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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔の脚本【あくまのシナリオ】

【悪魔の脚本】罪宝美術館

作者: 有月 仮字

サイコホラー書くには姉への憎しみを蘇らせなければ。ということで姉がモデルですが、うちの姉は普通に性悪で不良で金の亡者で周りの人間を猫以下の奴隷と思っていただけです。キャラが強すぎて話が成立しないので、その辺は変えました。


(作者の姉以外の)実在の誰かや何かを下げる意図はありません。

「店主、本当の価値って何だと思います?」

「そいつはお偉い先生か、有象無象か。或いは時代が決める物でしょう? あっしはそいつを売るだけですよ」


 開店の準備を始めましょうと、雇い主はそう言った。

 僕がここで働くようになったのは、つい先日のこと。特別に愉快な話でもないので割愛する。繁華街から外れた路地裏に、潰れかかった店に溶け込む怪しげな店。入り口の電光掲示板は古びて穴が空いている。その上、開店時には今にも寿命の尽きそうな灯りが灯り、虫を殺して死骸を貯める。


「いい加減買い直しませんか、店主。あんた稼いでるんでしょう?」

「いやはや、中間管理職って辛いですね。フランチャイズとでも言うんですかね?」

「ロイヤリティ幾ら取られているんだか。その調子じゃ九割とか?」

「一割も貰えればもっと良い暮らしが出来ますねぇ。けれど、この店はこれで良いんですよ。こんな店が小綺麗で立派な店を構えては、逆に警戒されるってもんです」


 怪しい物は怪しい場所にあるのが一番良い。黒いマントの店主が笑う。


「さぁ、リド君。掃除はその位に。もうお客様がお待ちですよ」


 『罪宝(ざいほう)美術館』――……灯りが灯るのは店主の気まぐれ、世の希望。出来ることなら長く開店しない方が良い。それでも数ヶ月に一度、店の灯りは灯ってしまう。これが一月だとか毎日になればこの世界は救いがないのでさっさと終わった方が良い。

 数ヶ月に一度。まだ人間はある程度まともで、ある程度狂っている。今日の来館者は、どちら側の人間だろう?

 客は客。神様ですよと、店主は語る。やって来たなら迎えるだけ。例えどんな人間だろうとも。


「いらっしゃいませ」


 扉の外に見える人影。僕は溜め息をひとつ吐き出した後、カーテンを開け、内へと誘う。


「ようこそ、『罪宝(ざいほう)美術館』へ」





「この絵を幾らで買い取って頂けますか?」


 やって来たのは青白い顔の女性。開口一番、彼女は言った。一息で語られるのは、予め台詞を考えて来た、何度も練習して来たような滑らかな発音。なのに彼女の声は微かに震えている。ああこれは、まともじゃない方の客だな。そう思いながらも僕は対応をした。


「すぐに金が必要ですか? 買い取るのは展示が終わった後ですが、現時点での価値分の資金で有れば先にお渡しできますよ」


 彼女がスーツケースから取り出すは、二枚の絵画。一枚は抽象的で、もう一枚は写実的。僕は芸術には疎いが、好みで言えば写実的な絵の方が美しいと思った。


「すぐには全額頂けないの?」

「ええ、すみません。ここは美術商の店ではなく、あくまで美術館なんです。展示をし、多くの方から価値を見いだして頂いて――……本当の価値を、値段を付けます。そもそも目的としては世界を巡って集めて来たお宝を展示して、オークションに掛ける。この買い取り口は、旅の短縮のため設けてあるだけなんです」

「……解りました。では、それぞれ幾らの値が付きますか?」

「店主、お幾らですか?」

「そうですねぇ……どちらもまだ、価値が付けられませんねぇ」

「話が違うわ! 幾らかは貰えるんでしょう!?」


 怪しげな店主が腰を上げ、二枚の絵画を繁々眺める。客は不快そうに距離を空け喚く。


「失礼。言い方が悪かったですね。お幾ら渡せば良いですか? 一枚は本当に貴重な絵です。値段を付けられないほど素晴らしい。幾ら渡しても足りないくらいですが、今日ここで買い取り希望でしたら、幾らでもお支払いいたしましょう」

「一枚? もう一枚は……?」

「……非常に申し上げにくいのですが。もう一方には逆の意味で、価値が付けられません。ええ、銅貨一枚分の価値もないのです。なんでしたら、描く以前の白紙の画布。其方の方が価値があります。新品の時の値段分の価値が」

「描いたことで、画布以下に? 画布一枚分の価値から、無価値にしてしまったと言うの!?」

「ええ。ですからお支払いできるのは、一枚分の料金だけです。ああ。お嬢さん。どちらの絵画が、良い意味か知りたいですか?」

「…………結構よ。料金だけ頂くわ」

「では、交渉成立ですね。此方へサインをお願いします」


 店主が椅子から立ち上がった後は、僕の仕事は何もない。強いて言うなら店主と客のやり取りを、観察するのが僕の仕事だ。仕事と言うより、修行だろうか?


