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020 あかんに決まってるやん

 その後も龍斗は大阪観光を楽しんだ。千尋の案内に従って色々な店で食べ歩きをする。虚弱体質の前世ではできなかったことだからか、思っていたよりも遥かに心が躍っていた。


「そろそろ夕方やなー。龍斗、晩ご飯どないする?」


 龍斗はその場で足を止めた。黒門市場を出たところだったので、立ち止まって考えるのにちょうどいい。


「たくさん食べたからお腹は空いてないし、歩き疲れたから適当にホテルをとって休むよ」


 これに対して「えっ」と千尋は驚いた。


「もしかして予約せずに大阪来たん?」


「そうだけど、何かまずかった?」


「あかんに決まってるやん! 歩いていて分からんかったん?」


 千尋が呆れたように言う。


「さっぱり分からなかったけど」


「どう見ても訪日観光客が多いやろ!」


「あー、言われてみればたしかに」


 これは龍斗も思っていたことだ。


 大阪は東京よりも訪日観光客で賑わっていた。特に中国人が多くて、各ドラッグストアには中国語を話せるスタッフが常駐する中国人専用のレジコーナーが用意されているほどだ。黒門市場にいたっては、店員以外の日本人が自分達しかいなかった。


「大阪に来るなら事前にホテルを予約しとくのが基本やよ。当日キャンセル狙いとか無理やで」


「そうなんか。初めての旅行だから知らなかった」


「しゃーない、ホテル探ししよ。どうせ腹減ってへんねやし」


「分かった」


 こうして二人の行動は空き部屋のあるホテルを探すことになった。


 だが、しかし――。


「あかんわ、どこも空きないで」


 結果はボロボロだった。スターハックスでコーヒーを飲みながら、千尋がスマホのアプリで部屋を検索しているけれど、どのホテルも満室だ。レビューサイトの口コミで「二度と来たくない」という言葉が散見されるようなホテルですら空いていない。


「困ったなぁ」


 龍斗は頭を掻きながら対策を考える。今ならまだ新幹線に間に合うので、いっそのこと東京に戻ろうかとも思った。


「しゃーないわ」


 コーヒーを飲み終えた千尋は、スマホをポケットにしまい、龍斗を見る。


「龍斗、ウチの家に泊まる?」


「へっ」


「気ぃつかわんでええで、一人暮らしやから」


「いやいや、でも、女の家に泊まるってのは、まずいんじゃないか?」


「そんなこと気にしてるようならなんもまずいことないんちゃう? 知らんけど」


「たしかにそれもそうか」


「ほならウチの家に行こか。適当に食べもん買っとけば夜中にお腹が減っても大丈夫やし」


「分かった、ありがとう」


「ええでええで」


 ◇


「狭い部屋でごめんなー」


 千尋の家に到着した。家と言ってもマンションの一室だ。ワンルームなので部屋は一つしかない。間取りは10畳だが、ベッドやら机やらが置いてあるせいで、それほどのスペースが残っていなかった。


(可愛らしい部屋だ。それに女の匂いがする)


 龍斗は密かに興奮していた。人生で初めてとなる女の部屋は、パステルカラーがメインの内装に、使い古したリップの転がっている床など、自分の部屋とはまるで違っていた。


「風呂できたから入ってくれてええで。ドラゴンとの戦いや食べ歩きで汗かいたやろ」


 龍斗がぼんやりしている間に、千尋は浴槽に湯を張っていた。


「ならお言葉に甘えて」


 龍斗は浴室で服を脱ぎ、身体を洗ってから風呂に入った。普段は長風呂派だが、千尋に迷惑をかけてはならないと思い、今回はサクッと済ませる。


「ありがとう、気持ちよかったよ」


 持ってきていた寝間着に着替えてから浴室を出る。


 そして、息を呑んだ。


「思ったより早かったねー」


 千尋が何食わぬ顔で言う。


「いやいや、それよりその格好……」


 龍斗は目を疑った。


 千尋がタンクトップしか着ていなかったからだ。下は黒の紐パンを剥き出しにしている。


「家だとラフなんよねー。もしかしてその気になっちゃった?」


 千尋はニヤニヤしながら近づいてくると、龍斗の耳元で囁いた。


「別にええよ?」

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