ユナイトファイト
02
「フューリータワー。こちらフレイヤ1。
離陸の許可を願う」
『こちらフューリータワー。許可する。気をつけてな』
離陸許可を受けて、エスメロードはスロットルを全開にし、操縦桿を引く。
J79ターボジェットエンジンの轟音が響き、F-5Eがゆっくりと滑走路から離れていく。
「こちらニアラス。アールヴ先行されたし。
経験者に手本を見せてもらう」
『アールヴ了解。ちゃんとついて来いよ』
ジョージの愛機であるF-15Jがゆっくりと前に出る。
彼の機体は、翼の付け根に一直線に赤いラインが引かれている。派手だがおしゃれといえた。
なお、本来なら中尉であるジョージが、大尉であるエスメロードに対等な口を聞くことは許されない。
だが、年齢はジョージの方が上だし、何より実戦経験のないエスメロードにとっては先輩だ。
威張るより学ぶべき。それをエスメロードは心得ていた。
『こちらAWACS。各隊注意。敵ミサイルの射程内に入る』
上空のE-767から通信が入る。
(こんな寄せ集めの部隊だが、文句は言えないか)
エスメロードは窓の外を見て嘆息する。
F-15JやF-2といった機体に混じって、F4-EJやF-1、Mig-21といった骨董品が散見される。
アキツィア自衛軍は、前世の世界で言えば日本の自衛隊とほぼ同じ装備だ。
だが、数合わせを行うために、現用の機体に混じって第二、第三世代のジェット戦闘機が運用されているわけだ。
(よく動いてるもんだ)
そう思わずにはいられない。
さらに言えば、傭兵パイロットが用いられるのも数合わせの意味合いが強い。
アキツィア自衛軍の弱点として、戦時に戦力となる予備役軍人が少ないことがある。
予備役軍人の少なさは、戦時の補給兵站や後方支援の脆弱さに直結する。
そればかりか、戦力の絶対数の不足という根本的な問題を生む。
それらの弊害を防止するためには、素性や忠誠心は怪しいが、腕は確かな傭兵や外人部隊に頼らざるを得ないのだ。
『ミサイル警報』
E-767から警告が入るが、エスメロードもジョージも全く問題としていない。
ミサイルというのはそうそう戦闘機に追従できるものではない。
射程距離ぎりぎりで撃っても当たるものではないのだ。
「やつら素人か?」
Tu-95爆撃機の護衛についているMig-21の部隊は、こちらがまだロックオンもしていないうちに回避行動を取り始める。
しかも、アフターバーナーがどう見ても吹かしすぎで、爆撃機の護衛やこちらへの攻撃を放棄しているとしか思えない動きだ。
『ニアラス。構うな、爆撃機だけを狙え。
やつらの撃ち方じゃどうせ当たらん』
「了解だ。ロックオン。
FOX2!」
エスメロードはAIM-9の安全装置を外すと、戦闘の爆撃機のエンジンにHUDの照準を定めて発射する。
すでに高速で爆撃コースに乗っている爆撃機に回避のしようがなく、ミサイルは爆撃機のターボプロップエンジンを直撃する。
「FOX3」
すれ違いざまに、隣のエンジンも機銃で撃ち抜く。
バランスを失った爆撃機は弧を描きながら堕ちて行く。
4発機は、エンジンがひとつやられた程度では墜落しない。
だが、片側の2発を破壊されると、機体を水平に保つことは不可能になる。
『FOX2!』
ジョージがさらに1機の爆撃機を撃墜する。
『気をつけろ、ロックされている』
E-767から警告が入る。
後ろにMig-21が回り込んでいるのだ。
「ふん、着いてきてみるがいい」
エスメロードはアフターバーナーを焚いてF-5Eを急旋回させる。
Mig-21は双発のJ79のパワーとエスメロードの対G特性に全くついて行けず、たちまち置いてきぼりを食らう。
「いい調子じゃない」
エスメロードは高揚していた。旧式のF-5Eに乗せられたときはどうなることかと思った。
だが、エンジン出力の割りに軽い機体は、非常にコントロールしやすい。
『ニアラス、敵機が密集陣形を取ってくるぞ』
「学習したようだ」
さすがにこれ以上爆撃機をやらせるわけにはいかないと、デウス軍のMig -21は危険を覚悟で密集し防御陣形を張る。
「アキツィア地上部隊。予定通り頼む。敵戦闘機が邪魔だ!」
『こちらグリズリー。予定通りと言われても…。
こっちも攻撃を受けているんだぞ!』
陸軍混成部隊の指揮を執るケンが、慌てた声で無線応じる。
声に混じって、無線から爆発音や砲声が聞こえる。
「撃墜しなくていい。戦闘機を追い払ってくれればいいんだ」
『わかったよ!終わったらおごれよ!対空支援射撃、開始する!』
ケンの号令とともに、対空戦車の砲撃や対空ミサイルが地上から敵に浴びせられる。
練度の低いMig-21部隊の密集陣形は、たちまち破綻してしまう。
「アキツィア全飛行隊、爆撃機に攻撃集中!」
エスメロードの号令に応じて、アキツィア空軍の飛行隊が一斉に残ったTu-95に対してミサイルを放つ。
頼みの戦闘機が地上からの放火から逃れるのが精一杯では、爆撃機は裸も同然だった。
Tu-95の巨体が次々と火の玉となって落ちていく。
『こちらAWACS。
敵爆撃部隊の7割を殲滅。残りは撤退して行く。
任務完了だ。よくやってくれた』
「了解。
陸自の地上部隊には支援感謝す。
ミッションコンプリート。RTB!」
『初陣の勝利おめでとう。さすがだな』
帰還を宣言するエスメロードに、ジョージがねぎらいの言葉をかける。
(教え子が優秀だと嬉しいのかな)
そんなことを思いながら、エスメロードはF-5Eを翻して基地への帰路を急ぐのだった。
かくして、フューリー基地攻防戦はアキツィア軍の勝利に終わるのである。