003 ベビードラゴンジュニア
ベビードラゴンジュニアは色々な場所に棲息している。
龍斗の現在地から最も近い場所だと、あきる野市は養沢にある大岳鍾乳洞の近くだ。鍾乳洞付近にあるキャンプ地から豊かな緑へ足を踏み入れ、1時間ほど森の中を歩くと草原が見えてくる。そこで、ベビードラゴンジュニアが群れで活動していた。
「あれがベビードラゴンジュニアか、文献で見るより大きいな」
草原の手前――森の中から双眼鏡で敵を確認する龍斗。
彼の視界には、ボウリング玉ほどの大きさをした小さなドラゴンが映っていた。数は多くて、双眼鏡が捉えているだけでも10体以上は容易に確認できる。
「動きは文献の通りだな」
龍斗の戦いは観察から始まる。頭に叩き込まれた魔物に関する情報が誤っていないかの確認だ。
今回は思っていた通りだった。ベビードラゴンの赤ん坊ことベビードラゴンジュニアは、まともに空を飛ぶことができない。基本的には地面を這うように移動しており、たまに翼をパタパタさせて浮上してもすぐに着地する。
「これなら楽勝だな」
龍斗は草原に足を踏み入れ、そのまま敵に近づいていく。
「ガゥ？」
残り50メートルの地点でベビードラゴンジュニアが龍斗に気づく。
「ガゥウウウ！」
次の瞬間、戦闘が始まった。
小さなドラゴンの群れは闘争本能を剥き出しにして、龍斗へめがけて一直線に突っ込んでいく。
「肉弾戦か。やはりジュニアは知能が発達しておらず、火球を放つことができないのだな」
龍斗は安堵の笑みを浮かべ、手を前に向ける。
「落ちるがいい」
そう言って彼が発動したのはスキル〈フィールドクリエイト〉だ。射程内にあるフィールドを自由に弄ることができるもので、スキルレベルに応じて弄れる量や範囲が増える。
龍斗の〈フィールドクリエイト〉はスキルレベルが1なので、できることはそれほど多くない。それでも、深さ2メートルの落とし穴を作ることはできた。
「ガゥ！？」
龍斗を襲おうとしたジュニアの群れが落とし穴に落下していく。
ジュニアたちはどうにか穴から這い出ようともがくが、それは叶わぬ夢だった。赤子の力では穴よりも上に飛ぶことはできず、かといって壁をよじ登ることもできない。
「お前達が脅威なのは強さではなく数だ。だが、こうしてひとまとめにすれば問題あるまい」
龍斗は穴で蠢く敵を眺めながら必殺のスキル〈チャージキャノン〉を発動した。
落とし穴のすぐ傍に大砲が召喚される。
「スキルレベルとチャージ時間によって威力が跳ね上がる必殺の一撃、食らうがいい」
龍斗は砲門を穴に向け、キャノンのチャージを開始する。砲弾となる光の塊が次第に大きくなっていく。
そしてチャージが完了すると、彼はニヤリと笑った。
「これが理論と実践の第一歩だ！」
砲門から光の砲弾が放たれた。それは砲弾というよりレーザービームで、穴の中に巣くう数十体のベビードラゴンジュニアを残すことなく飲み込んでいく。
「俺の理論に狂いはない」
初心者冒険者がソロで挑める相手ではない――ギルドの受付嬢にそう言われた敵を、彼はまるで労することなく殲滅した。それも、一般的な冒険者よりも遥かに安全且つ効率的な方法で。
この戦いによって、龍斗のレベルは20から34に大きく上がった。
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