「店主さん、貴方は自分の目が如何に愚かで曇っていたかが解るわ! 楽しみにしている事ね!! 無価値の方の絵が、もう一枚を遙かに超えた価格を叩き出すと証明して見せましょう!!」


 来店時の青い顔は何だったのか。捨て台詞を残し、去った女性は怒りによって顔を真っ赤に変えていた。

 バタン。勢いよく閉められた扉を僕がもう一度丁寧に閉め直す。黒衣の店主は僕より長い溜め息を吐き、僕に聞く。


「リド君。彼女が描いたのはどちらの絵だと思いますか?」

「こっちじゃないですか?」


 僕が指し示すのは、美しいと感じた写実的な絵画。これを目の前で無価値と言われたら、流石に誰でも腹を立てて当然だ。

 僕の答えを受け、店主は僕を鼻で笑った。相変わらず感じの悪い人だ。


「本気でそう思っているんですか? まだまだ、修行が足りませんね。そんなことではいつまで経っても君は人間のままですよ」

「でも正解ですよね」

「ええ。おめでとうございます」


 褒められているのに嬉しくない。見てくれだけは似ていても、末端はこの程度。僕を拾った本社の人は、もっと愛嬌があった気のに。そう、少なくとも――……“質問”には真摯に答えてくれた。けれど、この店主は質問には質問で返す。


「リド君。君はあの人を、どう思いましたか?」

「どうって……怒りっぽくて余裕が無くて、もう既に罪を犯した人、としか。高飛びの資金が欲しかったんだと思いますよ」

「ならば何故、今は無価値な自分の絵まで一緒に持って来たのでしょう?」

「……足が付くかもしれないのに? 誰かに認めて貰いたかったんじゃないですか? “まともで善良”だった頃の自分にも“何かしらの価値はあった”と貴方に断定して欲しかった。……あ」


 僕は少しだけ後悔する。最初に絵を見た時に感じたこと。どうして彼女に伝えてあげなかったのか。もう取り返しが付かない罪を犯していても、これからの罪は未然に防げたかもしれない。店主に煽られ、“犯行予告”をした今となっては取り返しが付かないが。


「あの人は、可哀想な人だったんですね」





「あそぼ、あそぼう!」

「お姉ちゃん、邪魔しないでよ!! 明日は試験だって言ってるでしょ!!」

「うわぁあああああああああん」

「ああもう、うるさいうるさい!! 気が散って頭に入って来ないっ! 部屋から出て行って!!」


 私は一点だって下げられないの。上がっていかなきゃ叱られるの。何をやっても褒められる貴女とは違うの!!


「何喧嘩してるの! その子は言い出したら聞かないんだから、構ってあげなさい!」


 私って、なんで生まれちゃったのかなぁ。一生、この人の奴隷として生きていくために作られたのかな。


 私には姉がいる。彼女は私より年上なのに、手の掛かる子供のよう。どちらが妹かとこの境遇を何度呪ったことだろう。

 私と姉は何もかもが違う。それなのに、好きになるのは全てが同じ。好きな色も、好きな味も……好きな人も。趣味だってそう。


「へぇ、君も絵を?」

「はい、先生! そうなんです! 私昔から――……」

「懐かしいね。卒業したお姉さんも美術部に入っていたよね。君のお姉さんは勉強こそ出来ないが、いい絵を描くね。そこに飾ってあるのそうだろう?」

「……はい、そうですね」

「何か一つでも才能があるというのは素晴らしいね。他の全てを帳消しにする。天性の才能だよあれは」


 何でも出来る人は、何の価値も無いんでしょうか。何か一つ、出来る人に劣っているんでしょうか。全部頑張らないといけないのに、何にもなれやしないのだ。

 あの人は今日も絵を描いている。本当は私だってそうしたい。


「今日は塾の時間でしょ? ほら、早く行って来なさい!」


 あの人は今日も絵を描いている。私はずっと描けない。どんどん下手になっていく。


「美大? 無理よ。あの子を養うのだけで精一杯でうちにそんなお金はないんだから。どうせあんたには才能無いんだし、もっと無難な道に。公務員とか。夢ばっかり見ていないで堅実に食っていける道にしなさい」


 あの人は今日も絵を描いている。私は、息をするのも苦しい。

 あの人は今日も笑っている。私はずっと、毎日部屋で泣いている。

 明日、あの人の個展が開かれる。招待状が来たが、私は仕事だ。とても行けない。行ったら私は……きっとあの人を殺してしまう。

 人間の価値って。作品の価値って。本当は誰が決めるのだろう?

 私があの人と全く同じ絵を描いたとして、私は同じように評価されるのだろうか?


