命は花火のごとく
03
フューリー基地上空に上がったフレイヤ隊とブリュンヒルデ隊は、接近する所属不明機に対して、けん制射をかけていた。
5発の99式空対空誘導弾が放たれ、光の尾を引いて飛翔していく。
だが、距離が遠すぎた。
99式はいずれも回避される。
(だが、取りあえずはそれでいい)
陣形が乱れた敵のF-16Dの部隊にアフターバーナーを吹かして肉薄。
「FOX-2!」
そのまま04式空対空誘導弾で撃墜していく。
欲をかいて対空ミサイルだけでなく、誘導爆弾まで装備していた4機のF-16Dは、暴れ回るフレイヤ隊とブリュンヒルデ隊の敵ではなかった。
3分としないうちに、4機の部隊は全滅していた。
「敵戦闘機の壊滅を確認!
各機、次は敵爆撃部隊だ。基地をやらせるな!」
『ブリュンヒルデ1コピー』
エスメロードは無線に呼びかけて、F-15JSの照準を所属不明のSu-24に向ける。
遠目にも大柄な可変機の姿はよく目立つ。
映像を拡大してみると、誘導爆弾を積めるだけ積んでいるようだ。
(やつらを通してはならない)
エスメロードは決意を新たにする。
地中貫通型の爆弾が全て降り注げば、フューリー基地は地下壕まで破壊され、完全に機能喪失する危険があった。
『こちらAWACS。
西北西より新たな機影を確認。所属は不明。
敵と見て間違いない。フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊、交戦せよ!』
「こんなときに…!」
エスメロードは舌打ちする。
E-767から通信が入ると同時に、嫌なタイミングでレーダーに新たな機影が映ったのだ。
『赤外線反応はあるのにレーダーの反射が小さい。
ステルス機のようです』
「わかっている。ショートレンジでしとめるぞ!
ブリュンヒルデ隊、援護せよ!」
『ブリュンヒルデ1ラジャー』
エチャードの具申を受けたエスメロードは、フレイヤ隊が先行することを即決していた。
この場合、ステルス性能の高いF-15JSとF-35AJが接近戦を挑み、F-2が支援するのが一番まっとうな手段だ。
ステルス性能の劣後は、中、近距離での分の悪さに直結するからだ。
『目視で確認。J-31です』
「廉価版と侮るな!なかなかの機動性だ!」
ステルス性能と機動性に優れる戦闘機同士の撃ち合いは、長射程では決着がつきにくい。
接近戦に持ち込むと、目視で敵機の姿をとらえられる。
ステルス性能の高い戦闘機は往々にしてどれも似たような形になるが、幅が広く前後に若干短い、そして双発であることからJ-31とわかる。
「ちっ!ガンレティクルの反応が悪い!」
『赤外線と光学映像の誘導を優先!』
格別尖ったところはないが、ステルス性能と機動性のバランスに優れるJ-31は厄介な相手だった。
全く補足できないわけではないが、こちらの火器官制の反応と対処が遅れている。
「FOX-2!」
『FOX-2』
それでもなんとかエスメロードとジョージはJ-31を照準に捉え、04式を発射する。
戦闘機のパッシブレーダーはごまかせても、ミサイルのアクティブレーダーを欺罔するだけのステルス性能はなかったらしい。
2機のJ-31が炎の塊となって落ちていく。
だが、残りの2機が厄介だった。
(この機動性どこかで…?)
エスメロードはドッグファイトを行いながら、敵の動きに奇妙な既視感を覚えていた。
『注意、レーダー照射を受けている!』
AWACSの警告と同時に、コックピットのアラートが響く。
「ち…!やるじゃない」
J-31の1機がいつの間にか後ろに回り込んでいたのだ。
『任せろ!』
その声と、一瞬視界の外に見えた青い迷彩の機影にぎょっとする。
「よせ!ブリュンヒルデ1、危険だ!」
今まで援護に徹していたガートルードのF-2が、いつの間にか接近戦に割り込んでいたのだ。
『ティブロン1、注意!もう1機ついて来る!』
『やるじゃないか』
J-31のパイロットは賞賛を発しながら、エスメロードの追跡を諦めて回避機動を取る。
『まずい!後ろを取られる!』
ガートルードは、後ろを取ろうとする敵から急降下で逃げ切ろうとする。
だが、J-31の方が一枚上手だった。
追い越しざまに放たれた対空ミサイルが、近接信管を作動させ、F-2が炎に包まれる。
『隊長!』
「ブリュンヒルデ1!脱出を!」
ニックとエスメロードの言葉も空しく、ガートルードのF-2は火の玉となって落ちていく。
『ニアラス、自分を投げ出すな。それだけでいい!』
無線からそう聞こえた言葉が、ガートルードの遺言になった。
F-2が空中で爆発四散し、粉々になったのだ。
「ちくしょう!」
また自分の大事なものが、指の間から砂のようにこぼれ落ちていく。
だが、エスメロードは不思議なほど冷静だった。
(今はこの怒り、敵にぶつけるだけ)
そう断じ、一度距離を取ろうとするJ-31を猛追する。
『イーグルの改良型、いい動きをする』
無線から聞こえる敵1番機の声は、こんな状況にもかかわらず気色ばんでいた。
「なに?まさか!?」
ひねり込みから一気にダイブをかけ、こちらとクロスした瞬間、はっきりと見えた。
J-31の機首には、シャークマウスのノーズアートが描かれていたのだ。
こんな時代遅れなことをする部隊を、エスメロードは一つしか知らなかった。
「おい、アントニオ・モラレスだな!?」
『なに…?』
エスメロードは、アンジェラが持っていたビラに書かれた名前を呼んでみる。
敵1番機の動揺は肯定の証だった。
(間違いない。こいつはアンジェラの夫だ…)
忸怩たるものを感じながらも、エスメロードは追跡の手を緩めることはなかった。
誰であろうが、向かってくるなら敵だ。
例えそれが旧友の夫であっても。
「許せアンジェラ!みんなを守るためだ!」
すさまじいGに逆らいながら、エスメロードはJ-31をHMDの照準に入れる。
身体がシートに押しつけられ、対Gスーツが下半身に食い込む。
「FOX-2!」
04式が放たれ、獲物を追う猛禽類さながらにJ-31に追いすがる。
J-31はフレアを発射しながら回避行動を取るが、04式の機動性と索敵能力からは逃れられなかった。
04式は右エンジンに直撃し、炸裂する。
さらに右エンジンの火が左エンジンに延焼し、一瞬のちJ-31は爆発四散していた。
双発のエンジンが隣接しているため、片方が出火するともう片方のエンジンに飛び火してしまう欠点は、根本的には改良されていなかったらしい。
『捉えた!食らいやがれ!』
残った1機も、リチャードが放った04式に食らいつかれ、燃えさかりながら落ちていく。
ドッグファイトは、ガートルードを失いながらも、フレイヤ隊とブリュンヒルデ隊の勝利に決していた。




