、管理人さんに確認スルけど、余り人殺しには見えないね」

「蟻も踏まないっていうのは眉唾臭いですが、自分のパパは殺さないでしょうね」

「脅迫メールをもう一度調べてみるょ。見落としがないか調べ直す」


ソコへミユリさんに新橋鮫から電話。


「鮫さん?テリィ様が御一緒です。スピーカーにします」

「テリィ!今どこだ?電話にも出ずに」

「ミユリさんはコミューンに携帯を預けてたンだ…何か?」

「今、マーシと一緒か?」

「さっきまでは。パパは殺してなさそうだけど、何で?」

「お前と一緒にいたのなら、パパ宅への放火犯ではナイと言えるからな」

「何の話かな?」

「1時間前に火災警報器が作動し、直ちに神田消防(アキバファイア)が駆けつけたが、ジョジの部屋は全焼した。彼は、よほど憎まれていたらしい。殺すだけじゃ済まないほどに」


第2章 カリオストロっぽい展開


その夜の御屋敷(ミユリさんのバー)


「あ、ハシゴたん!おかえりなさいませ!」

「おお。さっき報告書を描き上げたばかりだにょ。先ず、放火と断定したから」

「ヤッパシ?いつもの私のオリカクで良い?」


ドヤドヤと御帰宅して来た一団は神田消防(アキバファイア)

小隊長のハシゴ氏はヘルプのつぼみんのTO(トップヲタク)


つぼみん特製カクテルを飲み干し御機嫌だw


「現場でテルミットとナパームBの混合物が燃焼促進剤として使われた形跡がある。この2つを混ぜ合わせると、家屋の通常火災より、かなりの高熱で燃える。よくマンションが焼け落ちなかったモンだ」

「ナパーム?それって"朝嗅ぐナパームは最高だ"のナパーム?黙示録そのものだょ。再現イベントじゃ僕のセリフだったのに!」

「ハシゴたん、そんなモン、どこで手に入るの?」

「ソレが…頭が痛いンだが、作り方はネットに出てるし、材料はどこのホームセンターでも買えるンだ」

「うっそぉ」

「鮫さんに、材料一式を買った客がいないか調べてもらいましょう。ジュリ、ダーリンに頼める?」

「モチロン。でもね、ダーリンは既に調べさせてて期待薄。この犯人は、用心深いの。現場には、指紋もDNAも残ってナイ。でも、辛うじて残ってた"靴跡"が、放火犯のモノと思われてルンだけど興味深いの」

「なぜ?」

「靴の溝に詰まってた土壌の組成が、テリィたん達が戦争ゴッコをやってた公園のソレと一致したの。つまり、放火と殺人は、同一犯の仕業ってワケ」


常連一同から低いドヨメキが起こるw


「犯人はもう一つ罪を犯したわ。放火の前に盗みも働いた」

「盗み?」

「謀略ビラの印刷に使う原盤。調べてたらジョジはベトナム戦争時代の再現のみならず、当時の遺物の収集も行ってた。旗とか古文書とか」

「謀略ビラの原盤もその1つか」

「これは去年、彼の自宅が軍事マニア雑誌"円"で特集された時の写真よ。嬉しそうに原盤を持ってる」

「その原盤って何?」

「ベトナム戦争中にアメリカ軍が敵の戦意喪失を狙って空中散布した謀略ビラの原盤。"降伏しないと爆撃しちゃうぞ"的な奴ね。中には経済の混乱を狙って偽札紛いのビラも投下されたみたいょ」

「そんなモノは、現場写真には写ってなかったな」

「もちろん、消防が回収したって報告もない」

「犯人は遺物をゴッソリ盗みソレを隠すために放火したのかな」

「だとしたら、大成功よね。しかし、謀略ビラの原盤ですょね?そんなにしてまで、手に入れたいモノなのでしょうか?しかも、原盤の窃盗のために人殺しまでしますか?マニア間で原盤人気が異常にヒートアップしてたとか?」

