ハゲタカ
ハゲタカほど皆から嫌われ、蔑まれている動物もいないでしょう。ハゲタカは肉食動物ですが、死んだ動物の屍肉を食べて生きているのですから。狩りをして獲物を確保している他の肉食獣たちからは当然軽蔑されていました。
ハヤブサは言います。
「あんなろくでもない奴が親戚だなんて、気が滅入るね。食料を得るための努力もせずに、屍肉をあさるなんて、まるで乞食じゃないか。一度、言われたことがあるよ。『ハゲタカはあたなの名を汚している』ってね。もう金輪際、関わりを持ちたくないし、できたら親戚関係も解消して欲しいぐらいだよ」
ライオンやトラも苦情を言います。
「奴らの汚さったらないね。我々が獲物を捕らえ食事をしていると、すぐに上空を旋回し始める。なんとか分け前に与ろうって魂胆だろう。で、喉を潤すためにちょっと餌場を離れ水辺に行っていると、その隙に我々の獲物を横取りするんだ。もちろん気づけばすぐに追い返すけどね。まったく油断も隙もあったもんじゃない。あんな迷惑な奴らは消えてなくなるべきだね」
ハゲタカも自身が嫌われ者であることはよく分かっていて、なるべく目立たないように行動していました。それでも彼らも生きてゆかねばなりません。相変わらず屍肉を探して上空を旋回しているのでした。
そんのなある日、急激な気候変動で、サバンナにそれまでに経験したこともないような豪雨が降り注ぎました。河川は氾濫し、辺り一面水で覆われました。豪雨はごく短期間で止みましたが、水が引いたサバンナの光景はおぞましいものでした。溺死した動物の死体で埋め尽くされていたのです。
すでにもの凄い腐臭が漂い始めていましたが、経験のない事態に、動物たちは為す術もありませんでした。
するとそこに、ハゲタカの一群が現れました。普段は身を隠しながら単独行動をとるハゲタカですが、今回は違いました。まるで申し合わせたかのように(本人たちにその気はなかったかもしれませんが)一斉に姿を現したのです。そして、サバンナに横たわる動物の屍肉をもの凄い勢いであさり始めたのです。
数時間後、サバンナの屍肉はほぼハゲタカの胃の中に収まり、腐臭もほとんどしなくなっていました。もう少し時間はかかるかもしれませんが、これでサバンナも元の状態に還ることでしょう。
こんなことがあってから、動物たちはハゲタカの悪口を言わなくなりました。もちろん、ハゲタカは今まで通り身を隠しながらの単独行動をとっていたので、他の動物との交流は相変わらずありませんでしたが、動物たちはどうやらハゲタカの存在価値を認めたようでした。
一方のハゲタカはと言うと、そんなことには関心はない、と言うかのように、今日も屍肉を探して上空を旋回しているのでした。