流れた血
あの無意味な話し合いの後、魂に付いているだけの肉体を動かして働いた。
彼が別れ際に言った言葉が頭で木霊する
「ずっとずっと考えてたんだけど、君とは結婚したくない」
ずっとずっと考えてたんだけどって、春は言ったけれど、たぶん一瞬頭をよぎっただけで、ずっとずっと考えてなかったと思うの。無責任に逃げる術を、最短で逃げる道を探してテキトーに選択したんだと思うの。
好きだから、その言葉が苦しかったし辛かった。
私と同じくらい愛してくれていると思ったのは、幻想であり虚構だったのだ。
彼の言った言葉は一生私の胸から抜けないんだろうと思う。
友達から、聞いた話は〝秋以外の誰かと付き合ってみたい〟という胸糞の悪い理由だったことも思い出して、おかしくなりそうだった。
帰り道に、そんなことを考えていたら、目の前がスマホの画面のように暗転する。チカチカするという表現がピッタリだ。
あぁ…これは、まずい
と思った刹那、私の股ぐらから生温い液体が下垂れた。近くのトイレに駆け込むが、酷すぎる腹痛からもう立ち上がることは出来ない。
ゆっくりとトイレの地面が私の血で染まっていく。
今日は、ワンピースで出掛けていたので、良かったと思った。ズボンだったら、私は上だけで帰る痴女だ。
頭がボーッとする……貧血かしら
親にも言ってないし、救急車を呼ぶなんてできる訳が無い……こんな最悪の告知はないだろう。それに、言ったところで、春との交際を応援も祝福もされなくなるのは目に見えている。
春にLINEも電話もするが、繋がらない
そうだろう……そばにいて欲しい時に、助けて欲しい時に、そばに居てくれたことも助けてくれたことも1度だってなかった。
私がSNSで、彼の友人から酷い罵詈雑言を浴びせられようと、彼のお母さんからInstagramを監視されようと、彼は私にただ一言こう言ったのだ
「耐えて」
お腹の痛みが強くなるのと共に私の意識が滲み出す。
どうせなら、彼の傍で死にたかった。
分からないけれど、たぶん、これは生理でもなければ、お腹の子供がヤバいということだけは、鮮明だ。
汚い駅のトイレをさらに私の汚い血で汚していく。
友達「春のなにがいいの?」
私「どこでも寝ちゃう所が可愛い」