「こういう遺物を扱うマニアの世界は、とても狭いから、自分の盗みがバレるとでも思ったのかもな」


えっと、恥ずかしながらココで僕が登場w


「ミユリさん、ヒドいょ。バックヤードで熟睡しちゃってた間に何なの、この騒ぎ?コレがビラじゃなくて偽札なら、まるでカリオストロだw」

「でも、テリィ様。マーチングバンドが御帰宅しても起きないホドの熟睡ぶりで」

「うーん薬の量を増やしたせいだwもう効果が出てる。ミユリさん、エスプレッソ…は無理か。粉末コーヒーでもOKだからくださいw」

「脳の回復には、先ず睡眠です!テリィ様にはお休みが必要ってスミレ先生から私に電話が…」

「"ヲ仕事"も必要だょ。さぁ、探しに逝こう!」

「えっ?何を?」

「謀略ビラの原盤さ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


早速、僕は"センム"を訪ねるw


アキバで故買商と逝えば、先ずこの人。かつてブルセラ屋から身を立てたセンムは、今では汎アジアシンジケートを仕切る大人物だ。


「センム、どうも。儲かってる?」

「おお、テリィか。相変わらずミユリの尻に敷かれて喜んでンのか?情けねぇな」

「今度の話は、ミユリさんに出逢う前、って逝うか、僕自身がアキバに来る前の話だ」

「おぅ。テリィの元カノのエリスの時代だな?」


エリスの名にミユリさんがピクンと反応w


「私が、いつも置き去りにされてた頃のお話ですね?」

「そうさ。俺とテリィは実は良いコンビだった。お前となら、デカい仕事が出来ると思ってたンだが、お前は俺を捨てて新橋鮫と組んで奴をスターにした」

「僕は、関係ナイょ。鮫が優秀だから伸びただけだ」

「俺は優秀じゃナイと?」

「えっ?」

「センム!歴史的な遺物の故買なら、アキバじゃセンムが1番詳しいと思ってるからお邪魔したのょ?力を貸して」


絶妙なタイミングでミユリさんがシナw

するとセンムは急に照れ笑いとかスル←


「誰かがマンションに放火したらしいな」

「順番が逆だけどそう。狙いはベトナム戦争の遺物。CIAの謀略ビラの原盤が消えて、布や紙の品については焼けたか盗まれたかしたの」

「ソレをサバける奴は限られてる。手を貸すよ。そのかわり俺にも協力しろ」

「え?また、テリィ様に何処ぞの地下アイドルのパンツを買えとかおっしゃるの?もう、間に合ってます!」←

「ミユリの手前、ソレだけは勘弁してやる。実は半年前、今じゃ世界のポップシンガーだが、10年前まではアキバの地下で歌ってたウサギのファンクラブ限定のスタジャンが、元TOのショーのアパートから盗まれた。100万円相当だ。犯人は窓から侵入。その際本棚を倒してる。以来スタジャンは消えたママだが、もし探し出せたら…」


何処から入手したのか、センムは現場で鑑識が撮った写真を僕達に見せて…んん?何だ?


「見つけた。レインコートの下に吊るされてる」

「何?」

「窃盗はなかった。スタジャンは玄関に吊るされてるレインコートの下だ。本棚の前脚部分が抉られてるが、ネズミが噛んだ跡がある。ネズミが本棚をかじって倒し、窓を割ってアラームが作動」

「何でわかる?」

「スタジャンは、ショーさんがレインコートの下に吊るしてた。だが、賊の侵入と考え混乱し、いつもの場所に見当たらないから盗まれたと考え万世橋(アキバポリス)に通報…って線じゃナイかな。一見落着」

