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閑話 お姉ちゃんなんかに負けないもん!

 恋というものは冷徹で残酷だ。どんなに努力しても叶わないものだってある。神様にどれだけお願いしようが、恋に奇跡なんて起きない。どうしてそんものに一生懸命になれるのだろうか。私は前までは、そんなことを考えていた。でも、理由なんて必要なかったのだ。

 ――『好き』その気持ちさえあればほかは必要ない。時に、好きという気持ちは人を狂わしたり、壊したりする。でも、人生で一番輝けるきっかけになる時もある。

 

 

 

 

 *

 

 

 私の名前は朝日奈ゆめ。どこにでもいる普通の中学生だ。私にはひとつ悩み事があった。それは、恋が分からない事だった。告白されたことは何度もあったが、学校の男子たちはみんな一緒に見える。もう私は、恋なんて出来ないと思っていた。

 ある日お姉ちゃんが彼氏を家に連れて来ると言ってきた。お姉ちゃんは私と同じだと思っていたから驚いたし、羨ましかった。お姉ちゃんの彼氏はどんな人なのかすごく気になった。チラチラ窓を見て確認していると、お姉ちゃんと男の人がやってきた。


 ――ドクン


 何この音。私の体の中から変な音がした。その音はだんだん早くなっていき、呼吸も乱れた。これが何なのか確かめたくて仕方がなかった。下からは、お母さんとお姉ちゃんの話し声が聞こえてきた。


「ただいまー。じゃじゃーん今日は彼氏の若松くんがきてまーす」


 あの人の名前空牙くんって言うんだ。


「空牙くん……」


 名前を呼んだだけで、鼓動が早くなっていくのがわかった。私はこれが何なのか確かめるために、お姉ちゃんと空牙くんがいる部屋に突入することを決めた。

 部屋の前に来ると、なんだか楽しそうな話し声が聞こえた。なんだか胸が痛い。

 スー、ハー。呼吸を整える。自然にいつものように入る。


「おねーちゃーん。あぇぇぇええええ」


 私は一瞬でノックをしなかったことを後悔した。二人は一緒にベットで寝ていたのだ。胸が張り裂けそうだった。私は今すぐここから立ち去りたかった。


「ゆめ、これは違うの。えっと、その、一緒に寝てただけ」


 お姉ちゃんは必死に弁明していた。

 寝てただけ?やめて、これ以上何も言わないで。

 その後、空牙くんが謝ってきたが、私は何も聞きたくなかった。今にも涙がでそうだったが、ここで泣く訳には行かないので、私は平然を装う。


 「いや別に気にしないけど、まずノックしなかった私が悪いから。急だったからちょっとびっくりしただけ」


 こんなの嘘。本音じゃない。

 仕舞いには、にやにやしながら『存分に楽しんでください。どうぞどうぞ』と手を動かしていた。私はもう何も考えられなかった。今何をしているのか全く理解できていなかった。本能的に、二人を邪魔しないように動いているのだろうか。


「ゆめちゃんありがとう」


 どうやら空牙くんはお姉ちゃんから私の名前を聞いていたようだ。私のことも狙ってたりしないかと少しばかり思ってしまった。そんなわけないのにね……

 もうここにいるのは耐えられないので、手を振って扉を閉めた。部屋に戻ろうと思っても、足が動かない。扉から離れることは出来なかった。盗み聞きは良くないが、二人のことが気になって仕方がなかった。

 どうやら二人はお父さんの所へ行くらしい。


「お父さん二人のことを認めないで」


 私は性格の悪い女だ。本当はお姉ちゃんの幸せを願うべきなのに、それをしないのだから。でも、私の願いは届かなかった……

 

 

 *

 

 

 私はようやく理解した。私は空牙くんのことが好きだということを。いけい事だとは分かっている。でも、この気持ちを抑えることは出来なかった。

 私はお姉ちゃんが居なくなったのを見計らって、空牙くんに迫った。どうにかして、私も見て欲しかったからだ。


「私、空牙くんに一目惚れしたの。どうせお姉ちゃんとエッチできてないんでしょ?私としない?」


 最低だ。でも、もう引き下がれない。私はキスをしようとしたが、それは扉が開く音に止められた。お姉ちゃんかと思ったら、お父さんがいた。お父さんは空牙くんが私にまで手を出していると勘違いして、怒ってしまった。私は本当に何をやってるんだろう。お姉ちゃんの彼氏に手を出そうとした上に誤解を招き、二人を破局させてしまうかもしれない。

 私は自分への怒りとわたしをみてくれるかもしれないという喜びが混ざって変な気持ちだった。

 空牙くんは必死に誤解をとこうとしていたが、上手くいかなかったようだ。好きな人の落ち込む姿を見るとこんなに胸が苦しくなるのを初めて知った。原因は私にあるが、『どうにかしてあげたい』その気持ちでいっぱいだった。

 私はあの日、空牙くんに私の心の全てを奪われた。恋というものは思っていたより残酷だった。私が恋している人には彼女がいて、それは私のお姉ちゃんだった。私のつけ入る隙間なんてなく、無理だということを分かっていてもこの気持ちを諦めさせてはくれなかった。


「……恋ってこんなに辛いものだったんだ」


 でも、『こんなことなら、知らなければよかった……』と後悔はしていない。知ってしまった以上、自分の持っている全てを出し切るしかない。


「勝負だよ、お姉ちゃん」

 

 

 

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