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85話

「……おいロイ! 私とやりあった時には手を抜いていたな!? なんだそれは、あの時とは格が……違うように、感じるぞ……ッ!」


「うるせー、こっちにも事情って物があんだよ!? っておいエリシア、切るなら、最後まで、切っとけやぁぁあああああ!?」


 エリシアの一閃が黒竜を尾を切り裂いた――が、余りにも鮮やかな切断面ということもあり、驚異的な再生力を誇る黒竜は直ぐにそれを治してしまう。その結果、凄まじい勢いでロイが尾を叩きつけられ軽く吹き飛ばされていった。


「……こ、こんの、ポンコツがァ!?」


 強靭な鱗に抉られる寸前、片手に担っていたシリウスでどうにか尾を止めたロイ。だが竜の圧倒的な力の前では踏ん張りなんて効くわけもなく、呆気なくマリアが立ち竦んでいる後方まで吹き飛ばされていく。


「おい聖女様、いい加減下がってやがれ! 足手まといなんだよタコ!!」


 強い言葉を投げても反応がない。ちっと小さく舌打ちすると、ロイは聖女様を放置し、青い稲妻の出力を上げて勇猛果敢に再度一歩を踏み出した。どうせ背後には守るべき町があるのだ、聖女様が立っている位置にまで来られたら殆どゲームオーバー。なら一歩でも前に進むべきだと考えたのである。


「もう少し、集中できる時間と、剣があれば――!」


 どこか悔しげに頬を歪めたエリシア。エリシアは剣と剣の戦いであれば唯一無二の強さを誇るが――相手が我武者羅に攻撃を繰り出してくる相手、それが最強の種族といっても過言ではない竜であっては流石に後手に回らざるを得なかった。

 繰り出される鋭利な爪、強靭な尾による一撃――並大抵の相手であればいなして攻撃に転じる事ができたが、信じがたい再生力と体力のせいでエリシアであっても不意に前に出る事ができない。剣に愛されたエリシアの数少ない弱点の一つともいえた。


 一方でロイといえば、次々と巨躯から振るわれる暴威の数々を剣で受け流し、そして時には自らのアビリティで爆発的に上昇した肉体性能任せで無理やり払い除けたり、勇猛果敢に――悪く言えば猪突猛進にただ前へと進んでいた。


「……ロイ、それでお前は持つのか?」


「馬鹿言うな、超痛いから持たない……っとと、クソ、マジでとんでもない再生力だな」


 頭すれすれを掠めた黒い尾の先に内心で冷や汗を流しつつ、紫電を纏ったロイは更に一歩、前へと踏み込んだ。


「おいエリシア、集中できる時間って何秒あればいい」


「十秒でいい。それだけあれば――私が必ずあれを殺す。幽霊家業していた時と違って、少し魔力の引き出し方が違うみたいなんだ」


 あいさ、とロイは頷くと――あろうことかノーガードで大きく黒龍へと飛び込んだ。それを好機とばかりに、飛び込んできたロイを噛み殺さんと鋭い牙の並んだ口腔を向けてきた黒龍。それを待ってました、とロイは両腕に馬鹿げた量の魔力を掻き集める。

 そして、ばちばちと紫電が爆ぜ、両腕の血管が異様なほどに浮き上がり――狭まるその牙をその両手が受け止めた。右腕は上顎を、左腕は下顎を。無論、こんなことは誰にでもできる芸当ではない。不退転の決意というアビリティを保有するロイだからこそできる業だ。


「さ、流石に、腕が、持たな……! いいぜいいぜ、盛り上がってきたァ!」


 勝手にテンション上げたロイはそのまま無詠唱で目の前に広がる龍の口腔内へと雷撃を放つ。重い咆哮を龍が上げ、大きく仰け反った。その隙を狙ってロイは大きく右腕を引き下げると――ただただ力任せにそれを振りぬき、黒龍の首となる部分を穿ち抜く。衝撃と爆音が走り龍が吹き飛ばされ大地を転がっていった。


「そ、そろそろ十秒だぞエリシア!?」


「――任せろ」


 真打様よろしく頼むぜ、とロイは溜息を零すと万が一の際を考慮して再度吹き飛んでいった黒龍に対し、剣を正中に構えて向き合う。その背後ではエリシアが、白銀に煌く刀を天に捧げるように突き上げ、狂気的な笑みを浮かべながら真紅のパーティ・ドレスを溢れる魔力の奔流に翻していた。


「来い――」


 ただそれだけだった。エリシアが一言命じただけで――がたがたとロイの腰にぶら下がっていた黒曜石の剣、レグルスが。そしてロイが構えていた筈の剣、シリウスが。まるで主はお前ではなくあの方だ、そう言わんばかりに震えだす。ちょっと待て、そんな言葉さえ発することができないほどの刹那。その二振りはロイを離れ、エリシアを主として認めたとばかりに虚空に蒼い軌跡を描いてエリシアの元へと飛来する。


「何する……って、おいおい、マジかよ」


 異議を唱えようと背後を振り向いたロイが見たのは――流星だった。蒼く星のように輝く剣の流星群だ。街の中から、そして外壁から、あらゆる箇所から剣が飛来したのだ。それらは自らの主に力を貸そうとばかりに溢れる魔力を携えていた。その剣はエリシアの上空まで飛来すると高速で円を描き、次なる命令を待つ。

 これ以上ないほどに剣に愛された天道剣聖。全ての剣はただ彼女の為に。

 エリシアが自身の虚弱体質が故に今まで一度さえ花開かなかった秘奥であった。

 そして、都合百は超える剣をエリシアは自身の周囲に侍らせて――ただ一言、命じる。


「さぁ、仕留めようか……!」


暫く私事で更新が大幅に遅れています

申し訳ありません

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