「…こ、心当たりに聞いてみる。ベトナム戦争の遺物を売ろうとした奴がいないか、調べてみよう」

「ありがと、センム。連絡を待ってるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


センムの網にトンでもない大物がかかる。

なーんと"神田消防(アキバファイア)"の署長、その人だw


僕達は、マジックミラー越しに固唾を呑む。


「クロス署長。ご足労を。シチャ質店の人から貴方のコトを聞きました。質店に問い合わせを?」

「あの現場から盗んだモノだな?すまない!ホントに。反省してるよ。私は何を考えてたんだか…全部返す」

「気前が良いな。でも、ジョジの命はどう返すんだ?」

「何の話だ?あの火事では誰も死んでナイ」

「ジョジは、火事の前日、ベトナム戦争の再現イベント中に撃たれて死んだ。彼を殺して我々の注意をそらしおき、その間に放火しただろう?」

「私が放火しただと?」

「調べたら、前にも1度あのマンションに出動してるな?去年、配電盤のショートでボヤ騒ぎがあった。その時、署長達が調べに行った。そして、家に入り収集品コレクションを見た。さらに、放火犯はテルミットとナパームBの混合物を使ってた」

「だから?」

「ガソリンとマッチとはワケが違う。この放火犯は専門知識の持ち主だ。ソレに…放火犯の顔を持つ消防隊員は、アンタが初めてじゃない」

「昨夜鎮火した後で調査のため現場に入ったんだ。そしたらリビングルームにアンティークっぽい原盤が山ほどあり、クローゼットには耐火金庫も見つかった。金庫の金は頂いて原盤はマニア向けの故買に売ろうと思いついた。ソコで消防用具と一緒にしまい、外へ持ち出した。ホント、出来心って奴だ。金目のモノに見えたので頂いたが、放火などしてない。殺人など尚更だ。私の車を見てくれ。証明出来る」


ゾロゾロと署の駐車場へ。

何食わぬ顔で僕達も逝くw


「ほらな。焼けた何かの印刷原盤だ。私が窃盗を計画してたなら、お宝が眠るマンションに放火するワケがないだろ?」

「昨日の朝9時から10時まで、何処にいたか証明出来るか?」

「出動もなく、ズッと署にいた。皆に聞けばわかる。防犯カメラもある。これで信じるか?」

「信じる…不本意ではあるが」


ミユリさんが小声で呟く。


「殺人捜査は…振り出しに戻った」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び昼下がりの御屋敷(ミユリさんのバー)