(私が、“普通”だから“特別”じゃない)


 死にたいな、死にたいな。殺したいな。

 私が普通だからいけないのだ。私が誰にも理解できない程の狂人ならば、理解できない私を理解したい、知りたいと思う人が現れる。だって、普通の人間なんか何も面白くない。掃いて捨てるほどいるんだもの。

 人間の側に、本当は何かを理解する機能は備わっていない。流されてそう思うだけだ。専門家や業界の権威、著名人が。そんな誰かが面白いと言ったから面白いと思い、凄いと言われたから凄いと思う。

 人は作品を見ていない。人が見ているのは人だ。人の付加価値によって、作品の価値は築かれる。私という有り触れた人間は、多くの人間から興味の対象外。生まれながらに特別ではない人間は、罪を犯す以外に特別にはなれない。


(私なんか……生まれてこなきゃ、良かったんだ)


 そう思う。それでも私は悪くない。悪いのは、私を作った連中だ。私を特別に作らなかった奴らが悪い。私は常に努力しているだけ。今度はそれを、“特別になるため”努力しただけ。

 誰からも理解されない人間になろう。いっそ人間なんかやめてしまおう。有史以来誰も為し得なかった、残虐な殺し方を考えよう。何世紀後の人間も震え上がるような、罪を犯そう。自己顕示欲のためにここまでするかと誰かは思う? 違う。そんな物じゃない。こうすることでしか、自分の誕生を肯定できない人間がいるの。本当なら、両親だけで怒りを鎮められたら良かったのに。まだ冷静な私が何処かで呟く。でも、そうじゃないの。私を壊したのは、彼らだけではない。私と彼女を比べてきた奴ら。これまで出会ってきた全ての人間が、私は憎い。一列に並べて全員殺してしまいたい程憎い。私の価値を勝手に決めて、押しつけて来た奴ら全員殺してやりたい。

 それでもまだ、殺さない。ここまで思ったの。ここまで狂ったの。今なら最高の絵が描ける。それで駄目なら、それでも駄目なら――……私は今度こそ、人の道を外れてしまう。





 数日後、『罪宝(ざいほう)美術館』に二枚の絵画が飾られた。灯りの付かない店にやって来るのは人間以外。扉以外から現れる彼らは、新たな美術品を大いに喜んだ。

 彼女の宣言通り、無価値な絵画の価値は跳ね上がり……彼女が持って行った金額以上の値が付いた。それでもやはり、彼女は可哀想な人だった。彼女が手段選ばず罪で磨き上げた作品も、あの抽象画には及ばないのだから。


「ねぇ店主」

「なんですリド君」

「殺してはいけないのに、どうして人は誰かを殺すんですかね」

「では逆に。世の道理として殺して良いなら、彼女は殺さなかったと?」

「ええ。殺人や狂気による付加価値が付与されないなら、彼女は罪を犯さなかった。彼女にそうさせたのは、そこに意味を見いだす奴らでしょう?」

「でもねリド君。彼女が罪を犯さなければ、彼女の絵を美しいと思う者は誰も居なかったんですよ。無関心な人間は、魔物ですね。己の手を汚さずに、人を殺めることが出来るのですから。彼女もそちら側に加われば良かったのに。楽しいですよー爽快ですよー! 手を翳すだけで人がバタバタ死んでいくのは」


 店主が珍しく、質問に質問を返さない。その点には驚いたが、内容には閉口してしまう。


「店主……貴方と違って、人間は考える。考えない人間はいない。彼女にとっての考えるは、描くことだった。貴方は彼女に死ねば良かったと言っているも同然ですよ」

「はい。ですから“生まれなければ良かったのに”と。彼女は呼吸をするのに向いていなかったんですよ、この世の中で」


 所詮は死神か。僕はいつかの店主よりも長く長く溜め息を吐く。


「リド君、浮かない顔ですね? 接客担当がそんな顔ではいけませんよ。さぁ、笑って笑って。何時までも人間に肩入れしていては立派な悪魔になれません。君は此処で真の善悪と傍観の意味を学ばなければいけないのですから」


 僕は(リド)を上げる。店のカーテンを開いて、今日も人間達を出迎える。

 罪のある創作物は、大きな魔力を秘めている。僕らはそれを回収し、人ならざる者に売買する役目。出世し立派にならなければ社会の歯車、それは悪魔も人間も死神も大差ない。唯、溜め息を吐く世界がちょっと……違うだけ。


「いらっしゃいませ、『罪宝美術館』へようこそ」

この作品には感想いらないので、他の作品に感想くれよな!!!!!!!!!!!!!!

私にくれなくてもいいから、ちゃんと推し作品とか推し作者さんには目に見える形での応援してくれよな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


という気持ちで書き殴りました。



息抜きに短編書きました。気が向いたらちょくちょく書きます。

どこかの死神の欠片や、どこかで出て来たかも知れない少年を再登場させたかもしれません。別人かもしれません。


繰り返し言いますが、(姉以外の)実在の誰かや何かを下げる意図はありません。

息抜き終わったので、また色々書きます。


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