夕方の開店までは僕の秋葉原オフィスだ。

誰も来ズ集中スルにはモッテコイの環境。


ところが…


「テリィ様!何デスか?この匂い?」

「わ!ミユリさん、お茶でも淹れてくれるの?」

「またバックヤードで爆睡中かと思って」

「寝たよ。ぐっすり眠り急に目が覚めた。薬で体内目覚まし時計が滅茶苦茶だ。しかし、せっかくだから、この覚醒状態を生かそうと思ってね」

「で、何をされてるのですか?」

「昨日の恥ずべき推理ミスの修正さ。きっと薬のせいだ。ミユリさんの方はどうだか知らないけど」

「ミスって何を見落としたのでしょう?」

「使われた燃焼促進剤はテルミットとナパームB。普通に住居を燃やす温度より約1000度も高くなる」

「だから?」

「放火犯の狙いは、あの住居ではなく、もっと熱に強い何かを破壊するコトだったのかもしれないって思ってさ」

「ソレ、署長さんが盗んできた耐火金庫ですか?!で、何で証拠物である耐火金庫が御屋敷に?!万世橋(アキバポリス)の保管室から持ち出したのですか?」

「中の燃えカスも一緒にね。この金庫は最高級品で1000度以上の熱に耐えるけど、促進剤の熱にはかなわない。ホラ、中身も燃えたと署長さんが落胆してたょね」

「目的は盗みではなく…破壊行為?」

「ソレを試みて…」

「成功したワケですか?」

「いっときだけ」

「どーゆーコトですか?」

「この匂いは、焼けた書類の修復に使う25%の泡水クロラール溶液の匂いだ」

「あぁ。御屋敷にトンでもない匂いがwとにかくこの臭い、ヤメてください!夕方の開店までに消えるかしら…燃えカスを解読して何か役に立ったのですか?」

「うん。役に立った。ジョジ殺しの犯人と動機がわかったよ」


第3章 "205札"を追え


その足で僕とミユリさんは新橋鮫を訪ねる。


「ソレじゃ殺人と放火は、耐火金庫の中の偽札を破壊するためだったと言うのか?」

「YES。耐火金庫に入ってた"205札"の破壊が目的だった」

「"205札"?何だソレ?」

「ベトナム戦争の裏で暗躍した伝説の偽札だ。当時、沖縄に駐留してたCIA第7心理作戦部隊が刷っていたが、元の技術は、太平洋戦争時代の登戸研究所第3科まで遡る。敵国の経済混乱を狙い、偽札を製造、流通を民間の工作機関に委ねた彼等は、細菌戦部隊と同様、終戦後は高い技術力と引き換えに免責され、戦犯となるコトを免れた。冷戦時代、紙質粗悪な旧ソ連パスポートの偽造などで名を上げたが、ベトナム戦争末期にCIAからのリクエストで偽札を刷り始めたら、コレが世界のクライムシーンが目を剥く、本物以上の完成度の偽札となった。以来、印刷所のあった嘉手納の"205号ビル"に因み"205札"と呼ばれる偽札が、アジアの歴史の陰に常に蠢くようになった」

「おいおい。ちょっとしたカリオストロだな。お前、偽札マニアだったのか?」

「鮫の旦那。薄々気づいてると思うが、アキバの地下には、登戸研究所はじめ旧軍の軍事技術を継承するスタートアップが多数存在する。マニアは僕じゃなく、そいつらだ」

「しかし、警察が良く知らない偽札に、一体どんな価値がアルんだ?」

「直近の国際オークションでは、80万ドルの値がついてる」←

「わ、わかった。俺が悪かった…実は、ウチでも内々ジョジの保険会社の調査員から保険対象の遺物リストを取り寄せた。でも、そんな大事な"偽札"のコトは載ってなかったがなw」

「恐らくジョジは"205札"の買い占めを狙ってて、しかもソレを隠してたと思う。売り手にバレれば、ボラれるだけだから」

「貴重な"205札"だけに、不正に入手して保険対象にならないモノもあったのでは?」

「ミユリ、お前までwわかった!でも、テリィが言うとおり"205札"が犯行の理由だとして、なぜ燃やしたんだ?貴重なモノなんだろ?」

「そうだが"もしも"だけど放火犯も既に"205札"を持っていたとしたら、どうかな?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さてさて"センム情報"に拠る次なる犠牲者は…や?タワマン族の億万長者ではないかw


「ハッキリ言っておくが、私がココにいる法的義務は一切無い。私の判断で、いつでも帰らせてもらう。良いか?」


取調室で元気良く吠えるゴート氏とは、僕も面識があると逝うか…

先の再現イベントの事実上のスポンサーなんだが…何やってる人?


NAM(ベトナムせんそう)"ヲタクなのは知ってるけどw


僕とミユリさんは例によってマジックミラー越しに新橋鮫の取り調べを高みの見物中だw


「私が財を成した美術品売買は、熾烈な業界なのだ。だから、私も万事が好戦的ナンだ。で、用件は何だ?」

「ジョジがベトナム戦争再現イベントで射殺されたコトは御存知ですね?」

「私が殺したとでも?ますます興味深い展開になってきたな」

「その後、放火もしてませんか?彼を殺した数時間後にマンションが燃えてる」

「確かに、あのイベントには毎回出資し参加もしてる。細部にこだわった歴史の再現劇が好きでね。ホント映画のロケ現場にいる気になれてワクワクだ。でも、ソレは私だけじゃない。何10人もが銃を持って、あの場にいた」

「でも、その中で世界で2番目の"205札"の収集家となれば、アンタだけだ。誰かが放火したお陰で、アンタのコレクションは高騰。価値は3倍になった」

「おいおい"205札"なんて何で所轄の刑事が知ってルンだ?ソレに、私はコレクターとして今の事態を望んでいない」

「ナゼだ?」

「私自身、ジョジから"205札"を買おうとしてたからだ。実は、長年買取の申し出を断られて来たが、フランチャイズ居酒屋が彼を提訴しだして状況が変わった。先月、彼の方から電話でまだ"205札"を買う気があるか?と打診して来たンだ」

「仮にそうだとしても、結局アンタは、取引成立までには至ってナイ。至ってれば"205札"は耐火金庫にはなかったハズだからな。結局、今の話でわかったコトは、アンタは彼が"205札"を秘蔵してると知っていたコト、自らも収集熱心だったコトの2つだ。両方とも我々が想定していたアンタの犯行動機と完全に一致スル」

「言っておくが、例え買い取れなくても、私は"205札"を燃やしたりしない。金の問題じゃないんだ。マニアにとっては聖なる遺物ナンだょ。さぁ私の指紋でもDNAでも、自由に取れば良い。必ずわかる。私が無実だと」


ソコヘ若い刑事が入って来て、何やら新橋鮫に耳打ちをスル。

鮫の旦那の顔に、みるみる意地悪そうな笑みが広がって逝く。


「実は、アンタに御足労頂いてる間に、お宅を調べさせてもらった。モチロン、家宅捜索の令状をとって合法的にな」

「何っ?この猿芝居は、私をおびき寄せるためだったのか?し、しかし何も出ないハズだ。特に、凶器の銃は…」

「確かに銃は出なかった。しかし、猫のトイレが出た」

「え?猫のトイレ?ウチで飼ってるミーナちゃんのトイレだが…トイレで殺人を証明スルつもりか?」

「いや。ジョジのマンション放火を証明スルつもりだ。猫用トイレ砂の主成分は、ほぼナトリウムベントナイト。火山灰で構成され吸水性が高い。放火の捜査では、現場の湿気をコレに吸収させて捜査に使ったりスル」

「だから…?」

「湿気の成分を検査すれば、放火にどんな燃焼促進剤が使われたかが特定出来る。例えばガソリンとか。ナパームBとテルミットの混合物とかな」

「うっ!」

「猫のトイレは、作業台やシンクのあるガレージにあったそうだ。ヤバい混合物を作るには最適の場所だ。で、その猫用トイレの砂からジョジのマンションを燃やしたのと同じ燃焼促進剤の成分が出た。コレでアンタの放火は証明出来る。アンタの可愛い飼い猫ミーナちゃんのお陰でな」

「くっ…で、では、私を放火で起訴するつもりだな?でも、いかに高熱を発したとは言え所詮はボヤで、死人は出てない。刑期は1年だな」

「いや。もう少し長くなるだろう。我々は、アンタがジョジを撃った銃も見つけるつもりだ」

「そうさ!問題は凶器となった銃ナンだ!あの公園からは、どうしても出なかったンだろ?ウチの家宅捜索で何か出たか?」

「公園ではな。署の制服警官の半数が探し回ったが、どうしても見つからなかった。アンタは、どうやって現場から運び出したンだ?確か聴取の時は、手ブラだったょな。何処に隠した?」

「隠してない。濡れ衣だ」

「すり替えるチャンスは限られていた。銃撃の通報があったのは8時52分。警官が9時4分に到着し、被害者の近くにいた全員の名前を確認し、その中にアンタもいた。凶器を捨てる時間はわずかだ」

「しつこいな。最初から殺してないから凶器を隠すもクソもない」

「クソ?」


ココで、今まで、鮫の旦那の顔に浮かんでた意地悪な笑顔が会心の笑みへ変わって逝く。


「俺達が公園で事情聴取してる時、アンタ、ヤタラと白いバンがどーしたとか、ベトコンがこーしたとか、曖昧な証言で翻弄してくれたょな」

「何を?市民の貴重な目撃証言をバカにするのか?」

「とにかく!アンタの曖昧な証言は、実に役に立たなかった。きっと協力するフリをして自分から目を反らせようとしたンだな。アンタが殺したと気づかれないようにと」

「何が言いたい?」

「クソだ」

「そうか。帰らせてもらうぞ」

「アンタは、曖昧証言を繰り返しながら、目だけは、ヤタラとキョロキョロ、クソを見ていた。つまり、公園の端にあった仮設トイレをな。アンタの証言に振り回された俺達は、確かに仮設トイレは、入念に調べてなかったカモしれない」

「…」

「つまり、アンタはモノホンの銃を便器の中に捨てて目撃者を装った。胸くそ悪い行為だな。今、仮設トイレのタンクの中身を何処で捨てたかをレンタル業者に問い合わせ中だ」

「そうなのかっ?」

「場所がわかれば、また署の制服警官の半数を送り込む。言っとくが、俺だったら今すぐ白状するぞ。さもないと、何10人もの警官が文字通りクソ塗れになりながら、お前の凶器を探す羽目になる。そうなれば、アンタは間違いなく司法制度史上、最も厳しい訴追を受けるコトになるだろう。だから、今しか無い。我々と何か取り引きスルつもりなら」


億万長者ゴート氏はガックリと首を垂れる。

新橋鮫が全てを失う彼に交渉を持ちかける。


「制服警官の投入は、明朝の予定だ。夜は長い。ゆっくり語れ」

「殺すつもりはなかった。しかし、奴はメイド居酒屋で首が回らなくなっていて…トンでもない安値で"205札"を売り出すと言い出したンだ!そんなコトをすれば"205札"の芸術品としての価値は半減してしまう。だから…」

「…朝嗅ぐクソの臭いは最低だ」


第4章 ヲタク、時々リアル


翌日の"アキバ医院"。


「テリィたん。来るとは聞いてなかったけど」

「無断で入りました。ごめんなさい。月曜まで予約がいっぱいだったモンで。ソレじゃ困る」

「用件はなぁに?」

「薬を増やして以来、睡眠パターンが乱れてる。起きてる時間もダルい」

「そうなるって言ったでしょ?」

「受け入れられません。別の治療があるハズでは?」

「もちろん、アルわ」

「ヲタクを休めと?」

「テリィたんは嫌がるけどね。リアルとの二足の草鞋はムリ。初診の時に言ったでしょ?ミユリさんと静かな場所に行って、しばらくの間、山でも眺めてたら?」

「うぅリアルでも異動が出てマスマス仕事が大変なのにw」

「わかってる。そうだけど、テリィたんは、テリィたんの中のヲタクと、どう向き合いたいの?今だけ、何とかやり過ごしたいなら、別の薬か針治療もあるわ。でも、本格的に回復したいのなら、長期の休暇が1番ょ。ヲタクを休み、リアルのサラリーマンとして、ヒタスラ仕事をするの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「と逝うワケで、ミユリさん。暫くアキバはお預けかもしれない」

「どうしてですか?」

「スミレ先生に、早く回復したいならヲタクを休めと繰り返し言われてルンだ」

「テリィ様は、どう思うの?」

「葛藤してる。僕は、ヲタクでいる時が1番調子が良いと感じてた。ヲタクが有害って逝うのは、僕の実感と違うし、アキバを離れるコトなんか想像も出来ない」

「短い休暇から始めたら如何でしょう?1〜2

週間とか。上手く逝けば延長すれば良いのでは?」

「…クソだな」

「まぁ」



おしまい

今回は海外ドラマでよくモチーフになる"芸術的な出来映えの偽札"をネタに、偽札コレクター達、故買の世界の住人、ヲタクとリアルのバランスに悩む主人公を励ます女医、ベトナム戦争の再現イベントで盛り上がるヲタク達などが登場しました。


海外ドラマで見かけるNYの都市風景を、異動に悩むサラリーマンが集う?秋葉原に当てはめて展開しています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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